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悪役令嬢は勘違いを取り消したい

 ガタン ガタン ガタン


 揺れる揺れる馬車の中、重苦しい空気が漂っています。

 あれ…?わ、私今から町におでかけするんだよね?おでかけってこんなに息苦しいものだっけ?あはは。


 もう、完全に涙目である。まばたきの一つでもしようものなら、涙がこぼれ落ちてしまうほどには涙目である。その原因は明白、私と暴君王子ことアダム・ピティストームはいま、お互い向かい合って座っていて、同じ空間にいるからだ。

 相変わらずの笑顔でこちらを見ているアダム様。なんなのだろうか、私の顔をみたところでなんになるというのだろうか。

 私はというと、絶対に目など合わせるものかという意気込みのなか、ずっと外の景色を眺めている。視線が痛い。

 どうしよう、アダム様と二人になるのってこんなにきつかったっけ…。何を話せばいいのだろう。

 あ、そういえば、アダム様はもうヒロインと出会ったのかな。もしもう、出会っているのなら次のイベントもそう遠くないうちに起こるだろうし、私もなにかしらの対策を考えていかなくてはならない。


 たとえば私に何の悪意もなくても、好感度アップイベントに居合わせてしまって、ヒロインにたまたま不快な思いをさせてしまったら?婚約者である私は、嫉妬に狂い故意的にやったと思われかねない。

 それはだめだ、絶対阻止せねば。

 とにかく私がアダム様に好意を抱いている(勘違いされている)この状況をなんとかしなくてはならない。

 少なくともアダム様だけにでも理解してもらわなければ。最悪の場合、暴君王子に直接デッドエンドへと導かれかねない。


 よし、じゃあそれとな~く、様子を聞いてみよう。うん、大丈夫だよ、私、それぐらいできるよ、私。


「あ、の、アダム様、お、お友達とかもうおできになられたのでしょうか」


 視線をゆっくり合わせながら、尋ねる。

 いや、なんだ、おできになられましたかって。どんな敬語だ。


「なに、興味あるの?」

「い、いいいいえ別に。まったく、興味なんてとんでもない、たまたま、そう、その、ふと、気になっただけ、といいますか、その」

「興味ないんだったら別に、答える必要ないよね」

「う……そうですわね」


 正論すぎてなんも言い返せない。しかもなんでさっきよりも笑顔輝いてるわけ。


「……まあ、僕王子だし。友達ぐらいすぐできたよ」


 いや結局答えるんかーい、なんじゃーい。


「そ、そうですか。その中に、その、可愛らしい女の子で、桃色のふわふわした髪をした方はいらっしゃいますか?」


 ちなみにその桃色のふわふわした女の子は、言わずもがなヒロインのことである。

 CMとかで流れてたからね、その辺はちゃんと知ってる。


「いや、別にいないけど…」


 うわ、やばい、なんかめっちゃ疑いの目で見られてる。そりゃそうか、そうだよね、だって、いきなりやけに具体的な人物指名されて、友達になりましたかってわけわかんないもんね。


「あ、いやその、別に深い意味はありませんのよ。ただ、ちょっと気になっただけで」


 やっぱり疑いの目は変えてもらえない。しかし何を思ったのか、アダム様はニヤッと口角を上げて笑った。

 そしてとんでもないことを口にする。


「ふうん、まあよくわからないけどわかった。僕が、他の可愛い女の子に取られないのか心配だったんでしょ」

「あっはっはっ」


 何を言ってるんだ、そんなことありえるわけないだろう。


「は?」

「…あっ」


 しまった!慌てて口をふさぐ。

 やばい、やってしまった。どっから出てくるんだみたいなフレーズが彼の口から飛び出たものだから、思わず素で笑ってしまった。やべぇ、なんとかせねば。


「う、うふふ。少し取り乱してしまいましたわ。もちろん心配しておりますわ。ただ、新天地ということもありますし、王子様のことですから色々な人と出会うでしょうし、そこに対して私はなんの問題もないということを言いたいんですの。もちろん、心配はしていますわ。でも、私は全然構いませんので、ぜひ学園生活を謳歌していただきたいなと思いまして」


 早口でペラペラと言葉が出てくる。やっぱ追い詰められた人間ってすごい。

 アダム様はというと呆気にとられて私を凝視している。

 やめて、わかってる、自分がやばい人間なのわかってるからあ!


「そう、そもそも私たちの婚約自体も幼い頃、親同士が決めたものですわ。ですから、今となっては時効というのが働くのではと考えたわけです。別に無理強いはいたしませんが、私はもうあの頃の私とは違いますし、アダム様のことはお慕いしていないわけではありませんけども、まあ前よりはそれほどですし、なんといっても出会いが増えるのだから多少は」

「ストップ」


 その言葉に合わせて私はぐっと口をつぐんだ。


「本当によくわからないんだけど、結局何がいいたいのかな?」


 おぉ…素晴らしい笑顔で詰め寄りますのね…!

 その笑顔がどれだけの恐怖心を煽るのかしらないのかっ…。


「で、ですから、その、学園で彼女を作ったとしても、私はなんとも思わないので、私のことは気にせず学園生活を謳歌してくださいと」

「なに、僕に彼女を作って欲しいわけ?」

「いや、別に強要しているわけではなくて、そのもしもの話で、もし好きな人ができたとしたら、私にはなんの遠慮もしないでほしいと言いたいのです」


 そう、今までの私の態度からして、こうでも言っておかなければ変な勘違いをされるかもしれない。

「俺がヒロインを好きだといったら、カレンが嫌がらせを始めるかもしれない」みたいな!完全に私の妄想100%だけれども!


「……きみってさあ、ほんっと勘違いも甚だしいよね」

「え」


 急に低くなった声のトーンに思わず固まる。


「別にきみに言われなくても、鼻からそうするつもりだよ。君が思ってるほど、僕はきみに興味がない」


 …え、あ、そうだったの?いや、興味ないことは知ってたんだけど。鼻からそうするつもりだったって…え?もともとカレン・ヴェルディと婚約するつもりはなく、好きな人できたらそっちに移るってこと?

 まってもしかしてこの人、仮にも婚約者を前に、正々堂々浮気を宣言してる?(笑)

 確かに親同士の決めた結婚だけれども、ここは現代日本ではない。ゆえに子供の発言よりも家元や、親の発言が権限を有する。しかも向こうは王族であってこっちはそれなりの貴族、簡単に破棄できる婚約ではない。だから、そのしがらみを王子は気にして、私にそれなりの遠慮はしてると思ってたんだけど…。


「遠慮しないで欲しい?はっ、するわけないだろ、誰だと思ってるんだこの僕を」


 笑顔が消え去ったアダム様。口調もすっかり変わってしまっている。あぁ、なんかわかった気がする。


「だいたい、さっきの君の言ったことは僕のセリフだと思うんだけど。まとわりつくような好意を寄せていたのはきみだ。僕じゃない」


 わかったというよりは忘れていた、こいつは暴君俺様王子だったことを。そうだ、そんなしがらみこの人には関係ないんだった。あくまで第一優先は自分、それがたとえ現国王相手であってもゆるがないのだろう。むしろ今の今まで、よく王子キャラを崩さず私と接してきたものだ。感心してしまう。

 まあ、なんで以前の私はこんな人が好きだったのか。


「口を慎んでくれる、カレン・ヴェルディ。僕は次期この国の王になる男、アダム・ピティストームだよ」


 わあー。びっくりするぐらいのテンプレートセリフに心の中でぱちぱちと拍手を送る。そしてそれがまたゲームのスチルになりそうなぐらいキラキラと格好良く見えるのだから、さすがとしか言いようがない。

 すごい、なんか実際にみると思っていたよりも重症でちょっともうどうしていいのかわからない。

 そうですわね、アダム様ですものねなんて笑ってごまかす。


 なんだ、なんか変に心配をして損をした。この人は私のことなんてほんっと眼中にないのだ。つまり私が何をしようとこの人には関係ないわけで。逆に言えば、この人が誰と何をしようと私には関係がないのだ。さきほど心配したようなことも起こりそうにないから、内心ほっとする。


 しかも、なんだか心が軽くなった気がする。

 ここまではっきりすると、この人物が私に害を与えることはなさそうだ。まあ、性格的な面ではちょっと害を与えられそうな気がするけど、まあそれはおいておこう。


 ん?でもまって。いまこの場でお互いに恋愛感情がないことが判明したよね?じゃあアダム様と私の二人で、お互い好きな人ができたって言って婚約をなかったことにできるんじゃない?そりゃ、親同士のあれこれとか色々あるだろうけど、流石に二人同時にそのことを切り出したら、否が応でも考えるのではないだろうか。

 そのことに気づき、思わず息をのむ。


「わかったかな。僕は君に遠慮なんてしてないし、好き勝手するつもり。……だけどまあ、きみは以前から僕のことを好きみた」

「ええ、十分に理解いたしましたわ」


 アダム様の言葉を途中で遮り、私は今度こそまっすぐアダム様を見据える。

 ああ、私はなんとすばらしいことに気づいてしまったのだろう。思わず口元がゆるんでしまう。


「アダム様、二人で婚約を破棄いたしましょう!」

「は?」


 さあ、こっからよ、待ってなさいよヒロイン!私はあなたとお友達になるんだからね!

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