彩花の帰宅
次郎が風呂から出て、料理を始めた頃だった。彩花が帰ってきたのは。
次郎からすれば何ほどのことでもないため気付かないのだろうが、彩花は全身を汗で濡らし、埃にまみれていた。
「ただいま……」
彩花は玄関先でそう言って、倒れた。仕事をするだけで精一杯。むしろよくここまで帰ってきたものだ。自分は自転車で通勤をしているが、彩花がどうやって帰ってきたのかなど想像もできない次郎。
倒れ込んだ彩花をギリギリで支えることはできたものの、この後どうすればいいか分からない。
そこで思い出したのが祖母の言葉だった。汗をかくと風邪をひくから早く風呂に入って着替えろ、というものだ。
なぜ汗をかくと風邪をひくのか、その理由は分からない。だが、祖母の言うことはいつでも正しいと次郎は思っている。
しかしながら意識のない彩花を風呂に入れるなど次郎にできるはずがない。仕方なく服だけでも脱がそうとするが、汗で貼り付いて全く脱がせることができない。
仕方なく顔や腕など露出している箇所を濡れタオルで拭うのみ。
できるだけしっかり拭こうとあれこれしているうちに気がついた。無理に脱がさなくても、服の下に布を滑りこませるように拭けばいいことを。
そうやって上半身は少しはきれいになった。そこでまた次郎は気がついた。先ほどよりも汗が引き、服を脱がせやすくなっていることを。
その結果、ついに上半身を丸裸にすることに成功した。これで随分と拭きやすくなった。
そうやって試行錯誤をしているうちに、どうにか下半身も脱がすことができた。意識のない人間のズボンを脱がせるには、尻の形に沿って下から引き下ろすように動かす必要があると、次郎はようやく分かったらしい。
そして……