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暴君王子は彼女を知りたい

王子目線です。

なんだこいつ、めんどくさい女。


それが僕の、カレン・ヴェルディに対する第一印象だった。

初めて会ったのは9歳のとき。彼女はとても明るくて落ち着きがなく、常に笑っているような女の子だった。他人の目を気にせず、誰とでも仲良くなれるような、純粋な少女。王子であるこの僕にも、とても馴れ馴れしかった。

まあ確かにめんどくさい女と思ったのは事実だが、別に僕はきらいではなかったし、彼女が将来の結婚相手ならばそれはそれでありだと思っていた。


いつからだろう、彼女が変わったのは。


留学やら王族の仕事やらで彼女と一年近く会えない時があった。そしてむかえた12歳、彼女と久しぶりの対面だ。

彼女は身にまとった雰囲気も、性格も、話方も、まるで正反対のごとく変わっていた。

とげとげしい空気、相手を威圧し、弱いものを虐げることで自分に意味を見出すような醜い女。

そこに9歳のころの面影など微塵もなかった。……いや、ときたま彼女はひとりのとき、悲しそうな顔をしていた。そのときだけは、そのときだけは、昔の彼女に戻ったようだった。


そして月日は流れ、学園への入学が決まる。

相も変わらず彼女のわがままぶりは、とどまるところをしらない。ほんと、なんなんだきみは。この僕に対してそんなに偉そうにできるのは、きみぐらいだぞ。

なぜか僕は、彼女にだけは甘かった。それがなぜなのか、周りはやはり婚約者ですものね、なんて言ってるけどそんなのは僕に関係ない。婚約者だろうが、嫌いな人間は嫌いだ。なのに、なぜ、なぜ…。

イライラする気持ちを押さえ込み、適当に返事をした翌日、念のためと思って校門前に行くとそこに彼女の姿はなかった。


はあああ?


え、あいつまじで、意味わかんないんだけど、は?

誘っておきながら、待ち合わせ場所にいないってどういうことだよ、なんなんだよ。この僕に対して、なんたる仕打ちだ。

ほんとうに、僕をなめるのも大概にしろよ。

怒りで校門前に立ち尽くしていると、ふと帰り際の生徒の話し声が耳に入った。


「あの子教室に残ってたけど大丈夫かしら?」

「なにかを1人で呟いてらしたわ」

「それにしても美しい金色の髪でしたわぁ」

「ほんとに!どこのご令嬢かしら?」


僕は無言で校舎へ足を進める。

言わずもがな、さきほどの会話はおそらくカレンのことであろう。

彼女はあの容姿からどこでも噂になった。この僕が嫉妬するほどに。そう、そこだけは9歳の時と何も変わらない。


彼女は必ず僕よりも先に噂の的となるのだ。


足を進め、彼女の教室へと着くと彼女は1人で机に向かっていた。勉強でもしているのだろうか。何やら真剣な面持ちだ。


ねえ、と声をかけた瞬間、凄い勢いで彼女は顔を上げた。そして驚きの表情を浮かべていたが、思わず僕の方がその動きにびっくりしてしまう。声をかけただけなのに、なにをそんな驚くことがあるのか。


あぁなるほど、約束を忘れていたことを思い出したのかもしれない。

確かにそれならさきほどの驚きも納得できる。さあ、謝罪なりなんなり聞こうじゃないか。


しかし彼女の口からでたのは、まったく予想していなかった言葉だった。


「ア…アダム・ピティストーム……」


は?


思わず顔が引きつる。

なに、謝罪のひとつでもあると思ったんだけど、え、これはなに?呼び捨てしてしかもなに、その表情。困惑したような怯えたような、まるで僕に会いたくなかったかのような顔。


イライラしながらも僕は笑顔で彼女に問いかける。

きみはいつから僕のことを呼び捨てにするようになったのかな?


誤魔化すように可愛らしく笑う彼女に、僕はどこか違和感を覚えた。なんなんだろう、さきほどから感じる、この違和感は。彼女と話しているようで、まるで話していないような。けれどどこか、懐かしさを感じるような、なんとも言えない感覚。


そういえば雰囲気も変わった気がする。まとわりつくような、他人を寄せ付けない嫌な雰囲気がなくなっている。

昨日の今日で、一体なにがあったというんだ。


「わ、わたくし、用事を思い題したので、失礼させていただきますわ」


その声にはっと我に返り、カレンを見る。彼女はすでに、帰る準備をして僕をおいていこうとしていた。

この、僕を、おいて。


「では、ごきげんよう」

「待ちなよ」


カレンの腕をつかみ、ぐいっと自分に引き寄せる。

なぜ僕が彼女に振り回されなければならないのか。なぜこの僕がわざわざきみのために教室まで迎えに来なくてはならないのか。きっとその答えはとっくの昔にでているのだ。だが僕はそれを、決して認めはしない。

君が、きみで、いるあいだは。


気がつけばなかば強引に、彼女にでかけることを頷かせ、馬車に乗っていた。


その間にも僕は観察する。


ちがう、やっぱりちがう。

彼女は昨日のカレンとは、何かが異なる。見た目にこれといった変化は見当たらない。

だがさきほど言ったように、雰囲気がまったく、360度ちがう、なにもかも!


…いや、360度じゃなくて、180度か。


まあ、そんなことはどうでもいい。

なんだ、何が違う。あぁ、モヤモヤする。

じーっとみつめていると、なにやらぎこちない様子で彼女が僕に質問を投げかけてきた。


友達?いきなりなんなんだ。


「なに、興味あるの?」

「い、いいいいえ別に。まったく、興味なんてとんでもない、たまたま、そう、その、ふと、気になっただけ、といいますか、その」


おどおどとなにやら言い訳する姿に、思わず苦笑する。


「興味ないんだったら別に、答える必要ないよね」

「う……そうですわね」


彼女の反応が面白くて、つい意地悪なことをしてしまった。どうやら僕は、昨日までの彼女よりこちらの彼女のほうが、親しみやすいようだ。

まあ、質問にはちゃんと答えて上げないとね。


「まあ、僕王子だし。友達ぐらいすぐできたよ」

「そ、そうですか。その中に、その、可愛らしい女の子で、桃色のふわふわした髪をした方はいらっしゃいますか?」


桃色の髪をしたおんな?

なんでいきなりそんなことを。やっぱり、学園に入学しておかしくなったんじゃ…。

そこでぼくははっとする。


これは、まさか、


ヤキモチというやつじゃないのか?


今までは他の人間と交流があったとはいえ、それほど多くはなかった。ゆえに彼女は僕を独り占めできたし、ぼくが他の女になびくなんてことはありえなかった。

しかし、学園に入学したとすれば話は違う。


聞いたことがある、学園に入学した貴族の中で、たまにではあるが元いた婚約者とは別の女性と婚約することがあると。

なるほど、彼女はそれを気にしていたのだ。

僕が違う女性に目が行ってしまうかもしれないということを。


なんだ、そんなことを気にしていたのか。

ふふふ、やはりカレンはいままでと何も変わっちゃいない、僕に執着し、僕のことが大好きなのだ。


「ふうん、まあよくわからないけどわかったよ。僕が、他の可愛い女の子にとられないのか心配だったんでしょ」


そういった瞬間、彼女は急にあっはっはなどといって笑い出した。

怖い。


「は?」

「…あっ」


驚きのあまり目を見開くと、明らかに彼女自身も動揺していた。

なんだ、さっきのはなんだ、普通に怖かったじゃないか。

すると彼女はまるで解放されたダムの水のように、一気に話し出す。まるで先ほどの言葉に上書きするかのごとく。


す、すごく、すごく早口で正直何を言っているのかわからない。なんだ、なにが言いたいんだ。

あまりの勢いにたじろぎながら、ある程度のところで「ストップ」と声をかける。


「本当によくんからないんだけど、結局なにが言いたいのかな?」

「で、ですから、その、学園で彼女を作ったとしても、私はなんとも思わないので、私のことは気にせず学園生活を謳歌してくださいと」


その言葉に一瞬眉をひそめる。

彼女はさっき僕にヤキモチをやいていたんじゃないのか?

それを今度はどういうことだ。

さっきから支離滅裂すぎる、わけがわからない。


「なに、僕に彼女を作って欲しいわけ?」

「いや、別に強要しているわけではなくて、そのもしもの話で、もし好きな人ができたとしたら、私にはなんの遠慮もしないでほしいと言いたいのです」


遠慮?だれに、なにを。


胸のうちにふつふつと何かがこみ上げる。

ああ、この女は、彼女は、カレンは、何かを勘違いしている。


好きな人ができたら?


好きな人もなにも、この僕には婚約者がいる。そしてそれは彼女もおなじ。

つまりもうすでに彼女がいるも当然、だというのに。なのにカレンはあろうことにも、この僕をそういう風に認識していないらしい。

僕に対してそういうことを言うということは、自分もこれから好きな人を作るということか。


本当に勘違いも甚だしい。

この僕以外の人間と、うまくいくと思っているのか。あんなにも僕のことを大好きな人間が。


「……きみってさあ、ほんっと勘違いも甚だしいよね」

「え」


思わず出た言葉に、自分も動揺する。だが次々と出てくる言葉は止められない。


そう、もともとカレンに興味などないのだ。むしろ彼女の方が僕に執着している。いつもしつこくつきまとったり、嫉妬したり。それを今日いきなり、彼女を作れと?


「口を慎んでくれる、カレン・ヴェルディ。僕は次期この国の王になる男、アダム・ピティストームだよ」


そう冷たく言い放つぼくをみて、彼女は大きく目を見開いていた。

あぁ、やってしまった。

思考がぐるぐると回る。

違う、違うんだ。こんなにも冷たくいうつもりはなかった、突き放すつもりはなかった。僕は、僕はただ、少し戸惑ってしまったんだ。

いつもと違う彼女に。そして僕自身に。


「わかったかな。僕は君に遠慮なんてしてないし、好き勝手するつもり」


次々にでてくる言葉は、まるでブーメランのように自分自身にも刺さった。

なんとかしなくてはならない、この状況を。


「……だけどまあ、きみは以前から僕のことを好きみた」

「ええ、十分に理解いたしましたわ」


突然に遮られ、言葉が止まる。

なに、なにをだ。僕はまだ最後まで話していないぞ。

しかもなんでそんなに嬉しそうなんだ、訳がわからない。理解したってなにを理解したんだ。僕の言っていることを?まさか、そんなわけがない、彼女はきっとなにも僕のことを知らないし、理解もしてない。

じゃあなんだ?


「アダム様、二人で婚約を破棄いたしましょう!」

「は?」


唖然。


室内が静寂に包まれる。

と、いうよりは僕の耳になにも音が入って来ていないだけかもしれない。


なんといったんだ、カレンは。

婚約を、破棄しましょう?


まて、まてまてまてまて。

どうなったらそういう話になるんだ!

僕か?僕が悪いのか!?


「おっ、おまえっ…いっている意味がわかってるのか!」


自分の口から、思っても見なかった言葉が出る。

そして大きな声で怒鳴ったせいで、馬が驚き馬車が急停止した。

ききぃーっと馬車が大きく揺れる。


「うわっ、ちょ」

「っ…」


明日から崩れ落ちそうになったカレンをガシッと支え、彼女の目を見る。


「あ、ありがとうございます」


一体カレンは何を考えているんだ。

僕のことが好きだったんじゃないのか。それを、いきなり破棄をしようなどと…。


そこで僕はふと思いつく。

そういえば彼女は好きな人を作りたいと僕に提案してきた。だから僕にも彼女を作っていいと。

もしかして、好きな人をこれから作りたいんじゃなくて、もう気になる人ができたんじゃないか?彼氏にしたいと思う人間ができたんじゃないか?

この、僕以外に。


ぐっと体に力が入る。


そうか、僕以外の人間に乗り換えようというのか。

だからもういっそのこと、婚約を破棄しようと。


「…気に入らないね」


誰がそんなことを許すというのか。

勝手に僕から離れて行こうなんて、できると思っているのか。

はっ、笑わせるな。


「婚約破棄なんて、僕は絶対にしないから」


しっかりと彼女の目を見据える。

今まで振り回されてきたのだ。今度は僕の番だ。君の思い通りになど、絶対にさせない。


とことん、邪魔をしてやる。


「…おまえの思い通りになんかならない」

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