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藤崎莉奈
そんな莉奈の言葉を彩花は断れない。
昔から彩花はなぜかこの次姉の言うことに逆らえないのだ。
とうとう莉奈は次郎のアパートまで来てしまった。それでも彩花は「帰って」の一言が言えない。そして、ついに中にまで。
「うっわぁ……せまっ……しかも臭いし。彩花さぁ正気? 一体どんな男と付き合ってんのよ?」
「次郎……って覚えてる……?」
「いや知らないって。どこの次郎よ?」
「昔……うちで庭師をしてた次郎……」
「えぇー!? 庭師なんか覚えてないけどさぁ! あんたマジ正気!? うちをおん出てまでさぁ!? なんで庭師なんかと付き合ってんのよ!? こんなの絶対兄ちゃんに言えないじゃん!」
「お兄ちゃんは知ってるよ……」
そう。健二は知っている。彩花がここにいることを。次郎の部屋で暮らしていることを。
「うっそ!? マジで!? よく兄ちゃん黙ってるね!?」
健二は黙っているのか、それともそれどころではないのか。そのあたりの事情を彩花は詳しくは知らない。莉奈は全く知らないらしい。