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マーマンの暑い日々  作者: ベスタ
7/25

7 偵察任務

 1日ほど逃げに逃げてようやく落ち着くタコス軍。その間、食料はなく、腹が鳴る音がそこかしこで鳴っていた。

 テルもボロボロになりながらも予備でそれぞれが持っている食料をフーカとノエの3人で分けて逃げ続けていた。つらいことはつらかったものの、いますぐ何かに殺されるという状況でもなかったため、テルは思ったよりも気が楽にいられた。

 幸いなことにボンジモの追撃は無く、戦闘が起こることはなかった。


「全体、止まれー!」


 タコスの言葉に何事かと集まる兵士たち。テルも一緒になってタコスのもとに集まった。


「点呼を開始だ!」


 タコスの号令に戸惑いながらも人数確認をしていく兵士たち。それをまとめたゲールラ将軍がタコスに伝える。


「総勢7704名です」

「思ったより生き延びれたな」

「はい」


 タコスはそういうと隣にいる一二三が答える。

 なんのことかわからない兵士たちは不思議そうにしているが一二三が手を上げて伝える。


「あちらの方に岩場があり、ひとまず全軍、そこで休憩とする。今後の方針はそこで話し合うとするが、そこに着いたら諸君はしばらく休暇となる」

「休暇?」


 テルは不思議に思ったが全軍が指示に従う。

 砂漠のような砂地を超えるとそこにははたして、一二三の言った通りの岩場があった。

 そこには食料があり、何人かの補給部隊の兵士が調理をして待ち構えていた。

 腹が減っていた兵士たちはごくり、と生唾を飲んだ。


「さあ、順番に食事をとり、英気を養ってください」


 一二三のその言葉に群がるタコス軍兵士たち。

 食欲がない、などというものは1人もおらず、やがて満腹になった兵士たちは各々過ごしやすい場所を探し眠りにつき始めた。

 意味はわからないものの、テルも食事を食べて一休みしようとした時、一二三に呼ばれた。


「兄さんは会議に来てください」

「俺もなのか?」


 よくわかっていないテルは、ひとまずフーカを寝させてから一二三に促されるままについていく。タコスがいる場所にはいつのまにか簡易的なテントが張られており、そのテントに入っていく2人。


「テルか。待っていたぞ」

「一体どうしたんです?」


 テルとしては何がどうなっているのかさっぱりわからない。逃げることが前提と取れるような発言をしたり、負けるのがわかりそうな進軍をしたり。逃げてみれば食料が置いてあったり。

 不審そうな目を向けるテルに一二三が伝える。


「一から説明しましょう。

 まず、我々が戦いに勝つためにはこの暑さに慣れることが大前提でした。

 そのためゆっくりと進軍をしたのですが、思ったよりも時間がかかってしまいました。」

「だが、慣れていたとしても戦いに勝てるとは限らないだろう。敵はこちらの2倍の数がいるんだろう? 普通にやっても勝てないだろう」

「それがそうとも限らないのですよ」


 テルの質問に一二三が粘土板を指し示して答える。粘土板にはカララト海域周辺の地図が書かれていた。


「カララト海域は地形的に非常に難しい土地です。

 我々と違い海域が3つの国につながっています。1つは侵略意欲の強い我々アーラウト海域。2つ目はそこまで支配欲はないと言われていますが、小競り合いを続けるサイガンド海域。最後にタロス海域です。

 カララト海域は常にこの3つの海域に警戒しなければいけません。


 しかし、今までは我々アーラウト海域の魚人達はカララト海域に攻め込みませんでした。理由はわかりますか?」

「昔、ボロボロに負けたからか?」

「その通りです」


 一二三が意を得たとばかりににっこりと笑う。


「その結果カララト海域が警戒をするのは、サイガンド海域とタロス海域となりました。

 軍の半分を首都におき、残り半分をさらに2つに分け、それぞれの海域近くの砦に防衛軍として配置しています。


 具体的にいうならば8500人が首都ポリフェル城に。

 サイガンドとタロスへの砦にそれぞれ4000人づつ配備しました。


 これでサイガンドとタロスのどちらかが来ても砦の兵士+首都の兵士が応援に来ることで10500人が動員できます。そう簡単に砦が落ちることはないでしょう」

「な、なるほど?」

「逆に言えばサイガンドとタロスの砦にいる防衛部隊は動かせない。

 つまり、我々7800人が戦うのは、首都防衛部隊の8500人だけでよかったのです」


 そう言われると確かに。

 その人数差であればうまく戦えれば勝ちも見えたかもしれないのはテルでも何と無くわかって来た。真正面から戦ってももしかしたら勝てたかもしれないのだ。

 実際ボンジモ率いる敵兵士は、テル達と同じくらいの数しかいなかった。

 テルが見えていないところでも戦いは動いていたのである。


「しかし、ここで誤算がありました」


 一二三の言葉に不安が呼び覚まされる。そう、勝てるかもしれない戦いではなかったのだ。実際にはテル達は負けて、逃げ延びてきたのだ。

 それは何か問題があったということに他ならない。


「暑さに慣れるのが思いの外ゆっくりだったのです。暑さに慣れる時間をカララトからの商隊を基準にしていたのが間違いでした。


 それはカララトに入って3日目。みなさんの足取りを見て気づいたことです。

 その時にすぐさま食料を分割し、進軍ルートではないこの岩場に一部の食料を隠したのです」


 その言葉にテルはなぜこんなところに食料があるのかを理解はできた。出来たがやっぱりイマイチよくわからなかった。


「つまり、どういうことなんだ?」

「………ここにある食料はある程度持ちます。武器や追加の食料をカリウム城に手配しているのでしばらくすれば装備も整うでしょう。兵士たちも暑さに慣れつつあります。

 しかし、その間我々は全く動けません。暑さで斥候もあまり活躍できませんし。情報が足りないのです。


 ですから兄さんには敵の情報をとりにいってほしいのです」


 説明を聞いたがテルにはますますわけがわからなかった。

 軍が動けないのはいいとしよう。それも食料や武器も時間が解決するのもわかった。


 でも、なぜテルが情報収集にいかなきゃいけないのかが全然わからなかった。


「……なんで俺なんだ?」

「兄さんは魚人にしても小柄な部類です。物理的に気づかれにくいことがあります。

 次に兄さんは書類整備をしていますが、そこそこ戦うこともできます。色々な視点を持っていて、いざという時に戦える人材はなかなかいません」


 理不尽に殺されないために中途半端に鍛えていたことが、逆に仇となっていた。

 そこそこの情報分析能力にそこそこの戦闘能力はたしかに、テルが適任なのかもしれない。


「あと、お前は少し変わってるからな」


 それまで黙っていたタコスが割り込んで来る。

 テルとしてはその言葉には納得できなかったが渋々了承するのであった。


 テルはこうしてカララト海域の首都、ポリフェルに偵察することとなった。

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