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一朗と勇次郎
『まずいことになってるぞ一朗』
弁護士の丘野は警察署を出た後、すぐに公衆電話から瀧川一朗に連絡をした。
『そうか。どんな感じだ?』
『サインしちまってる。だが、まだ戦える目はある。接見拒否されたからな。明らかに不当だ。何にサインしたか本人も分かってないしな』
『それはそうだろう。そんなサインに価値などあるものか』
『問題はまだある。彩花ちゃんに付いた弁護士だが……辻だ。あのジジイは先代の頃から藤崎家のお抱えだからな。あいつは少しばかり厄介だ』
『ん? 辻だと? もしかして辻 剛次か?』
『さすがに知っていたか。あいつは勝つためなら何でもするタイプだ。少しばかりまずいぞ……」
『いや逆だ。あいつが担当するならどうにでもできる。そっちは俺に任せておいてもらおう。お前は次郎のことを全力で頼む』
『さすがだな一朗。あのジジイの弱みでも握ってるのか。分かった。こちらは何とかする』
『すまんが頼むぞ勇』
瀧川一朗と丘野勇次郎。二人は大学の同期らしい。