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川西美和子、悩みます

今回は美和子さんの私生活が出てきます。パワハラ表現が少し出ますので苦手な方はご注意ください。

 ポイントが1ポイントも減らないまま、気付くと2週間が過ぎていた。

 そろそろポイントが追加されそうだ。

 アキラは、最初に私の決心が固まるまで待つと言ってくれていたから、彼からは会おうとは言ってこない。

 それはわかっているのに、自分から会いたいと切り出せないでいる。

 ケイさんはメッセージと写真のギャップ等を考えると、初めて会う異世界人としては、上級者向きかと思って決断できずにいた。

 そんなモヤモヤを抱えていても、私の日常は変わらずどんどん過ぎていく。

 今のところ、メッセージのやり取りはいつも通りだった。


 そんな中、私の職場で大事件が起きた。

 後輩が1人、仕事に来られなくなった。

 彼女は上司のパワハラを2年に渡って我慢した結果、体調を崩してしまった。

 上司は仕事のできない後輩に普段から「お前なんか居ても居なくても変わらない。この程度の仕事、サルでもできる」などと暴言を吐いていた。

 膨大な雑用を押し付けられていた後輩を知っていた。私だけじゃない、同じ職場の全員が知っていた。

 そして、理不尽な言葉の暴力に、私たちは見て見ぬふりをしてきた。

 その結果がこれだ。

 今日、後輩は一際激しく叱責された。そのまま過呼吸で倒れ、仕事に来れなくなった。

 上司は頑なに、後輩が来られなくなった原因を自分だとは認めたがらなかった。

 結局後輩のいない職場では、八つ当たりされる人が変わっただけ。

 上司の心も態度も何も変わらない。結局原因は彼女ではなかったということだろう。

 後輩を救えなかったことに、勝手に落ち込む日々。

 そんな殺伐とした状況で受け取る、彼らのメッセージはとても嬉しいものだった。


【美和子


 仕事大変なのか?お疲れ様。

 あんまり無理すんなよ? いつでも話は聞いてやるから。  アキラ】


【美和子


 大丈夫ですか?

 最近遅いですね。仕事で何かあった?  ケイ】


 2人には事件があったことは話していない。

 2人に相談していたのに、大事になるまで結局庇ってあげられなかった自分が情けなくて。

 だからいつもこう返事をする。


【大丈夫だよ。この時期は忙しくなりやすいの。いつものことだから心配しないで。】


 このままでは2人に会うことはできない。

 楽しめないし、何故か後ろめたい。

 そして私は、渡瀬神社へ向かっていた。

 境内でキョロキョロと辺りを見回していると、カラスさんから声をかけてきた。


「よぉ、お嬢ちゃん。悩み事かい?」


「そうなんです。カラスさんは八咫烏なんだと、渉さんたちに聞きました」


「紬と一緒でやたちゃんでいいぜ! ま、おじさんが導いてやるから話してみな。とりあえず、そこに座りな」


 カラスさんは翼を広げて、階段の脇にあった大きな石を指した。

 お言葉に甘えて座らせてもらうと、丁度良い目線の高さにカラスさんが降りてくる。


「それで、どうしたんだ?」


「実は今、連絡を取り合っている人が2人いて。会いたいなと思うんですが、なかなか踏ん切りがつかないんです……。職場で後輩が上司にいじめられていたのに、見て見ぬふりをしてしまいました。それが引っかかって、こんな私が2人に会ってもいいのか、分からなくなってしまいました」


 カラスさんは丸い目をぱちくりさせて言った。


「おいおい、お嬢ちゃん。それはないぜ」


「やっぱりひどいですよね。私はあの優しい人たちに会う資格なんて……」


「いやいや、違うって。なんだ? お嬢ちゃんは、鳥目なのか? おじさんのお気に入りのブルーベリー食べるか? そもそも人に会うのに資格は要らねぇもんだ。袖振り合うも他生の縁って言うだろ? もう大分袖当たってると思うんだけどな? 会うかどうかは、お嬢ちゃんだけが決めることじゃない。相手がお前さんと会いたいと思わないと会えないんだぞ?」


 カラスさんは鳥目をブルーベリーで補っているのか? いい話なのにそれが気になってしまう。


「行動しなかったことを後悔してるなら、今度は動けばいい。それできっと後輩の気持ちは和らぐし、連絡取ってる相手の奴らも、お嬢ちゃんの話をちゃんと聞いてくれるだろ。むしろここで断ったり非難してくる奴は、人の気持ちがわかってねぇから気にすんな。こっちからオサラバしてやんな!」


 私は目玉が飛び出るぐらい、驚いた。

 正直に言うと、カラスさんがこんなにしっかりと話を聞いてくれるとは、思っていなかったから。


「……そうですよね」


 会いたいって言ってくれてる人に対して、関係のない罪悪感を抱いても仕方ない。

 彼らが私を見て判断することだ。

 後輩は私の気のすむようにさせてもらおう。

 頭の中を整理でき、モヤモヤしていた気持ちがすっきりしていた。


「仕事が一段落着いたら、会いたいって言ってみます」


「お嬢ちゃんは真面目だなー。別にそんなに固く考えなくても、試しに会うぐらい大丈夫だけどな。まぁそこがお嬢ちゃんの良いところでもあるんだ。ゆっくり悩みな」


「……今度からやたちゃん先輩って呼びますね」


 その晩、悩みに悩んで、休暇を取った後輩に連絡してみた。

 直接関わると仕事を思い出してしまい、体調に影響するらしいので、SNSでメッセージを送った。

 体調は大丈夫か。庇えなくて申し訳なかった。心配している。元気になったら戻って来る日を待っているから、今はゆっくり休んで。

 そのようなことをメッセージで送った。

 その日、返事は来なかった。

 それでもいい。許されなくても、自分なりの筋は通したつもりだ。ちょっとへこむけど。

 これで心置きなく、アキラに会いたいと言えるし、ケイさんの誘いを断らなくて良くなる。

 私は『キューピッドくん』を手に取った。

 今日の勤務中に2人からメッセージが届いていたが、まだ目を通していなかった。すぐに『あえ~る』を起動させる。


【美和子


 今日は大丈夫だったか?俺は取引先の人と飲みに行くんだ。接待ってやつ。

 美和子は酒飲めるのか?  アキラ】


【アキラ


 今日はねー、最近悩んでた事が少し吹っ切れたから、ちょっとすっきりしてるよ。

 お酒は飲めるけど、強くないよ。アキラは飲めるの?

 連絡取り初めて結構経ったし、アキラの人柄も少しは分かるようになってきたから、そろそろ予定決めて会わない?  美和子】


 はぁー。アキラには送ってしまった。

 断られたらどうしよう。なんだか胃がキリキリしてきた。

 続けてケイさんのメッセージを開く。


【美和子


 いつも仕事お疲れ様。以前話していた仕事のモヤモヤは吹っ切れましたか?あまり無理はしないでくださいね?

 ここ最近貴女と連絡を取ってきましたが、貴女は美しいだけでなく、優しい人柄の方だと分かりました。

 貴女にお会いして、早く僕の事を知って欲しいです。

 文字では伝わらないことも沢山あるから。 ケイ】


 どうしていつもケイさんには私が悩んでいる事が、わかってしまうのだろう。

 なんだか胸がきゅうっと締め付けられるような、それでいてほんわりと温かくなる。

 ケイさんと話していると安心する。

 聞き上手で、欲しい言葉をくれるけれど、自分の考えも話してくれることが心地いい。

 気になるのは、なぜそんなに会いたいと言ってくるのかだ。

 もちろん私も会いたいと思っているが、人柄も知らない時から、ずっと言ってくれていたことが気にかかる。

 何か理由があるのではと邪推してしまう。

 まさか……本当に、一目惚れ? いや、ないない。


【ケイさん


 ケイさんも仕事お疲れ様です。実は以前に言っていた後輩の事でいろいろあって、落ち込んでいたんですが、吹っ切れました。

 心配してくださって、ありがとうございます。

 何度も会いたいと言ってくださったのに断ってしまい、すみません。

 私も会いたいです。遅くなってしまいましたが、私と会ってくださいますか?  美和子】


 ケイさんからのメッセージは珍しく遅く、その日中には届かなかった。即答じゃないところが不安を煽る。

 翌朝、『あえ~る』を開くと2人からの返事が届いていた。


【美和子


 そっか。良かったな。

 そろそろ一月経つから、俺からも誘おうと思ってたんだ。

 今度の日曜日はどうだ?

 最初は政府の施設で会うか、俺がそっちに行こうか? 初めて世界を渡るなら不安だろ?  アキラ】


【美和子


 それで落ち込んでいたんだね。詳しくは聞かないが、吹っ切れたようで良かったです。

 もちろん、僕も会いたいよ。予定を合わせて日を決めよう。

 美和子は週休2日制なんだよね? 来週は予定があるから、再来週の土曜日に会えないかな?  ケイ】


 2人とも会ってくれるようだ。

 今週の日曜日がアキラと会う日で、再来週の土曜日がケイさんと会う日に決まる。

 どちらも公平にしたかったので、政府が用意する施設を借りてランチを取ることになった。

 時間は2時間。短い気もするが、初めて会うなら短い位で丁度良いだろう。

 ついに会うのか。

 私は何とも言えない緊張感と不安、好奇心を感じながら眠りについた。


読了ありがとうございました。


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