姉妹愛憎
「おう! お前外に出てろ! 救急車が来るから道で待っとけ!」
隣人に言われた次郎は、はっとしたように慌てて外に出た。
「あはははは! もう遅いって! こんなに深く刺さってるんだから!」
「やだやだやだやだやだ! 死んじゃうよ痛いよ! 抜いてよお! 血が出てるよお痛いよおおおおお!」
「うるせえんじゃあ! ええから黙っとけやあ!」
隣人はそう言い放って座り込んだ。
「そんで? なんで刺したなぁ? あいつがこの姉ちゃん連れ込みでもしたんかぁ? あの兄ちゃんかわいい顔してやるもんじゃのぉ?」
「違う! こいつが! 勝手に押しかけてきて! 次郎の料理をゴミって言ったからだよ! すっごく疲れて帰ってきたのに! それでも作ってくれたのに!」
「ほうかよ。別にどうでもええけどの。とりあえずこの姉ちゃんが死んだらお前懲役十五年はくらうのぉ。ええんかあ?」
「ひっ! やだやだやだやだ! 死にたくないよぉ! 痛いのに! 痛いよお! 助けてよお!」
莉奈は床にごろりと転がっている。しかし、床が血まみれ……なんてことはない。
「いい。これ以上次郎に迷惑かけるぐらいなら……私もこいつも…………消えた方がいい!」
「ほぉう? あの兄ちゃん次郎って言うたのぉ。そんなに迷惑かけちょんかぁ?」
「かなり……」
「どうでもいいから! 早くしてよ! 痛いって言ってんじゃん! 助けてよぉ! 死にたくないよお!」
「ええかげん黙れや。でねぇと助かるもんも助からんでえ? 別に俺ぁどねぇでもええけどのお?」
隣人には莉奈がやけに元気そうに見えている。痛がる割に出血は少なく、包丁も半分ぐらいしか刺さっていないのだから。