次郎の仕事
それから次郎は真面目に働いた。庭師の頃と何も変わらないことではあるが。
やがて一ヶ月が経ちアパートも決まった。白浜組から自転車で十五分の距離だ。しかし相変わらず仕事の後は白浜組で風呂に入り夕食を食べることに変わりはなく、九九もしっかり習熟していた。
そして今日も現場へと向かう次郎。
「おし、次郎はここでベルコンが動き出したら袋を二つ入れれ。もしカッターを落としたらすぐ言えぇの! ええのぉ!?」
ガンさんと呼ばれる男から指示を受ける。一列に三つ並んだベルトコンベアー、そこに沿って山と積まれた袋。内容量は四十リットル、表には『ZXソイルRファクター4』と書いてある。それをカッターで切り開いて、ベルトコンベアーの流れに合わせ入れるだけの単純作業のようだ。
ベルトコンベアーの行く先には巨大な鉄の塊『ガン』と呼ばれる機械があった。それが何なのか次郎には分からない。
プシューと大きな音がするとベルトコンベアーが動き始める。そうすると次郎ともう一人が袋の中身である土を投入する。高く積んである袋を下方へ落とすだけで済むので酷く簡単である。
しかし、次郎が苦労したのはそれからだった。
袋が五十溜まったら一袋にまとめておけ、と言われたのだ。
つまり、空の袋を四十九集めて、一つの袋に入れればいいのだが……
袋が嵩張るだけで何度数えても数えきれない。なぜなら数える最中にベルトコンベアーが動き出すからだ。その度に袋が二つ増え、また一から数えているためだ。次郎に十ずつまとめようという考えはない。
悪い時に悪いことは続く。ベルトコンベアーが動き出したために袋を開けようとしたら、カッターが見当たらない。あわあわと周囲を探すが無情にもベルトコンベアーは流れる。袋の中身を投入しなければならないが袋を開けられない。しかも袋は散らばっている。とうとう次郎は動きを止めてしまった。
「おう次郎ぉ! 次入れぇや!」
隣の男から言われるが返事もできない次郎。
「ん? おめぇカッターどねぇしたなぁ!? まさか流したんかぁ! ボケぇ! ガンさーん! ベルコン止めてやぁ! カッターが流れたかも知れんでぇ!」
「あぁマジかぁ! おし、止めるわ!」
次郎を除く二人の男は慌てて対処をしているが、次郎は動きを止めたままだった。