次郎と祖母
どうしていいか分からず固まっている次郎に有無を言わせず話しかける彩花。
「お願い……匿って欲しいの……迷惑かけないから……」
かくまって、の意味が分からず硬直が解けない次郎。
「ねぇ、次郎はどこに住んでるの?」
いきなり話が変わった。しかし、それは次郎にとっては返事ができる質問だった。
「もしかして、そこってここから近いの?」
そうだと答える次郎。
「じゃあ! お願い! しばらく置いてくれない? 私、何でもするから、ね? お願い次郎!」
お願いと言われると断らない次郎。今からスーパーに夕食の買い物に行く旨を伝える。
「じゃあ私が何か作ってあげる! ね、任せて!」
これでも次郎は自炊をしている。朝食はおにぎり、昼の弁当は頭の奥さんの手作り。夜は焼き飯や焼きそば、焼うどんなどだ。
さて、彩花が次郎の金で買ったのは厚いステーキ肉だった。野菜はない。たった二枚で次郎の一日の稼ぎが消える値段を、何の躊躇いもなく選ぶ。庭師の頃に比べて三倍は稼いでいるとは言え、決して裕福な暮らしはしていない。
なぜなら家賃や生活費以外のほとんどを祖母に仕送りしているからだ。庭師時代に仕送りをするという発想すらなかった次郎だったが、白浜組の頭に言われて仕送りをするようになったのだ。
もっとも、頭は『一割』と言ったのだが次郎に一割が計算できるはずもなかった。