暴発
莉奈の行動は……彩花をどかせて、電話をかけることだった。イライラしながらダイヤルを回している。
「あーもしもしぃ? 私、莉奈だけどぉ。料理をさぁ一人前、持ってきてよ。あの時のやつ、超美味かったやつがあるじゃん? 住所ぉ? えーっと、彩花! ここの住所を言いな。はい交代!」
「えっ? あ、住所……住所? なんで……?」
「決まってんでしょ! こんなゴミを私に食べろっての!? 冗談じゃないわよ! 早く呼んでよね!」
「ゴミ……? ゴミって言ったの……? 次郎がせっかく作ってくれたのに……?」
彩花の雰囲気が変わった。だが次郎が気付くはずもないし莉奈も見向きもしない。
ゆらりと立ち上がった彩花。広くもない部屋を数歩だけ移動した。
「おーい彩花ぁ? 私がゴミって言ってんだけど何か文句でもあるっての? それとも餌って言い直そうかぁ? いいからさっさと住所を教えてやんな! あんたらにも一口ぐらい食わせてやるからさ! 彩花だってたまにはまともな食事をした……い……え、な、何これ……」
「ね、姉さんが悪いのよ……次郎の、次郎がせっかく作ってくれた料理を……ゴミだなんて!」
「あ、あやか……あんた……姉に何てことを……ああっ、あ……」
莉奈の脇腹には包丁が突き立っていた。もちろん彩花が刺したからだ。次郎は箸を落とし、硬直している。
「私……小さい頃から姉さんに逆らったことないよね。いつも姉さんの言う通りにしてたよね。女の価値は男の数とか、女なら男を支配しろとかさ……その結果がそれなの? ねえ満足? 男は支配できても私は支配できてないじゃん! どうなのよ! ねえ! 何とか言ってみなよ姉さん!」
「き、救急車……よんで……よんでよぉ!」
「呼ぶわけねぇだろ! 死ね! 勝手に上がり込んで好き勝手なことばっか言って! 世の中あんたの理屈で動いてねえんだよ! そんなことも知らねぇから! あんたはここで死ぬんだよざまぁねぇなぁこのアーパーが! あははははははははははははははは!」
彩花の目から……すでに正気の光は失せていた。