白浜組にて
彩花が降ろされたのは白浜組だった。
「次郎に会わなくて……いいんですか?」
「いいんだ。次郎は次郎らしく生きて欲しい。瀧川家の因果な生き方なんて次郎には似合わない。そうだろ?」
今日の出来事は次郎に話してもいいし話さなくてもいい。判断は任せると、そう一朗から言われた彩花は、少し悩んでいた。
「そう、かも知れません……分かりました。今日は本当にありがとうございました。このご恩は忘れません」
「いいんだ。ああそうだ。本当に困ったら連絡してくるといい。できる限り力になろう」
一朗が差し出した紙片を彩花は両手でしっかりと受けとった。
去りゆく紫の車を見送った彩花。
それから美砂の車があることを確認し、迷いながらも事務所へと入っていった。
「ああ、帰ってきたねぇ。どうだったぃ? 一朗さん素敵だったろ?」
「うん……めちゃくちゃかっこよかった。それで……次郎を瀧川家に連れ戻す気はないって。好きなように、自由にまっすぐ生きて欲しいって……」
「そうかい。あの方がそう言うんならそうすればいいさ。この際だ。あんたもここで働くかい? やるこたぁたくさんあるからねぇ」
「やる! 働きます!」
「よぉし。そんじゃあまずは倉庫の片付け方からかねぇ。それができるようになったら事務仕事を覚えてもらおうかい」
「はい! お願いします!」
彩花の心の中はすでに次郎との新しい生活でいっぱいになっている。美砂ですら一朗が保証した以上は何の心配はいらないと確信している。
果たして、本当にこれで終わったのだろうか……