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傍若無人
「次郎……おかえり……」
「あら、次郎ってこいつだったの。見覚えあるわ。ふーん、相変わらず可愛いらしい顔してんじゃん。」
見知らぬ女、莉奈を前にして次郎は固まっていた。かつて藤崎家で庭師として働いていた身なれば、莉奈のことを覚えていてもおかしくはないのだろうが……
次郎には無理だったらしい。
「何黙ってんのこいつ? 挨拶がないんじゃない? なってないわね。あんたどういう躾してんの?」
「次郎だから……」
「ふーん。まあいいわ。私風呂入るから。上がるまでには夕食の準備しといてよね」
「う、うん……」
次郎の目など気にもせずに衣服を脱ぎ捨てた莉奈。その肉体をどうしても見てしまう次郎。
「ちょっと何よこれ? どうなってるのよ!」
浴室から聞こえたのは莉奈の声。人様の家なのに文句があるらしい。
「冷たいじゃない! さっさとどうにかしなさいよ!」
誰も風呂など沸かしてないのだから、もちろん水風呂だ。次郎が慌てて沸かし始めるのだった。彩花は何もできない。