白浜の姉弟
「ほら、さっさと入るよ!」
「う、うん……」
そこに居たのは小学生らしき女の子とそれよりも小さい男の子だった。
「私、白浜 羽美。お兄ちゃんは?」
やはりたどたどしく滝川 次郎だと応える。
「ほら、あんたも自己紹介しなさいよ。」
「白浜……海……」
最低限のコミュニケーションは済んだと二人は体を流し、湯船に割り込んできた。三人で入ってもどうにか余裕はあるが、次郎は身を小さくしていた。親戚の子などと風呂に入った経験もないため、どうしていいか分からないのだ。
「にいちがに、ににんがし、にさんがろく……ほら、あんたも言いなさいよ。」
「にいちがに、ににんがし、にさんがろく……」
どうやら姉は弟に九九を教えているらしい。次郎も一緒になって声を出す。
「ほら、じろーはバッチリできてるじゃん! あんたも頑張りぃよ!」
「う、うん……」
嬉しくなって三の段も口に出す次郎。
「うわ、じろーすごい。三の段も言えるんだ。ほら、あんたも!」
ますます嬉しくなった次郎だが、とうとう七の段でつかえてしまった。
「あーあ、海と一緒に練習がいるね。あんたもじろーに負けんじゃないよ!」
「う、うん……」
羽美はいつの間にか「じろー」と呼び捨てにしていた。次郎もそれを不快に感じることはなかった。