次郎と結婚
仕事が終わり、事務所に戻った次郎。別の現場に行っている頭はまだ帰ってきていなかった。
もう一時間ぐらいだろうから風呂にでも入って待ってたら、と奥さんに勧められる。だから何も考えず入浴する次郎。
五分後、お約束のようにそこに現れたのは羽美だった。湯船の外で体を洗っている次郎。隣に座り体を洗い始める羽美。どちらも無言だ。
どこか気まずいような思いをしているのは羽美だけ。次郎は何食わぬ顔で体を洗い続けている。そして湯船へと移動する。一日の疲れが湯に溶けていくかのようだ。
次郎が風呂に浸かれば羽美も隣へとやってきた。
「じろー、結婚するの?」
いきなりの質問。小学生らしくもある。
だが次郎に答えられるはずもない。ないのだが、結婚という言葉は次郎にとっては不思議な響きをもたらしたのだろうか。珍しく真剣な表情をしている。
「その人……きれいなの?」
次郎の表情をどう勘違いしたのか、羽美は質問を続ける。
彩花の外見は間違いなく美人である。だから次郎も自分で思った通りに返事をする。
「ふーん……美人なんだ……」
それっきり会話が終わり、羽美が先に風呂を出た。




