次郎とわり算
その記憶のせいでどうしていいか分からなくなった次郎。あたふたとするも、判断がつかない。
「ちょっとー、早く洗ってよー!」
何も分からなくなってしまい、そのまま風呂から飛び出した。しかしそこで……
「ちょっと次郎! あんた風呂入ったんじゃないん! きちっと洗ってきいね!」
裸の次郎は頭の奥さんからそう言われてしまった。確かにシャンプーもまだだし、顔も洗っていない。一目で分かるほどに汚れているのだから。
言われたらその通りに行動する次郎。自分の体を洗うことは彩花の言葉を違えたことにはならない……次郎はたぶんそう思ったはずだ。
風呂場に戻り、ぶーぶーと文句を言う羽美を無視して自分の体を洗った。そしてそそくさと湯船を出るのだった。
そして夕食時。
「じろーひどいんよ! わり算間違えたから罰で洗ってもらおうとしたら無視して出るんやから!」
「あんたもいい加減次郎と入るのはやめんとね。もうお姉ちゃんなんやから。」
母親にそう窘められても羽美にはどこ吹く風だ。おそらく何でも言いなりになる次郎が面白いのだろう。そんな次郎が言うことを聞かなかったものだからムキになっているのかも知れない。
「なんじゃ次郎、わり算間違えたんか! ダメやのぉ! また羽美にしっかり教えてもらえぇのぉ!」
父親である頭はどう思っているのか。事件が起こってからでは遅いのだが。
そして夕食後、羽美の部屋で弟を交えてわり算を教わる二人。まだかけ算を途中までしか覚えていない海には難しいのだろうが羽美は気にせず進めている。
次郎は二桁÷一桁、それも九九にある数字なら計算できるのだが、39÷7などのように馴染みのない数字や余りの出る数だとお手上げだった。
なぜかそこに現れたのは羽美の父親、頭だった。珍しいこともあるものだ。
「えぇか次郎。ここにバークの袋があるぅ思えや。一段に七つ積んでみい。そんだら二段でなんぼかぁ?」
それなら次郎にも分かる、十四だ。
「やろうがよ? なら三段、四段と積んでみいや? 何段まで行けるよぉ?」
これもどうにか分かる。五段積んだ時点で三十五なのだ。
「分かってるじゃねぇか。五段積んで、なんぼ余ってんだぁ?」
これもどうにか数えることができた。四だ。
「そういうことじゃあ。やけえ39÷7は5、余り4じゃあ! 分かったのぉ?」
こくこくと首を縦に振る次郎。なお、バークとは昼間に次郎がベルトコンベアーに流した土の別称である。