フラッシュバック
「じろー、七の段を言ってみてよ?」
羽美に言われるがままに暗唱する次郎。どうやら七の段は完全にマスターしたようだ。
「やっぱりバッチリやね! なら今度はわり算を教えてあげるね!」
次郎にもわり算の記憶はある。伊達に高校は卒業してないのだ。ついムキになってわり算ぐらいできると豪語する次郎。
「えぇー? 本当ぉ? じゃあ45÷9は?」
やや逡巡したものの、見事5だと答えることができた。
「ふーん、じゃあ169÷13は?」
いきなり難易度を上げた羽美。暗算でやるにはいささか意地の悪い問題である。
案の定答えに窮した次郎。
「だめじゃん! こんな問題も分からんのー? 答えは13だよー!」
なお、次郎は169÷13が13だと分かっても、13×13が169だと分かっていない。
「じゃあ罰ね! 私の髪洗って!」
言われるがままに羽美の髪を洗う次郎。どうやらシャンプーが少なすぎたようでほとんど泡立ってない。目をつぶっている羽美はそれに気付いてないようだ。手つきの悪さ以外は。
「じろー下手! 次はリンスよ!」
シャンプーとリンスの違いなど分からない次郎。シャンプーと同じように手を動かしている。
「リンスはもっと優しくするんよ! 頭皮に触れないように!」
慌てて上からお湯をかける次郎。水に流してしまおうと考えたらしい。
「そうそう。リンスは早く流すのが大事なんよ。」
そんな羽美を尻目に自分もシャンプーをしようとする次郎。
「ちょっとじろー! まだよ! 私の体も洗うんよ!」
やれやれと石鹸を手に取った時、不意に次郎の頭に古い記憶が蘇った。
『自分以外の女の言うことをきくな! 自分だけに奉仕しろ!』
藤崎家の三女、彩花の言葉だった。