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彩花の仕事
「次郎! 起きて! 朝だよ!」
今日の彩花は早起きらしく、珍しく次郎を起こそうとしている。普段は次郎の方が先に起きて二人分の朝食を作っているのに。
「おはよ! 朝食できてるよ! 食べて!」
水気の多いご飯。味噌の味が強い味噌汁。焦げた目玉焼き。それらに次郎が文句を言うことはない。耐えているわけではない、そういう味だと思っているだけのことだ。
そうして朝食を済ませた二人は自転車に二人乗りで白浜組まで出勤する。さすがに運転は次郎だ。
「おっ、朝からイチャこいてんじゃねぇぞ?」
リンゾーが二人をからかう。彼とて二十代後半で彼女と同棲している身なのだが。
「イチャイチャなんかしてませーん!」
彩花は意外にも真面目に取り合う。昔の彼女であれば現場の人間なんて召使い以下にしか思ってなかっただろうに。
それから次郎は現場、彩花は美砂から習う事務仕事と、しばしの別れとなる。車に乗って遠ざかる次郎を少し寂しそうに見つめる彩花であった。