罠
取り調べ室から出るのに次郎に手錠はされていない。もちろん腰紐もかけられていない。トイレに行きたいなどと思ってもない次郎だが、若い警部に小声で歩けと言われたために、素直に歩いてしまう。
「ええ、トイレはこちらですよ」
若い警部は時折わざとらしく声をあげる。まるで誰かに聞かせているかのように。
そうして次郎はトイレへと到着した。
「五分だけ待ちますので急いで出てきてくださいね」
そもそも便意などないのに。そんな次郎を個室へと押し込む。意味が分からない次郎。おろおろと狭い個室内を歩き回る。もちろん何の解決にもならない。
仕方なく出ようとするも、扉が外から押さえつけられているらしく開く気配はない。急げと言われたはずなのに閉じ込められた。もちろん次郎でなくとも理解できない状況だろう。
次郎にできることは……ドアをひたすら押すことだった。ドアの反対の壁に足をかけて力を込めれば、ドアがほんの少し動くことが分かった。
だから次郎は渾身の力を込めてドアを押した。
すると……ドアを押さえていたであろう若い警部は吹っ飛んで、壁に頭をぶつけた……
「おっ、お前! 何してやがる! さてはトイレに行くふりをして逃げる機会をうかがってたな! おいっ! しっかりしろ! 大丈夫か!」
タイミングのいいことに中年の刑事が来ている。
「誰かぁー! 来てくれぇー! 白田が大変だぁー!」
そう大声で叫んだ。