彩花の入浴
「まあまあね。」
そもそも肉がいいのだから誰が焼いてもそれなりに美味しく食べられるはずだ。無表情で肉を頬張る彩花を見ながら、次郎は冷えた肉を食べていた。それでも次郎にとってはかなりのおいしさだった。
「お風呂、入りたいわ。」
次郎はいそいそと浴槽のお湯を沸かす。だいたいお湯は三日に一回入れ替えることにしている。今日は二日目だ。
「ちょっと! そんな汚いお湯なんか入れないわよ! 新しく入れなさいよ!」
入る前に様子を見に来た彩花。もうすぐ沸く頃になって。
「狭いし、よくこんな所で生きていけるわね。」
次郎には何の不自由もない部屋である。藤崎家のような豪邸と比べたら世の中のほとんどの家は犬小屋のようなものなのだが、彩花には分からない。
彩花が風呂に入ったのはそれから三十分後だった。なお、シャンプーがない、何々がないと文句を言っていたが、次郎に買いに行かせることはなかった。最低限の分別があったからだろうか。いや違う。愛用のシャンプーなどの一式がこんな街に売ってるはずがないと無意識に見下しているからだ。モナコ王室御用達という名前だけで選び、日本人である自分の髪質に合っているかどうかなど気にもしていないくせに。
ようやく彩花が出てきたので自分も入ろうとする次郎だったが。
「服と下着がないわ。買ってきて。」
バスタオル一枚を身体に巻いて彩花が言った。




