一朗と一哲
一朗は納得のいかない顔で荒々しく酒を喉に放り込んでいた。
「おかしいだろテツぅ! なぜ賢一が!」
「そんなことは分かってるさ。ちっとは冷静になれよ。いっちゃんらしくないぜ?」
「あ、ああ……」
「けんちゃんの葬儀に俺ら三人を呼ばないはずがない。そのぐらい俺だって分かってるさ。ならば呼ばない理由があるはずだろ?」
「そ、そうだな……」
「いっちゃんさ、最近健二と接触したろ? 何事だったんだ?」
普段はおっとりとしている菊池家の一哲だが、そこは四家族の一つ。情報収集を怠ることはない。
「……実はな……俺には弟がいるんだ……」
「知ってるよ。二朗だろ?」
「テツ……そうだ。その次郎なんだがな……」
一朗は知る限りの情報を一哲に話した。
「……というわけだ……」
「なるほどなぁ。そりゃあブチ切れてもおかしくないぜ。それで、二朗がやられた通りに肩を蹴り、顔を殴ったってわけか。」
「ああ……次郎の痛みを返してやりたくてな。だが……」
「ああ。けんちゃん亡き今、藤崎家を継ぐのは健二しかいない。つまり、健二が彩花を凌辱した証拠はもう使えない。 もっとも、彩花ごと葬るのなら使ってもいいが……そんな気はないんだろ?」
「まあな。彩花には報いをくれてやろうかとも思ったが……今のところ次郎のことを本気で想っているようだからな……」
「しゃあねぇな。藤崎家のことはしばらく放置か。だが健二程度であの一帯を仕切れるかは怪しいよなぁ?」
「まあ、お手並み拝見だな。」
「いっちゃんも人が悪いぜ。」
「そんなことはどうでもいいさ。それよりも、賢一の分まで俺らは飲まないとな……」
「そうだな……献杯。」
「献杯……」