次郎の日常
その日、次郎はまた新たな現場に来ていた。
そこには木で枠が組まれており、中は空洞になっていた。
「ストーンガードじゃあ。とりあえず次郎はリンゾーと組んどけや」
頭の指示によりリンゾーについて歩く次郎。
「おめぇストーンガード張ったこたぁあるわなぁ。でもH鋼立てんなぁ初めてやんなぁ?」
H鋼とは、H形鋼ともいい『H』形の断面を持つ鋼材だ。これを地面に立てるのならともかく、何もない空間に立てるのはかなりの精密さを要する。縦横の水平をきっちり取り、他のH鋼との間隔はセンチ単位で決められている。一度、空間に立てて番線などで固定してから生のコンクリート、通称生コンを流し込む流れだ。
生コンを流し込んだ後も、表面を均したりH鋼のズレを修正したりとやることは多い。なにせ生コンが固まってしまったら、もう修正は不可能なのだから。
しかも、生コンを流し込む最中はバイブレーターと言われる機械を生コンに突っ込み、強烈な振動で生コンから空気を抜き、コンクリートの隙間を詰めていく。これでまたH鋼がズレるため、番線を締めたり緩めたりしながら微調整を行っていくのだ。
「おーし次郎ぉ。そっちからあっちまでバイブレーターかけとけや。H鋼にぁ当てんなよ?」
言われるままに仕事をこなす次郎。バイブレーターの振動は強烈だ。持っているだけでみるみるうちに手が痺れてくる。そのため、握りが甘くなるのは仕方ないことかも知れない。暴れるバイブレーターが次郎の手を離れ、H鋼に命中してしまったのだ。
びぃいぃいぃんと不快かつカン高い音が響く。
「バカ! 当てんなっつたろぉが! どけぇ!」
バイブレーターを直接H鋼に当ててしまった場合どうなるか? 番線で固定はしてあるが、それでも……生コンに沈んでしまうのだ。
つまり、調整のやり直しとなる。幸い生コンが固まる前だったので、取り返しがつかないわけではない。ただ、面倒なだけだ……