偉丈夫の背中
「なあ次郎。お前にも故郷にお袋さんがいるよなぁ。たまには帰ってやってんのか?」
故郷? お袋さん? いきなり話が飛んだためか、やはり次郎には理解できていない。うっすらと祖母の顔が頭をよぎったぐらいだろう。
「お袋さんを悲しませるような真似なんてするもんじゃないよなぁ。やっぱ人間はお天道様の下を胸張って歩かないとなぁ?」
お天道様が太陽ということぐらいは次郎にも分かる。それが胸を張って歩くこととどう関係あるかは分からない。ただ、なぜか次郎の脳内にあの時の頭の背中が思い浮かんだ。初めて会った次郎を拾い、線路を堂々と歩くあの偉丈夫、白浜倶天の後ろ姿が。
そうするともう一つ思い出したことがある。彼の言葉、何かあればすぐ電話しろ、ということだ。
キョロキョロと電話を探す次郎。もちろんそんなものがあるはずもない。
「どうした? 困ったことがあるなら言ってみな。力になるぞ?」
軟禁しておいて、力になるも何もないだろうに。
そんな中年刑事の言葉など耳に入らないのだろう。次郎はふらふらと広くもない室内を歩き回っている。電話を探しているのだろう。
「黒さん、お待たせしました!」
若い警部が戻ってきたのはそんな時だった。