仕事を終えて
昼からも次郎はのそのそと仕事をしていた。時には休み、時にはハンマーを落としたり。落としたハンマーを拾いに行くのは存外面倒だ。引っ掛けがあるせいでスムーズに降りることができない。
かちゃかちゃと操作をし、やっと降りたかと思えば今度は腰袋の重みが腰にかかり、中々元の位置まで登れない。
そんなことを繰り返し、割り当てられた仕事を終えた時には三時を過ぎていた。他の者がずいぶんと次郎の割り当てを助けてくれてそれなのだ。もし均等に分けられていたらきっと三割も終わってなかったことだろう。
「おーし、おめぇはここらのゴミぃ拾っとけやぁ。そんであっこに集めとけぇ。」
休憩中に次郎達が飲んだ缶がそこかしこに落ちている。それ以外にも金網の切れ端や曲がったアンカなど、上から見るよりゴミは多かった。
「ええかぁ! ラスぅ持って線路ぉ渡る時ぁぜってぇ落とすなぁ! 列車が止まるけぇなぁ!」
次郎に理由は分からない。分からないが落とすなと言われたら落とさないのが次郎だ。自分にとっての聖域を何度も往復するのは不思議な気分だったが偉大な男の命令に従うのは何とも気分が良かった。
やがて他の皆も片付けを終えて頭の元に集まってきた。
「おーし、今日はここまでだぁ! 次の列車が通った後に出るでぇ!」
その言葉を受けて皆は線路脇に座り込み思い思いに過ごし始めた。煙草を吸う者、お喋りをする者。仕事中の笑い話を蒸し返す者、そして次郎に話しかける者。
「おめぇどっから来たなぁ?」
「名前はぁ?」
「歳ぁいくつけぇ?」
無遠慮な言葉の数々が次郎には心地良かった。辿々しくも一つ一つ返事をする次郎。
その時だった。自分のわずか二米前を列車が通過した。よく見ると全員立ち上がっており、列車に向けて手を伸ばした姿勢をとっている。列車が通過する時は動くなと言われていた次郎はどうしていいか分からず、そのままの姿勢を保っていた。そんな皆の姿勢は次郎にとってはまるで敬礼のようで酷く輝いて見えた。
なお、帰り道は何重にも巻かれたロープを何本も肩にかけたため、ワゴン車に到着した時にはやはり汗だくとなっていた。