謎の邸宅
覆面パトカーが到着した。そこは広い庭を持つ邸宅だった。
「さっさと来い!」
「もたもたすんな!」
明らかに警察署ではない場所に連行されても、次郎には状況が理解できない。そもそも逮捕状だの殺人教唆だの言われても理解できていないのだから。
連れていかれたのは物置きのような狭い一室。古びたテーブルが一つだけ置かれている。
「さあ吐け! お前がやったんだろう! そうだな!」
「いいからさっさとこれにサインしろ! そしたら帰してやるぞ!」
それはいわゆる供述調書だった。このような場所、このような方法で得た供述調書にどれほどの効力があるものか。
だが、次郎はサインをしない。次郎にしては珍しく、ペンを握ろうともしていない。
「反抗的な態度だなぁ? 出来損ないの薄ら馬鹿の分際で!」
「お前サインしないと! こうなっちまうぞ!?」
刑事の一人が机を蹴り飛ばした。壁にぶつかり、大きな音を立てる。もう一人は自分が座っていた椅子を持ち上げて床に叩きつけた。次郎が怯えた表情を見せる。
「あーあー、机がなくなっちまったなぁ? 椅子も壊れちまった。器物損壊って知ってるか? どんどん罪が積み上がるなぁ?」
「おらぁ! お前がやったんだろぉが! 藤崎家の令嬢はそそのかすし椅子はぶち壊すし! お前役立たずのろくでなしだなぁ!」
事態はとうに次郎の理解を超えている。次郎には、ただ怯えて身を震わせることしかできなかった。