莉奈、傍若
彩花の苦悩をよそに夕食の支度を始める次郎。汗と泥にまみれ汚れた、疲れきった体で。本当は風呂に入りたいかも知れないのに。
そんな次郎の手元から目を逸らす彩花。何やら首をぶんぶんと振っている。
「べ、別に何でもないし! ほら、こっちは私がやるから! 次郎はできたら食べて!」
次郎に見つめられ慌ててごまかした彩花。もちろん次郎は、彩花が包丁をただ見つめていたことなど気付きもしていない。単に彩花が激しく首を動かしたから視線を向けただけのことだった。
夕食ができた。野菜炒めにうどんと米が入っている。野菜焼き飯うどんとでも言えばいいのだろうか。
炬燵の上、鍋敷にフライパンを置く。そこから二人は好きなように食べるはず、だった。
「はぁ? ちょっと勘弁してよ! 何よそのクソみたいな餌は! 彩花ぁ? あんたそんなゴミを食べて暮らしてんのぉ? まるで犬じゃん! 正気ぃ!?」
ちょうど風呂から出てきた莉奈が口を挟んできた。水滴を拭いもせず、裸体を隠すこともなく。次郎はそんな莉奈に目を奪われたが……振り切るように料理を口に運んでいる。
「こ、これ、美味しいもん……」
彩花は消え入りそうな声で反論するが……
「ちっ、どきな彩花!」
彩花を押し退けた莉奈は何かを手に掴んだ。




