川西美和子、異世界人とメッセージ交換します
出会い編です。まだ実際には会ってません。
翌日。今日は休日なので録画しておいたドラマを観ながらのんびりする。
ダークブラウンのソファーに座り、リビングを見渡した。
もう彼氏のいた痕跡は一つもない。彼が使っていたものは、別れた翌日に全部捨てた。
振り向かないし、自分の幸せのために頑張ると決めたのだ。
私は『キューピッドくん3号』を取り出し、申請を送った2人のページを見る。
1人目
名前 ケイ・ヨ・ルー
種族 人間
年齢 28歳
性別 男性
身長 168㎝
出身地 エレクタラ E-1区
言語 エレクタラ語
性格 マイペース、冷静
職業 自営業(電気、機械系)
趣味 音楽を聞く、本を読む
交際経験の有無 無
好みのタイプ・条件 浮気しない人、動物が好きな人、一緒にいて落ち着く人、異世界に婿入りさせてくれる人
ケイ・ヨ・ルーさんは大人しそうな人だ。
髪は地球人にはない深い紫のふわふわした癖毛で、前髪が両目を覆い隠している。お約束ならイケメンだ。
写真は青背景に正面を向いており、証明写真を彷彿とさせる。
世界を越えた婿入り希望……へぇ。
2人目
名前 アキラ・ハヤーサ
種族 人間
年齢 25歳
性別 男性
身長 175㎝
出身地 金属の国 アルミニアム
言語 テコー語
性格 爽やか、明るい、一途
職業 営業(家庭用調理器具等)
趣味 運動、王冠集め
交際経験の有無 有
好みのタイプ・条件 俺だけ見てくれる子! 一緒にいて楽しい子! 子ども10人欲しい!
アキラ・ハヤーサさんは、元気な好青年という感じだ。
明るいツンツンした固そうな茶髪に、太陽のような笑顔。写真から滲み出る快活な人柄。
私が26歳だからアキラさんは年下、弟っぽいタイプに感じる。
そして趣味、王冠集め、いいね。
うん、若いな。でも子ども10人は多い……。
2人とも悪い人には見えない。連絡、取れるといいな。
第一印象はアキラ・ハヤーサさんの方がタイプかも知れない。
ドラマを観終わり『キューピッドくん』に視線を移すと、メッセージが着ていた。
紬さんからだ。逸る気持ちを抑え、画面を開く。
【美和子さんへ
こんにちは。
折角の機能を使ってみたかったので、メッセージで送っちゃいました!
本題ですが、昨日マッチング申請を送った2人から了承の返事がありました。
良かったですね!
もし、実際に会いそうだったら、早めに連絡ください。
以下に彼ら2人の世界についての補足説明を付けてます。
それでは、川西美和子様の幸せを心よりお祈り申し上げます! 仲人 渡瀬紬】
次に送られてきた情報に目を通す。
【ケイ・ヨ・ルーの出身地について
エレクタラはコンピューターが発達した国。魔法の概念はなく、地球よりも電子技術が発達している。1人に一台端末を持ち、それで買い物も仕事も通信も様々なことができる。現王ハク・キューは高い技術力を売りにした外交政策に力を入れており、大変豊かな国を維持している賢王として国民に慕われている。その反面10人もの妻がおり、25人の子どもがいる。この国は一夫多妻制だった過去があるが、現在は王族以外では廃止されている】
【アキラ・ハヤーサの出身地について
金属の国はその名の通り金属の採掘、加工、輸出が主な財源。アルミニアムは金属を豊富に含んだ赤土で覆われた大地。作物は出来にくい。しかし、赤土から採れる加工しやすく、需要の高い金属を産出しているため、豊かな都市。魔法の概念はなく、工業により発展、採掘業につく人間が多く、体格の良い人間が多い。国王を毎年選定しなおす。国一番の筋肉を持つものがその年の国王になる。今のところ30年連続で現王が統治している】
エレクタラは一夫多妻制。嫌だけど、今は廃止されてるのなら、まぁ。
金属の国は筋肉で国王選び直すなんてどんな脳筋……。
―ピロリンッ―
ふと、『キューピッドくん』がメッセージの着信を告げた。
なんとケイ・ヨ・ルーさんからのメッセージだ。
「え! 嘘、え、ど、どどうしよう」
驚きのあまり『キューピッドくん』をソファーへ放り投げ、独り言を呟きながら、無意味に歩き回る。
暫くして、覚悟を決めてケイ・ヨ・ルーさんのメッセージ画面を開く。
ちゃんと日本語翻訳された文章に安心した。
【川西美和子様
初めまして。ケイ・ヨ・ルーと申します。
数多の異世界人の中で、私を選んでいただき、ありがとうございます。
まだ写真と釣書でしか貴女を知りませんが、私は運命を感じ、一目見て貴女を好きになってしまいました。一刻も早く貴女を知りたいです。
返事をお待ちしています。 ケイ・ヨ・ルー】
「えええぇぇ!!! 思ってたキャラと大分違うんですけど!!!!」
なんだこの文体は!? どこがマイペースなんだ!?
一目惚れは、怪しすぎる。
いいや、人を疑うのは良くない。万が一本当に運命を感じてくれたのなら、失礼すぎる。
この人の世界では、王様が沢山の奥さんを連れているのだ。
男性全員が紳士を心得た国かもしれない。
と、とにかく返信しないと。
【ケイ・ヨ・ルー様
ご連絡ありがとうございます。
初めまして。川西美和子と申します。
ケイ・ヨ・ルー様が私に興味を持っていただけたようで嬉しいです。
私もケイ・ヨ・ルー様のお話が聞きたいです。どうぞよろしくお願いします。 川西美和子】
つい、失礼のないようにとテンションを合わせてしまった!
動揺して、思わずクッションをバシバシ殴りつける。
―ピロリンッ―
またしても端末が恐怖の音を立てた。
恐る恐る『キューピッドくん』を掴む。
画面を覗くと、もう1人のマッチング相手、アキラ・ハヤーサさんからだった。
【川西美和子様へ
初めまして。アキラ・ハヤーサです。
マッチング申請してくれてありがとな!
まずは美和子って名前で呼んでいいか?
俺のことはアキラって呼んでくれ。 アキラ・ハヤーサ】
「…………」
アキラくん、大変心が癒される!
私はさっそく返事を考える。
【アキラ・ハヤーサ様へ
初めまして。川西美和子と言います。
こちらこそ申請の承認ありがとう。よろしくね。
是非名前で読んで。私はアキラくんって呼ぶね。 川西美和子】
少し冷静になってきたところで、また連絡が来たので目を通す。
【美和子へ
ありがとな! アキラくんとか慣れないな……。
うちの国は実力主義だから敬称はあんまり馴染みないんだ。
アキラって呼んでくれると嬉しい。
美和子のプロフィールを見たけど、美和子は本が好きなんだな。
俺は字が苦手だから尊敬する。俺は体動かすことの方が好きだな。
今度国の一大イベントで、国一番の美しい筋肉を決める筋肉王決定戦があるんだ。一緒に観戦できるといいな! アキラ】
……ん? 筋肉王? もしや例の筋肉で国王を決めるというアレ!? き、気になる……。
そして字が苦手なのは、雰囲気から分かる気がする。
【アキラへ
敬称が苦手なんだね。ちょっと緊張するけどアキラって呼ぶね。
そうだよ。本の中でも物語が好きでね。異世界なんて空想だと思ってたけど、ホントにあるんだね。
私は運動が苦手なの。筋肉王決定戦、ちょっと観てみたいな。
機会があったら連れていってね。 美和子】
【美和子へ
異世界があるのを知らなかったのか? 俺は生まれた時からそれが普通だったからな。
おぅ! もっと話して美和子が安心出来たら会おうぜ!
今から仕事行って来る! じゃあまた連絡するな! アキラ】
これは好感触ではないだろうか。
一旦お開きとなったので『キューピッドくん』を充電器へ繋ぎ、席を立つ。
―ピロリンッ―
テレビで録画ドラマの続きを見ていると、『キューピッドくん』が私を呼んだ。
慌てて画面を見るとケイ・ヨ・ルーさんからだった。少し気が重い。
【川西美和子様
先ほどは不躾なメッセージを送ってしまいすみませんでした。
何分女性とこのように話すのは初めてで、不慣れで申し訳ない。
ですが、あなたのことを知りたいのは、まぎれもない本心です。
まずは美和子さんと呼びたいのですが、いかがでしょうか。
私のことはケイと呼んでください。敬語もどうかやめてくださいね。 ケイ・ヨ・ルー】
寧ろ丁寧すぎて怪しい。手遅れかもしれないが、変な人ではないと信じたい。
【ケイ・ヨ・ルー様
不躾なことなんてありませんでしたよ。私も不慣れなので。
美和子と呼んでいただいて構いませんよ。私はケイさんと呼びますね。
敬語はケイさんが使わないなら使いません。
ケイさんは綺麗な紫の髪ですね。私の世界では人工的に染めないと紫にはなりません。
素敵な色で羨ましいです。 美和子】
【美和子さん
返事をありがとう。では一緒に覚えていきましょう。
僕の髪はこの世界で高貴な色と言われていて、大変珍しい色なんです。気に入ってもらえて嬉しいです。
読書が好きなんですね。僕は特にミステリーが好き。美和子はミステリーを読むことは?
僕のことはケイって呼んで。美和子、早く会いたいです。 ケイ】
早い。展開が急すぎる。
異世界だよ? 会うのは心の準備がいる。
そして文章に違和感がある。
敬語とタメ口が混ざったり……まぁ翻訳のせいかもしれないが。
何となく、会うことに不安が募る初メッセージだった。
読了ありがとうございました。




