川西美和子、衝撃の事実に悩みます
よろしくお願いします。
衝撃の事実を知った後、私は何とか意識を取り戻して、ケイの所へ戻った。
2人で一緒に座って買ってきたものを食べる。その間も務めて平静を装っていた。
おばさんの作ったクレープみたいな物はとても美味しかった。
「……美味しい。僕、初めて食べたんだ」
ぽつりとケイがこぼした感想も今となっては、私にとって聞こえ方が全然違う。
だけど、今は知らないふりをする事に決めた。
ケイが自分の口で言おうとしてくれたことを、意図せず聞いてしまったかもしれない。
本当かどうかは、ケイが話してくれた時に全て分かるはず。
「美味しいね! おかずクレープみたい。日本にもこういうのあるよ」
「……そうなんだね。日本のも食べてみたいな」
「今度、一緒に食べようね」
「…………うん」
食べ終わってから街を見回って、それから、同じ地区にあるケイが好きだと言っていた動物園に来た。
動物園と言っても、以前日本で行った動物園のような規模ではなく、地方の公園が動物を飼っている、といったぐらいのごく小規模な動物園だ。
しかしこの動物園は国営らしい。ケイの好きなキャッシーが5匹。
カラスみたいな鳥クローザやインコみたいなカラフルな鳥達が大きな鳥小屋に沢山住んでいて、他にも何種類かの動物が飼われているようだ。
小規模だったこともありすぐに全部見回ることができた。
その後は触れ合えるキャッシーのところに長い時間いて、猫じゃらしみたいなもので沢山遊んだ。
キャッシーはヒョウ並みに大きいので怖いかと思ったが、全然そんなことはなく、ケイに良くなついていて、一杯撫でさせてくれるいい子ばっかりだった。
キャッシーを撫でながら、物思いにふける。
気になるのは入国ゲートでのことと、国の中で髪や目の色を隠してること。
そして王子様かもしれないこと。
ケイが入国ゲートで名前を言わせなかったのも、あの場で国民にばれたら困るからだったのかな?
身分がばれるから、自分の国では変装してるの?
さっきのおばさんの発言から、国民に期待されてる王子様だってことが分かった。優しいもんね。
でも、最初のプロフィール欄、確か婿入り希望って書いてあったはず。
元々ケイは自分の国を出たかったの? そのために婚活してた?
根拠もないことをひたすら考えてしまって、思わずキャッシーを撫でる手に力がこもってしまい、キャッシーパンチされた。
「あいたっ。ご、ごめんね。――あ、行っちゃった」
「どうしたの? 考え事?」
「あ、うん。――ちょっと、ね。明日はどんな所に行くのかな~? って思って」
「……そっか。明日はね、ちょっと、特別な所に行くよ」
そう言ったケイの顔は俯いていて見えなかった。
その後、家に帰ってきてケイは何か用事があるらしく、私は部屋でのんびりさせてもらうことになった。
今日は沢山歩いたから足が少し疲れたので有難い。
「はぁ~。ケイが王子様……」
「タメ息がでかいぞー」
ぶつぶつと独り言が漏れていたんだろう、クロちゃんがそれに反応して話しかけてきた。ホントにやたちゃん先輩みたい。
「ねぇ、クロちゃん。どうして、今まで言ってくれなかったんだろう?」
気付いてしまったからには、言ってくれるのを待つつもりだが、気になるものは当然気になるわけで……悶々と考えてしまうのも無理ないと思う。
「そりゃ、わからねぇーわ。うん、わからねぇー」
「他にもね、自分の話をするようになってから、ケイは悲しそうな顔をする事が多くなった気がする。自分の母国なのに不思議だよね?」
「マスター、自分の国が好きな人間ばかりじゃねぇよ。でも、なぁマスター、答えを出すなら早い方がいいぞ。これから本当の事を聞いて、マスターはケイを受け入れるのか?」
「……わかんないけど」
もしも婚活を始めたころなら、絶対ケイを選ばなかっただろう。平和でいたいもん。
それが嫌で言わなかったというのは考えられる。
「なら、マスター。今、何が嫌なんだ?」
わかんないなぁ……。
1人でいても、余計なことしか考えないからホント、ダメだなぁ。
取り敢えず、明日だ。
明日になれば、話は変わっていくかもしれないし。
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クロちゃんとの話を終えて、お家の中を探検することにする。
自由に歩き回ることを許してもらったので、せっかくだから見て回りたいと思っていたのだ。
私が泊まるのはケイの自室がある自宅棟で、渡り廊下を渡ると仕事場兼研究所棟に入れるようだ。
廊下を歩いていると、窓ガラスから沢山の人が見える。いろんな人が働いているようだ。
この広さを考えるとかなり規模も大きいんじゃないだろうか。
ふらふらと歩き回っていると、どんどん人気のない所へ進んでしまい、道が分からなくなってしまった。
キョロキョロと分かる目印を探して、前方を見る。ふと、人の声が聞こえた。
戻り方を教えてもらおうと声の方へ歩く。
「――でいいんでしょうか?」
セントさんの声?
「仕方ないだろう? お前も知ってるだろ。ケイはああいう奴だよ」
よく覚えてないけどジンさんの声、こんな感じで渋かった気がする。
ケイの話が出て、とっさに声をかけるのをためらってしまった。
「ですが、時間がないんですよ! さっさと押し倒してモノにしてしまえばいいのに、ケイ様は!!!」
ん? 何やら不穏な会話だぞ?
「……お前は本当にケイの事となると性格変わるな。ケイは何があっても、絶対無理強いしないさ。彼女を苦しめるぐらいなら、自己犠牲は厭わない。お前が一番分かってるだろ? 代わりにメッセージ送ったり色々世話焼いてたんだってな」
「仕方ありませんよ。行動が遅いんです。あのシャイなケイ様の魅力を伝えるためには、実際に会ってもらうほかありませんから」
えぇ、何々? 私の件?
思わず、ドアに触れてしまった。ギィ、軋みながら僅かに開いた。
「ん? 誰かいるのか? ――あぁ、アンタか」
「盗み聞きとは感心しませんね」
見つかってしまった。
「すみません。拝見していたら、道に迷ってしまって……戻り方を教えていただきたいのですが」
ジンさんは品定めするような視線でこちらを見ると、ニッと笑った。
「せっかくだから少し話して行けよ。ケイの事聞きたいんじゃないのか?」
ジンさんはしっかり目線を合わせてくる。
何もかも見透かしたような鋭い目だ。居心地悪い。
そりゃあ聞きたいことは山ほどあるが、彼は何のことを言ってるんだろう?
まさか王子様だと知ったことがバレた?
「そうなんですよ。ケイはどんな料理が好きなんですかね?」
大切な事は本人から聞きたい。だから、ここは誤魔化す!
「ふ~ん。好きな料理、ね。……なら、”君の手料理”だろうな」
「なんなんですか!!!」
横にいたはずのセントさんに距離を詰められ、結構な勢いで壁に押さえつけられる。痛い。
凄まじい剣幕で、セントさんはまくし立てるように話し出した。
「ホント何なんですか貴女! ケイ様と他の男を天秤にかけるなんて、おこがましいにもほどがあります!!!! 他の男にうつつを抜かしている暇があったら、もっとケイ様を知る努力をなさってください!!!!! ……もう、穏便に断れる時期はとっくに過ぎました」
セントさんが特大の苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「おい、セント、やり過ぎだ。悪いな。ちょっとコイツ、ケイが好きすぎるんだ。部屋だったな。案内するわ」
ジンさんがセントさんを引きはがしてくれたけど、言われたことが頭から離れない。
なんだか物凄く大切なことを言われた気がする。
ジンさんが部屋まで送ってくれる。
道中は無言のまま、ひたすら歩いて、ジンさんの後についていく。
部屋の入り口が見えたところで、黙っていたジンさんが口を開いた。
「なあ、さっきの気にすんなよ」
「……分からないけど、ものすごく気にした方がいいことを言われた気がするんです」
「……そうか。…………これ、やるわ」
「これは?」
「俺の端末の連絡番号。……もし、アンタがもう一度、この国に来ることがあったら、多分必要になる。使い方はアバターに聞いてくれ」
「……ありがとうございます。……二度とこの国に来ない方がいいんですか?」
「……さあな」
それだけ言ってジンさんは来た道を引き返していった。
私は手元に残った紙を見ながら、心に重たいものが積もっていくのを感じた。
読了ありがとうございました。




