藤崎家の当主
それから、二人乗りの自転車にて出勤した次郎と彩花。
「ねえ次郎。仕事の調子はどう?」
彩花に後ろからそう聞かれても、難しいことは次郎には分からない。ああ、うう、と返事をするのみだった。
そんな次郎を見て、やはり健二や一朗のことは話すべきではないとの考えを固めた彩花。次郎にとっては知らぬが仏である。
そして二人にとっては昨日と同じような一日が始まる。
だが、藤崎本家では……それどころではない事態が起こっていた。
「な、なんだと健二!? お、お前は正気なのか!?」
「そうよ健二! お前まさか実の兄を!」
「ふっ、問題はそこじゃあないでしょう? 今、この時! この俺以外に藤崎家の後継はいない。それこそが憂慮すべき点ではないですか?」
お家の存続が何より大事。小さい頃からそう言い聞かされて育った健二である。誰よりも大事にされ、成績も優秀で瀧川家の一朗、その唯一のライバルと目された兄である賢一。
昔はそんな兄を誇らしいとしか思っていなかったが、今ならば分かる。それはただの逃げだ。負け犬根性が見せた偽りの心境。本当は自分こそが……
そう思いつつも藤崎家の後を継げない自分は……ただ羨むしかなかったあの日。
しかし今は違う。
長兄賢一はもういない。ならば……後継は自分しかいない。親戚筋を見渡してみても自分に匹敵するような存在はいない。
もはや両親は自分を警察に売ることなどできない。むしろ積極的に隠蔽することだろう。
そんな健二の目論見通りに……
現当主である藤崎圭吾はどこかに電話をかけ、粛々と賢一の遺体を処理した……
最愛の長男を最愛の二男が殺した。その心労はいかばかりだろうか。