3 作戦会議
めちゃくちゃ説明回です。
2日後、テルは会議に出席していた。
タコスが言うには戦争のための説明らしい。
タコスは常々世界征服が目標だと言っており、それはどうやら本気らしいことが最近テルにもわかり始めた。
カリウム城の会議室は冷たい石造りの部屋で大きく細長い机が真ん中に置いてある。
その1番奥にタコスがふんぞり返り、その右隣にテルが座る。テルの正面にはティガが座り、テルの横にはフーカが座った。フーカはこれから戦争が起ころうという状況であるにもかかわらず、いつもと同じようにしており、緊張とは程遠い感じであった。大物かもしれない。
ティガの隣は空席で、以下、12名の軍団長が揃っていた。
ヤリ部隊の主力を統括するゲールラ将軍。
そのゲールラ将軍を補佐する史郎。
魔法部隊を指揮するのは余市がすでに最高位に位置していた。
斥候部隊のワドワルド。
食料輸送隊のベーモン。
などなど。
テルはここまできて今更だが、なぜ自分はこんなところにいるのか意味がわからなかった。
テルは特別頭がいいわけではない。書類整理だってムジナがメインで書類を分けて、細々したところをテルが補佐しているにすぎない。
戦闘だって鍛錬はしているものの史郎にも勝てず、軍団を統率することもできない。
魚人であり兄弟である余市や史郎が年長者であるテルを持ち上げるのはまだわかる。しかし、ただのサラリーマンであるテルが、ゲールラ将軍達よりも上座にいる意味がわからないのだ。
また、それを誰も問題としないのも意味がわからず怖いものがあった。
ガチャ
「遅くなりました」
扉が開き魚人が入ってくる。
それはイワシ魚人であり参謀の123一二三であった。彼は兄弟達の中では戦闘面では才能がなかったが、知略に関しては優秀な成績を出していたのだった。
「揃ったな。では始めるとしよう」
タコスの言葉に全員がタコスに注目するが、先ほど来たばかりの一二三が立ち上がる。一二三はタコスの後ろにある大きな粘土板に泳いでいくと大雑把に絵を描いた。
それはアーラウト海域周辺の大雑把な地図であった。
「まず見ていただきたいのがこちらです。
現在、我々は全ての海の支配を考えて動いております。ここまではよろしいですか?」
「ああ」
一二三の言葉に何か言いたそうなゲールラ将軍だったが、タコスの言葉に口をつぐむ。
それを見てから一二三は説明を続ける。
「そのためにもまずは侵攻をしていかなければなりません。この場合、我々はまず隣のカララト海域に侵攻します。
理由は非常に簡単で、純粋にそこしか攻める場所がないからです」
一二三はアーラウト海域の周辺にぐるっと囲い、そこに『陸』と書いた。どうやらアーラウト海域は周りを陸地に囲まれた湾のような形をしているらしい。
その一部がカララト海域に隣接していた。
「しかし、ここからカララトに攻め込むのは非常に難しいと言えるでしょう。理由は、ゲールラ将軍に説明してもらったほうが詳しそうですね」
「ああ、わかった」
ゲールラ将軍は顔が日に焼けたようになっておりヒゲをしっかりと蓄えた将軍である。指揮能力などもおそらく高いと思われる。
「このカララト海域は非常に高温な地域であり、そのため体調を崩す者が続出し戦闘にもならない。もし戦えたとしてもボロボロになっている状態で、向こうの敵と争えば負けは必至である。
その代わりと言ってはなんだが向こうもこちらのことを寒いと思っており、お互いに攻め込まない状態が何百年も続いている」
「そう、それだけむずかしいということです。将軍、ありがとうございます」
ゲールラ将軍が着席すると、再び一二三が説明に戻る。
「逆に言いましょう。数百年前には争いがあり、その時はカララト側からアーラウト側に攻め込まれたと言います。そしてアーラウト海域は降参しました」
「ほう、そんなことがあったのか」
タコスの言葉に恭しく頷く一二三。
「はい。タコス様の大叔父様に当たる方、ダゴン様が7つの海を統一支配した時です」
「さすがは大叔父貴だ」
「その時はアーラウト海域軍5000人に対し、ダゴン様率いる軍団は20万人だったそうです」
戦争はゲームしかしたことのないテルでもわかる。つまりはゴリ押ししたのだ。確かに正攻法だ。しかし、
「今回の戦いには全く参考にならないな」
「そうですね」
そして粘土板に、今回の戦いの敵と味方の数が記入されていく。
肩をすくめるタコスとそれに同意する一二三。今回のタコス軍は槍持ち5000人。素手2000人。魔法軍800人と総勢7800人である。
それに対して、カララト軍は槍持ち1万2000人。素手3500人。魔法軍1000人の総勢1万6500人である。
こちらの2倍の兵力に温度による不利が重なり、テルには正直どうやって勝てばいいのかさえもわからない。
「真正面から行けば確実に負けるでしょう。
まずは温度です。
この温度には慣れるしかありません。幸い長い間戦闘がなかったため、カララト海域の敵首都『ポリフェル城』までは砦なども一切ありません。そこまであえてゆっくりと進軍して体を慣れさせる必要があります。
また、そのためには大量の食料が必要となるでしょう。ベーモン殿には無理を言いますが、カリウム城からの継続した食料輸送ではなく、輸送団を作り大量の食料と一緒に移動していただきたい。」
その言葉に頷くベーモン。
輸送団を作れば進軍速度がゆっくりとなる。それは普段であれば軍団にとってマイナスなのだが、今回は体を温水に慣れさせなければ行けないのでゆっくりの進軍が逆にプラスに変わる。
「問題は敵がこちらの動きを読んで待ち伏せをしている事です。温度に慣れていない状態でこちらの2倍の数と当たればこちらは確実に負けです。その場合はどうしましょう?」
「どうするかな?」
一二三がタコスに聞くとタコスはテルを見る。それにつられてみんながテルを見た。
(なぜ俺に聞くんだ)
これといって軍事の知識に詳しいわけでも、素晴らしいひらめきがあるわけでもないテルに聞かれても困るのである。持っている知識は所詮ゲームの知識で、しかも人間同士の戦いだ。参考にならない。ただ、言えることといえば、
「命あっての物種だ。生きていればまた戦えるが、死んでしまえばもうどうにも出来ない。食料だろうが武器だろうが装備だろうが投げ捨てて生き延びることを考えたほうがいいかと」
「なるほど、ではそのように」
「よし、では解散!」
敵の待ち伏せがあった場合は逃げるという方針が決まった。テルの言葉に全員が頷くと、タコスの合図でそれぞれ各部署に散っていった。
というか本当にあれでよかったのだろうか。テルには疑問しかないが、決まったのであればいいのだろう。
テルも戦闘準備のためカリウム城の自分の部屋に戻った。
超訳
次攻める場所超暑いからゆっくり行こう。
途中で敵にあったら逃げろ。