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彩花の匂い
警察署にて。
頭の説明により警察側も納得したらしい。何より次郎と話してみて、話にならないということが伝わったのは大きかったようだ。
警察署を後にする二人。
「危なかったぜぇ。おめぇもう少しで誘拐犯になるとこだったぜ?」
そう言われても何のことか理解できない次郎。首を傾げていた。
「まあええ。せいぜいリンゾーに感謝しとけ。もしあの女がまた来たらすぐ言えぇのぉ。」
もちろんだと返事をする次郎。そのままアパートに帰り、寝た。布団から薫る彩花の匂いが、少しだけ次郎の心に波風を立てた。
なお、あちこちの引き出しが開けっぱなしだったことに次郎は違和感すら抱いていない。何も考えず閉めて、終わりである。
なお、次郎にとっての貴重品とは白浜組に入ってからの給与明細と祖母への仕送りの明細である。
給料の大半を仕送りする次郎なのだ。部屋に現金などほとんどなく、通帳も持っているが残高はほぼない。さらに言えば生活費は全て財布に入れているが、昨日の散財のせいでもう残ってない。
もしかしたら彩花が逃げ出した理由は次郎の貧しさが嫌になったからかも知れない。