彩花一過
朝と晩の食事をしなくなって数日。さすがに次郎のやつれ具合に皆が気付いた。
「おまぁどうしたなぁ?」
「なんじゃあ? 金がねぇ?」
「そんだら前借りさしてもらえぇ」
「おめぇもついてねぇのぉ」
もちろん次郎は前借りなどという言葉もシステムも知らなかった。次の給料日まで一日一食で暮らすつもりだったのだ。
ちなみに、同僚達が勘違いしていることが一つある。それは被害額の大きさだ。次郎のだいたいの給料額は想像がつく。頭が月に一割仕送りするよう言ったことも知っている。そして次郎の慎ましい暮らし。酒もタバコもギャンブルも、何もやらないのだから。
つまり、かなりの額を盗まれた。もしくは銀行から引き出されたと思っていたりする。
そう思ってはいても、誰も次郎に金を貸そうとは言わない。仕事上のことは親身に助けるが、それとこれとは別なのだ。
それでも、金を盗まれた上に誘拐犯にされそうだった次郎に皆は同情的だった。次の日から米や野菜など食材をあれこれと次郎に渡すのだった。
その結果、結局前借りをせずともよくなってしまった。それどころか頭からも冷凍された猪肉を大量に貰う始末だった。
次郎は……もしかして彩花が来たからみんな優しくしてくれたのかと的外れなことを考えていた。