藤崎家の兄弟
翌日、藤崎家へと帰った健二。まずは兄である賢一に相談をした。いや、それはただの告げ口でしかなかった。腫れ上がった自分の左頬を賢一に見せながら。
「兄さん聞いてよ! 一朗さんたら酷いんだぜ! 何もしてない俺に!」
「健二……お前という奴は……」
「な、何だよ! 俺は被がいっ」
長兄賢一の拳が、何か言いかけた健二の頬を打ちぬいた。
「痛って! 何すんだよ!」
「お前、彩花に何をした? 言ってみろ!」
「な、何って……ただ連れ戻そうとしてるだけじゃないか!」
「では彩花がなぜうちを飛び出したのか理由は知ってるか?」
「そんなもん! 次郎に誑かされたに決まってる! 早く助けてやらないと!」
昨日の彩花とのやりとりはもう忘れたのだろうか。
「一朗からフィルムと写真を見せられたぞ? お前が彩花に……彩花を欲望のままに貪る姿をな!」
「なっ!? ち、違うんだ兄さん! そんなの一朗さんのでっち上げに決まってる! 俺が彩花の嫌がることをするはずないだろ!」
「健二……まだ分からないのか?」
賢一は憐れみを込めた目で健二を見た。
「な、なんだよ……」
「もしそれが偽物だとしよう。ならば、一朗は偽物を作ってまでお前を潰したいということになる。このまま藤崎家にいたとしても障害にすらならないお前ごときをな? この意味がまだ分からんか!」
見捨てられた。少なくとも健二はそう考えた。小さい頃から何でもできる優秀な兄。瀧川家に一朗がいるなら藤崎家には賢一がいる。それだけで誇らしい気持ちになれた。そんな兄が……自分を……
「おい、健二……まだ話は終わってな、いぐぁっ!?」
「藤崎家は俺が継ぐ」
健二の手に握られていたものは、刃渡り15センチほどのナイフだった。奇しくも健二が高校に入学した際に、賢一にねだったオーダー品であった。