戻れない道
血が止まらない。健二のナイフはただのナイフではない。日本刀と同じ製法で鍛えられた特注のナイフなのだ。健二は賢一のそれがずっと羨ましかった。だから高校入学の祝いに何が欲しいかと聞かれた時、賢一にねだって手に入れた逸品だった。
そのナイフが今、賢一の腹を突き刺して……すぐに引き抜かれた。
「ぐっ、がはっ、け、健二……お前……」
「このまま兄さんが死ねば俺が後継ぎだ。そしたら警察に捕まることもない。安心して死ね」
「ば、馬鹿が……お前ごときが、がはっ、一朗を相手に……」
「うるせぇよ。ついでだから瀧川家も潰してやるよ。四家族を統合すれば面倒もないだろ」
確かにその通りだ。それが実現できるならばの話だが。
「や、やめろ……一朗に手を……出すな……」
「うるせぇよ。そろそろ死ね。一朗のライバルと言われたあんたがその様じゃあクソ一朗も大したことないな」
「ま、待て健っじっいぼぉ……」
喉を切り裂かれた賢一。そのまま声を発することなく、事切れた……
「くくく、なんだ簡単じゃないか。始めからこうすればよかったのか。これで藤崎家の跡目は俺のもんだ。待ってろよ彩花……近いうちに迎えに行くからな……」
血が滴るナイフをギラギラとした目で見つめる健二は……誰がどう見ても正気ではなかった。