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マーマンの暑い日々  作者: ベスタ
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8 首都ポリフェル

 カララト海域の首都、ポリフェルに潜入するグループは流石にテル1人ではなかった。


「当たり前だ。こんな楽しいことを独り占めはさせんぞ」


 その1。タコスが来ていた。そもそも大将で支配者であるタコスが偵察に最も向いていなかった。

 ただ、だれもがタコスがわがままを本気で言ったらそれを止められないので、それだったら外でストレスを発散してもらおうと思ったようだ。

 わかりやすくいうとテルに押し付けたのだった。


「……私は基本、見えるところにはいないから」


 その2。苦内がついて来ている。これはテルにとって正直助かる。連絡を取ろうにもテルでは時間がかかってしまう。その点、苦内ならば影を伝いすごいスピードで行き来できてしまうのだ。

 魔法なのか特殊能力なのか本人にも今だに原理はわかっていないようなのだが。

 そして、


「私に任せてね。兄さん」

「あ、ああ」


 その3。奈美がついて来ることになったのだった。

 支配者であるタコスの防衛を少しでもマシなものにするために。そして、表を歩いているのがテルとタコスのみでは男2人で怪しまれるため。奈美が加われば兄弟か家族と言い訳すれば通じることもあるだろう。


 ただ、少し奈美が積極的だったのがテルには気になった。

 テルがイワシだった頃は他の兄弟とはあまり付き合いが薄く、マーマンになってからは女性魚人がやけに性的に見えて、テルは距離をとっていたのだった。

 流石に兄妹でというのをまずいと思ったというのもある。


 しかし、そんなことお構いなしに奈美はひっついてくるのである。今もテルの腕に自分の腕を絡めて寄りかかって来る。

 実際それで周りからは違和感なく見られているので効果はあるのだが、顔が少々赤くなるテルであった。

 そもそもテルは人間時代を合わせても女性に免疫がないのだから。


 最後までフーカがテルについてくると言っていたが、それは断った。

 テルも保護者としてはフーカと一緒にいたいと思っていたが、今回の任務は偵察である。190cm近くある身長で贔屓目抜きにしても美女のフーカがいては目立ってしょうがない。

 だからテルは、少しでも早く帰ってこれるよう頑張ろうと思った。



 相変わらず天気は良く、海底まで日光が降り注いでいた。

 テル達は暑さに負けそうになりながら、砂漠のような海底を泳いでいた。しかし、以前ほどの頭痛や吐き気は治まりつつあった。

 一二三の言うように体がだんだんと慣れて来ているのであろう。

 普段は踏ん反り返っているタコスも、文句も言わずに泳いでいた。

 暑さにへばりそうになりながらも先を見やるテル。地球の砂漠であれば蜃気楼の1つや2つ見るのであろうが、水中なのでそんなものを見る心配はない。

 また、テル達に襲いかかってくるような大型の魚もいなかった。

 日中は苦内が少し苦しそうにしていたが。


「その黒ずくめは暑いだろ」

「大丈夫です。兄さんはお気になさらず」


 強がっているようだが、まあ、大丈夫だろう。

 苦内はその名前からもわかるように971番目の兄弟だ。4番目であるテルや73番目である奈美に甘えたいだろうに、気丈にも強がっている。責任感も強いので本当にダメそうであれば自分から申告するだろうし、自分で言わなくても奈美が止めるだろう。

 なにせ、テル達イワシ魚人には強い共感能力があるのだから。


 1日泳ぐと砂漠から急にサンゴの海になっており、テルは驚いた。

 周りはそのサンゴや海藻の恵みにより、色とりどりの魚が顔を出し豊かな生態系で満ちていた。


「ほう、ここまでくると暑さも少し和らぐな」

「そうですね。サンゴが日陰を作ってくれるんで」


 タコスがやれやれといった感じでつぶやく。それに賛同するテル。

 日陰ができれば温度差ができ、温度差ができれば海水に流れができる。

 流れはものを運び、流れは豊かさを作る。


 ではなぜアーラウトとカララトの間に砂漠が広がっているかと言うと、カララトの国防である。物影がなければ、敵が攻めて来た時すぐにわかる。また、先ほどの戦いのように物影などに休むことも難しいので暑さになれるのに時間がかかる。


 何気にカララトがアーラウトを舐めていたとしても、それなりの防御は考えていたということである。


「あれがカララトの首都、ポリフェルだ」


 サンゴが姿を見せてからしばらくするとタコスが説明をする。しかし、みんなその姿に目を奪われていた。


 カララトの首都、ポリフェルが見えてくる。

 テルたちから見た場合、まず目立つ城があり、その前に絨毯のように街が広がっていた。

 城の正面から、家が何件か入りそうなただっぴろい街道がまっすぐに伸びており、その脇に商人が簡単な陽射しよけのみの商店を連ねており、箱にあふれるほどに入れた商品を地面に直に並べている。


 商人も道行く魚人も泳ぐ魚たちも、熱帯魚である。

 色鮮やかな赤やオレンジ、きらめく青色の色とりどりの色が街道にあふれているのである。街の人々はヒラヒラの服を好み、まるで絵の具のパレットが混ぜ切らずに溢れ出したような華やかさであった。


 商人は道行く魚人に呼び込みをかけており、買いたい人が値切っていく。街のそこかしこで喧嘩をする声もするが、それすらも賑わいの1アクセントに過ぎず、街道を喧騒と色とりどりの魚と魚人が入り混じってごった返していた。


 そんな街も活気があってすごいものだったが、それよりも目を奪われたのは首都ポリフェルの名物、ポリフェル城であった。

 コンクリートのような白くてつやつやした大きな城で、アラブな建物のように屋根にでっかい玉ねぎを乗せている。ただ、アラブなそれと違うのは、その玉ねぎ型の屋根の色が7色に変化していることだ。見る角度や水の変化で色を変えるその姿は、大きな真珠を連想させた。


「すごい建物もあるもんだなぁ」


 ポリフェル城を見上げて口を開けて眺めていたテル。その姿は完全にお上りさんの姿であった。周りからクスクスと笑い声が聞こえる気がするが、テルの耳には入らない。それほど圧巻の魚人工建造物だったのだ。

 テルの開いた口からノエが身を乗り出す。


「見事ッスねぇ。さすがッス」

「ノエはあの屋根がなんで不思議な光り方をしているのかわかるか?」

「確か特殊なやり方をしていると言うのは聞いたことあるッスよ。元となる部分を岩のレンガで組み立てて、それを大工が真珠液を出しながらずっと磨いていくんス。そうすると頑丈で綺麗なあんな屋根になるんス」


 真珠みたいだとか考えていたらまさかの真珠そのものだった。

 そしてテルは何気にそんなことを知っている、ノエの知識量にもびっくりした。


「よくそんなこと知ってるな」

「まあ、自分も今は勉強してるッスからねえ」


 それもテルは初耳だった。

 昔からノエは博識で、イワシ時代からその知識に助けられてきたのだ。自分は知識があるから、とテルに寄生の売り込みに来たくらいだ。

 カリウム城ではテルが仕事をしていて、フーカは戦闘訓練をしていた。その間暇だからとノエはちょくちょくテルの口から出てどこかに行っていた。それはテルも実は知っていたのだが。


「そんな事をしてたのか」

「見えない努力ってやつッスね」

「言わなければもっとカッコよかったがな」

「あらー?」


 たははっとノエが苦笑いする。しかし、テルは内心ではノエのすごさを再認識していた。

 ノエはあくまでもテルの体の間借り人である。そりゃあテルが死ねば当たりどころが悪ければノエも死ぬのだが、テルが死んだだけであれば次の賃貸に移ればすむだけである。

 それを勉強してくれているのだ。テルと一緒にいる事をいい事だと思ってくれているのだろう。だからテルとしても、素直に感謝を伝えておくことにした。


「冗談だ。ありがとな、ノエ」

「!!?」


 ほんの少し口の中で戸惑うような様子が聞こえた後、テルの口の中から小さく「たはー」という声が漏れて聞こえた。

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