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来訪者、羽美
夕方、次郎の部屋を訪れる者がいた。
「じろー、いる?」
羽美だ。ここに来るのはいつぶりなのだろうか。
返事を待たずに上がり込む羽美。
「じろー……じろー! な、何してるの?」
次郎は何もしていない。布団に横たわり、ただ真上を見つめている。
「これ、お母さんが持っていけって……」
話しかける羽美に目もくれない次郎。
「ひっ! わ、私帰るから! じゃあね!」
羽美は目にしたのだろう。布団に付着した赤かったであろう血痕を。弁当を手から落として部屋から逃げてしまった。
次郎は、何もせず天井を見続けていた。




