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マーマンの暑い日々  作者: ベスタ
21/25

21 ボンジモの最後

 ティガに1人やられていたボンジモは、目の前の脅威におののいていた。

 それは先ほどまでボンジモたちが追い詰めていたものである。そこに1人の魚人が加わっただけであるのにもかかわらず、


「ここは、任せて」

「いや、援護ぐらいには回らせてくれ」


 テルの言葉ににっこりと笑うと、しょうがないとばかりに頷いてみせる女性。しかし、ボンジモたちを見た時の笑顔は狂気をはらんでいた。


「しょうがないなぁ。

 でも見てるだけだからね」


 その女性、フーカの口がミリミリと裂けていく。そしてその金色がわずかに見えていた瞳が真っ黒になる。そのときボンジモたちは気づいた。先程までのフーカは目が黒くなっていなかったのだ。そして、ここからがフーカの本領発揮ということもわかってしまった。


 フーカは耳元まで口が裂け、歯はもはや全てが牙である。

 おそらく多くのものが同じ言葉を言うであろう。

『バケモノ』と。


 そこからフーカの動きは素早かった。

 テルの目にも捉えられないくらいのスピードで目の前にいたボンジモを叩き潰したのだ。それは言葉の表現ではない。本当に「潰した」のだ。


 ドンッ


 衝撃が後から伝わってくる。ボンジモたちはそれで体が動くようになったのだろう。素早く散開するとフーカの周りを泳ぎ始めた。フーカには普通の攻撃は効かない。勢いをつけるためである。


「それ、痛いからやだ」


 フーカはそう言うと周りを回る残り3人のボンジモのうち1人に噛み付いた。深々と突き刺さる牙にボンジモの顔色が変わる。


 ゴキリ


 鈍い音がしてボンジモの腕が食べられた。


「う、うぎゃああああ!!!!!」


 あたりに血煙が舞う。フーカの目が喜びに震える。興奮しているのか肌の色に軽く朱がさす。血に酔っているのだろう。


 サメは遠くにいても血の匂いで寄ってくる。それだけ鼻がよく、血の匂いに敏感なのだ。


「あは」


 笑い声がこらえ切れないとばかりに軽く漏れる。すぐさま突撃して来た他のボンジモの拳に拳を合わせる。


 ゴキッ


 鈍い音がして拳ごとボンジモの体半分がミンチになる。辛うじて生きているが、そう長くもない。最後のボンジモが蹴りを食らわせるが、腕で防いだフーカが軽く腕を振ると、


 ゾリ


 嫌な音とともに足首から先が『鮫肌』でけずりとられる。

 ここまでくるとあまりにも一方的であった。正直テルの出る幕は一切なかった。フーカは口の中を切った時からずっと我慢していたのだ。…戦闘欲を解放するのを。


 足首のないボンジモを蹴りでへしおり、腕を食われたボンジモを頭から胸元まで食べると、フーカは満足、といった様子でテルの元へ帰ってきていた。


「ね、大丈夫だったでしょ?」


 そう言うフーカにあっけにとられながら、テルは頭を下げてきたフーカにいい子いい子するのであった。フーカを援護するどころの話ではない。援護されかねなかった。


「フーカ、ひとまず休憩しろ」

「えー、まだいけるよ?」

「それでもだ。苦内、頼む」

「わかりました」


 血に酔っているフーカはいつもと違う。少し積極的ではないかと思う。普段はもう少し落ち着いた喋り方をするのだ。普段抑えている心がダダ漏れになっているのかもしれない。本当に酒によっているみたいだった。


 ひとまず興奮を抑えてもらう。本当に酒によっているような状態だと、その内敵も味方も分からなくなって暴れだしかねない。テルにはそうなったフーカを抑え切れる自信が全くないのだ。

 酔っ払った人間のオヤジとは扱いの難しさが違うのだ。

 フーカを苦内に任せ、テルは移動しようと砂地の海底に足をつける。


 その瞬間、脳裏に閃くものがあった。

 それは砂の中にいる敵意。そいつがいまにも飛びかかろうとしている。それは目にはまだ見えていないのだが、テルの中では既に確信になっていた。


 バッ


 テルが飛び退くのと、テルの足をつかもうとする手が砂から生えるのは同時だった。間一髪のところで危機回避できたテルであったが、なぜ先ほどのような現象が起きたのかまでは分からなかった。


 砂地に生えた手が全身を出す。

 橙と白の縞模様。鍛えてある体はそこらを漂うボンジモそのものであった。


「ちっちっちっちっちっちっ。まさか気づかれるとはな」

「お前、死んだはずじゃ」


 テルはティガがボンジモを1人倒しているのを知っている。残りの4人はフーカが倒してしまった。5人いるはずのボンジモは全て倒しているはずだったのだ。


「ああ、兄弟は全員やられたさ。だが俺は残っている。6色縞のボンジモも俺が最後になってしまった」


 そう、ボンジモは最初から6人いたのだ。普段5人に見せかけていたのは相手の油断を誘うため。ボンジモにとっての最後の切り札というわけだ。


「絶対に許さねえぞ」


 底冷えするような目をして、ボンジモはそういうと砂の中に潜っていってしまった。

 周りの砂がざわめく。すごいスピードで移動をしているのだろう。砂煙はやがて砂の表面が見えなくなるくらいざわめきを増していた。


「お前の名を聞こうか」


 ボンジモがどこからか名を訪ねてくる。しかし、高速移動しているのだろう。声の発生源は安定しない。

 テルはヤリを逆手に持ち替えた。来るのはきっと砂煙舞う足元のどこかからだろう。それに素早く対応するために、突きやすいように持ち替えたのだ。


「俺はテルだ」

「テル? 聞いたことがないな。2つ名とかはないのか?」


 耳を澄ましてもどこから声が聞こえているのかわからない。そのために高速移動をしているのだろう。ざわめく砂地にテルの心が焦る。ヤリを持つ手に力が入る。いつボンジモがおそってくるのかわからない。


「無い。俺はただのテル」


 ふと直感が走る。脳裏に電気が走り、つま先の少し先にいるボンジモを捉える。そこにいるのだと感覚が確定情報を伝える。叫びながら迷わずテルはボンジモの頭にヤリを突き入れた。


「イワシのテルだ!!」

「ぎゃあああぁぁあぁあぁ!!!!!!」


 砂の中から悲鳴をあげてボンジモが飛び出して来る。のたうちまわるボンジモはやがて力を失い、目が白く濁る。

 それを確認したテルは、次の作戦に向けてようやく移動を開始した。



 シュモクザメは砂の中にいる獲物を感じ取り、発見することができると言われている。

 それはシュモクザメの特殊な器官が原因であり、これで獲物の発している電気を察知して見つける。


 テルの感知は謎の職業「電マー」の影響なのだが、もちろんテルはそのことを知らないままであった。

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