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川西美和子、生涯未婚になりかけます

よろしくお願いします。

 アキラからの連絡が途絶えた。

 それどころか、アカウントが消えていた。

 連絡が着て、夢なんじゃないかと思ってそのメッセージ画面を閉じてから、もう一度画面を開いたときにはアキラのアカウントがなかった。

 私は目の前が真っ白になった。驚きと疑問しか浮かばない。

 今までのことは全部嘘だった?

 いやいや流石にそれはないよね。

 アキラの声とか、態度とか、言葉とか、他にも私のことを真剣に考えてくれたと思えた証拠が…………あったはずなのに。

 確か、アキラは一度も決定的なことは言わなかった。

 あれ? 全部私の自惚れで、勝手に思い込んで、舞い上がっちゃっただけ?

 いつからだろう? 

 いつから私との連絡を切ろうと思ってたんだろう?


「私、可愛くない性格してるから? いつの間にか嫌われるようなことしちゃった?」


 ふと、デパートで言われた元カレの言葉を思い出した。

 アイツの言う通りだったの?

 私のことを好きになってくれる人なんてやっぱりいないの?

 その日は気付いたら眠っていた。




 次の日、アキラと会う予定だったが、居ても立っても居られなくて家を飛び出した。

 まるで元カレにフラれたあの日のようだ。

 頭の中は何も考えられず、涙をこらえることしかできないまま歩き続ける。

 習慣とは恐ろしいもので、気付いたら渡瀬神社の鳥居の前だった。

 本当ならアキラに会うためにこの場所にきたはずだったのに。

 石段を登っていると、おみくじの箱の上にやたちゃん先輩が留まっているのが見えた。


「よう、お嬢ちゃんじゃねぇか! 元気か~?」


 軽快なやたちゃん先輩の声を聞いた時、胸にこみ上げるものがあって、じわっと涙が滲む。涙も衝動も押さえきれずに泣き叫びながらやたちゃん先輩に抱きつく。


「……ふ、やたちゃんせんぱ……アキラがっ……うっ、ひっく、アキラが、ふえっ」


「おおっと! あ~、よしよし大丈夫だぞー。聞いてやるから言ってみな。ゆっくりでいいからな~」


 やたちゃん先輩は、突然抱き付いた私の肩に羽根を伸ばしてパタパタしてくれる。

 やたちゃん先輩好き……。

 神社の石段に座らせてもらって呼吸を整える。

 その間、ずっと背中をポンポンしてくれるやたちゃん先輩が男前すぎる。


「――落ち着いてきたか?」


「――はい。ぐすっ。ありがとうございます。」


「で、何があったんだ? 今日はアキラと会う予定だったんだろ?」


「……じつは、昨日アキラから連絡があって…………ひっく……『彼女が帰ってきた』って……ふ、一言だけで、良くわからなくて、見間違いかと思って、私、一度画面を消したんです……。そしたらアカウントが消えてて!!!」


「おーそうか。よしよし。それは辛かったな~。いっぱい泣け泣け! もう我慢しなくていいからな~」


「わたし、どうしたらっ! あ、アカウントがないってことは、ブロックされちゃったのかもしれません! 私が勝手に期待しちゃっただけなんだ! アキラとケイで迷ったりしたからっバチがあたったんだ……」


「お嬢ちゃんが悪かったなんて、そんなことねえよ。お嬢ちゃんは自分なりに真剣に、幸せになるために行動してきただけだろ? 婚活なんだぞ? 自分の幸せのために行動して何が悪い」


「それは……でもケイにバイバイしようとした。私ケイにも合わせる顔がないです…………私はどうすればよかったのぉ……もうヤダ……婚活辞めそう」


「! お嬢ちゃんそれは!」


 アキラに対するショックとケイに対する罪悪感で一杯だ。

 もう悲しみと罪悪感で気がふれてしまいそう。

 どうしようもない言葉がひたすら口から洩れていく。

 やたちゃん先輩の言葉も全然入ってこない。

 ああもう婚活なんて辛いだけ……そう思った時だった。

 ずっとつけていたネックレスが突然青白く光り始めた。


「えっ。なにこれ?」


 ネックレスが発する光は次第に大きくなって、私の視界一面が光に包まれる。

 光の中で誰かに名前を呼ばれたが分からなかった。

 徐々に光が小さくなっていくと、はっきりと私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

 光の向こう、渡瀬家の玄関の方から私を呼びながら走ってくるケイが見えた。


「ミワコ!」


「――ケイ? どうしてここに?」


 走ってきた勢いのまま抱きしめられる。

 いや、突撃され、くっつかれたというのが正解かもしれない。


「ミワコに何かあったのかと思って! 泣いてるの? こんなに目が赤い」


 ケイは抱き付いたまま私の顔に片手を添えて、目線を合わせる。

 腫れぼったくなった私の瞼に優しく手を当てる。

 少し低い体温が心地よかった。

 それからケイの指は目元をなぞって涙の後を優しくぬぐう。

 ケイの顔が悲し気に歪められる。


「――カァー! そろそろいいか? いい雰囲気のところ悪いな! 後で遠慮せずに続けてくれな! 取り敢えずお嬢ちゃん。あっち待たせてるぞ」


 やたちゃん先輩が私の頭に止まってケイと私の顔の間に翼を垂らして視界を遮った。

 羽根を避けるために顔を背けたら、こっちを見て目をキラキラさせている紬さんと苦笑してる渉さん。

 親の仇を見るかのような鋭い視線でこちらを見ているケイの付き人セントさんとその隣に白衣を着たワイルド系の男の人がいた。

 人が4人もいた上に現在の状況をガッツリ見られている。

 いい大人なのに泣いて抱きしめられているところを見られているとか恥ずかしすぎる状況だった。

 もう、なんだかよく分からなくなってきた。

 涙はケイの行動により引っ込んだ。

 誰もが黙っている中、例のセントさんがつかつかとこちらへ歩いてきて口を開く。


「もう終わりましたね。はい、離してください」


「…………」


 ケイが嫌そうに口をむっと歪めて、最後に、ぎゅっと抱きしめてきたのでやたちゃん先輩の翼が私達の間に挟まった。


「ぐえ、ち、ちぎれる……」


「――とりあえず家に入って話しましょうか」


 渉さんがセントさんの肩をポンと叩き、場を収めようと提案してくれたのだが、セントさんは渉さんの手を払いのける。


「結構です。そんな時間はありませんので。ただでさえ予定にない転移なのに。さぁ帰りますよ」


 ケイはやっと私を離し、黙ってセントさんを見ていた。


「……1時間だけ。ダメ?」


 セントさんは白衣の人にちらりと目を向けてから、とびきり深いため息をついた。


「ダメです! …………しかし、夜なら。1時間だけですよ!」


「うん。ありがとう。ミワコ、僕は戻らなきゃ。その代わり今日の夜、一緒に話そう?」


 そう言われて、罪悪感が首をもたげる。

 私は今悲しいからって、ケイとまた会っていいの?

 私、ムシが良すぎるんじゃない?

 そう考えるとなかなか返事ができないでいた。


「……」


「……あのねミワコ。僕は相談してほしいし、頼ってほしいから、どんなことでも話してくれると嬉しいな。僕が聞きたいんだ。悪いなんて思わなくていいんだよ」


「…………わかった。ありがとう、ケイ。じゃあ今日の夜ね」


「うん」


 ケイはくしゃっと頭を撫でて、蓮の花みたいなふんわりした微笑みを残して、自分の世界に戻っていった。


読了ありがとうございました!

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