川西美和子、もう一度会いたいです
よろしくお願いします。
アキラと別れて、日本に戻ってきた私は、ケイに会うための申請に取り掛かった。
紬さんも渉さんも私の気持ちを汲んで動いてくれている。本当にありがたい。
井戸端会議をしていた和室でやたちゃん先輩と一緒に、2人が動いてくれているのを見守る。
やたちゃん先輩の羽を撫でさせてもらいながら、大人しく待っていた。
暫くして、どこかへ電話をかけていた紬さんが、急に血相を変えて話し始めたかと思うと、今度は電話を繋いだまま私に状況を説明してくれた。
「美和子さん、大変です! ケイさんとずっと連絡が取れなくて、自宅の方に確認させてもらったんですけど、ケイさんエレクタラを追放になるみたいです! アバターも連絡機能が使えなくなっているらしく、連絡手段がないまま行方不明みたいです」
「えええ!! 追放って……どういう状況なんですかそれ!?」
予想外の展開に思わず叫ぶ。
ケイが国から追放? なんで?
私の『キューピッドくん3号』のハッキング事件に関係あるの?
もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。
けれど、ふと思った。
もしかしたら、このまま会えなくなる?
そう考えたら、鳥肌が立つみたいな形容し難い感覚が、ぶわっと全身に広がっていった。
不安、というよりも恐怖に近いような感覚だ。
「それって、ケイに会えなくなるってことですか?」
紬さんは私から目をそらして、黙っている。
「い、いやです! このまま会えなくなるのは! 私まだケイに好きって伝えてない! エレクタラに行かせてください!!」
ばんっと勢いよくちゃぶ台に両手をついて身を乗り出す。
なりふり構っていられない。
ケイに会いたい、ただそれだけを紬さんに訴える。
「美和子さん……あえ~るは互いの同意がないと、異世界に飛ぶことは出来ないんです。ケイさんに連絡が取れない今、美和子さんをエレクタラに呼べる人物がいません」
「そんな……」
私は初めて異世界という物理的な時空の壁を障害として感じていた。
前にケイが動物園で言っていたことを思い出す。
私達『あえ~る』がなければ、もう二度と会えない所にいるんだね。
どうしようもなく涙がこみ上げそうになるが、まだ手はあると信じて考えを巡らせる。
アキラにも背中を押してもらったし、ケイには言いたい事も沢山ある。
ここで諦めるわけにはいかない。
今日1日で、さんざん弄られつくしたであろう『キューピッドくん3号』がテーブルの上で真っ暗なディスプレイをこちらに向けている。
もう連絡の取れる人はいなくなってしまった…………ん? 連絡?
あっ! ジンさんの連絡番号!!
あれをもとにジンさんに連絡を取って、『あえ~る』でエレクタラへ呼んでもらうことはできないだろうか?
さっそく私は紬さんと渉さんにジンさんのことを話した。
「以前エレクタラへ行った時にジンさんから、連絡番号を頂いたんです。『もし次にこの国に来るなら必要になるから』って……。これ使ってジンさんに連絡取ってから、転移って出来ませんか?」
渉さんと紬さんは一度顔を見合わせて、そして二人そろって笑顔で振り返った。
「「やりましょう!!」」
「実は美和子さんの『キューピッドくん3号』も、ハッキングの件で規制が掛かってて、新規の方を紹介できないようになってるんです。でも! もう既に連絡先を知ってる状態なら、検索するだけで連絡できるようになるので、ジンさんとなら連絡が取れるはずです!」
急いで『キューピッドくん3号』にジンさんの連絡先を入れて、アカウントを探す。
すぐに見つかったそのアカウント宛にメッセージを送る。
ハッキングの件。ケイが追放されると聞いたこと。
どうしてもケイにもう一度会いたいことを、気持ちを込め、かつ、簡潔に書いて送信した。
和室のちゃぶ台に端末を置いて、皆で祈りながら返信を待つ。
返信を待つ時間が10倍にも20倍にも長く感じられる。こんなの初めてだ。
ジンさんから連絡が来たのは、送信してから10分後の事だった。
ジンさんからのメッセージには一言だけが書かれていた。
【ケイと会ってどうする?】
沢山したい事はある。
好きって言ったり、怒ったり、旅行の最後に言い逃げしたことも追求したいし。
だけど、会ったら一番にどうするだろう?
きっと心のままに、その場で思ったように動いてしまうだろう。――だから。
【それは、ケイに会ってから考えます!!】
返信を終えた『キューピッドくん3号』の画面に、【異世界転移の申請が来ました】の文字が浮かんだ。
ジンさんからの申請をもとに、紬さんと渉さんが必死で動いてくれて、何とかたどり着いたエレクタラの入国ゲートには、初めて来たときとは違い、ジンさんが待っていた。
初めて来たときは当然だがケイがいた。変装しててびっくりしたな……。
些細なことから、簡単にケイとの思い出を思い出してしまうことに驚いた。
辺りを見回したが、ジンさんが居るからなのか人がいない。
人払いされているのかもしれない。
黒髪の短髪でワイルドな風貌のイケメンであるジンさん。
にたりと意地悪そうな笑みを浮かべている。
「アンタ、意外と脳筋だな。会ってから考えるとか、笑っちまったわ」
う、馬鹿にされているような気がする。
何であんたにそんなこと言われにゃならんのだ! こっちはあんたの弟に会いに来たんだ! 早く案内しろ! という気持ちを込めたジト目で睨んでいると、ジンさんはおどけた様に肩をすくめた。
「あの、ケイはどこに? 連絡しても繋がらないんです! 追放になるってどうなってるんですか?」
ケイを早く探したくて、必死にジンさんに迫る。
「落ち着けって。ケイなら、今頃、庭園だ……が、アンタが今から行くのは庭園じゃねえ。実家に案内する。家族に会ってもらうぜ」
「実家って……えっ! 王宮行くんですか!? 今から!?」
ジンさんの嫌な笑みにイラついていられる余裕が、一瞬でなくなった。
「あぁ。だから、仲人はここで留守番な」
「分かりました……美和子さん、頑張って」
ずっと後ろで控えてくれていた紬さんが声をかけてくれた。
「紬さん本当に、ありがとうございます。行ってきます!」
紬さんを残して私はジンさんと歩き始めた。
入国ゲートから最も近い国内転移用ゲートに向かい、王宮の最寄りゲートに行くまでの間、私はジンさんから軽く事のあらましを聞くことになった。
「えっ! じゃあハッキングの犯人はケイじゃなくて、セントさんなんですか!」
「ああ。でも原因は明らかにケイだからな、自分だけ幸せになるってことが嫌だったんだろう。自分もセントと同罪だからと、『あえ~る』を使用できないようになった」
それを聞いてふと疑問に思った。
「『あえ~る』を使用できないことが、罰に当たるようなことなんですか?」
そう尋ねると、ジンさんは初めキョトーンとした呆けた顔でこちらを見たが、暫くすると「ああ」と言って、元に戻った。
「この国では権利を侵害されることってのは、何事にも代えがたい罰なんだよ。特にケイはアンタの事を、っとついたぞ。詳しい話は親父がしてくれる」
ジンさんは途中で話を切り上げて、目の前にそびえたつ変な形の王宮を見上げる。
ウソでしょ!? ああ~今更だけど、お腹痛くなってきた。
私みたいなただの平民、しかも異世界人が息子をたぶらかしたって言われたらどうしよう!?
手土産もないし、何なら泣いてから化粧が直せてないし、コンディションは最悪だけど本当に大丈夫かな!?
私のそんな心境などお構いなしでジンさんは門番に話しかけていた。
ガガガッ――
重たい音を響かせて門が自動で空いていく。
「ほら、行くぞ」
彼はそれだけ言ってスタスタと歩いて行ってしまったので、私も慌てて追いかけた。
ありがとうございました。
面白かったら、ブックマークや感想等々よろしくお願いします!




