忘却の英雄、懐かしき少女たちとの最期の別れをするために
初投稿になります。温かい目で見てください。
誤字脱字、変な言葉遣い、誤用等々なにか気になる事がありましたら言ってください。
これは遠い遠い王国の遥かなる昔に起きた幻のような話。
あるところにホーランド王国という国がありました。
国土は木々に囲まれ山から流れ出る雪解け水たちが川を形成し、澄んだ命の水が国土を満たしていた。
善良な王政が敷かれており、国民の支持も高く、また他国からの信用も厚い。
そんなまさに理想国家。人々があこがれ、夢にまで見る国。
そして一際国民から支持、信仰を受ける3人の女性がいました。
一人は、その国の王女。名をルリタニア・ルーデン・フォン=ホーランド。
国土を満たす川のような澄んだ水色の髪を腰まで伸ばした、麗しき女性にして公明正大なる権力者。
その美人具合はすさまじく、国内外から婚姻の申し込みが後を絶たないほどである。
また優れた先見の明を持ち、王国の政治に参加し、それまで以上に王国を発展させた英雄的存在。
一人は、その国の聖女。名をマリーナ・フォン・フランソワ。
太陽の明かりを反射するかのごとく輝く銀髪を持つ、麗しい女性にして従順なる信徒。
慈悲深き心を持ち、どんな人にも等しく平等に分け隔てなく接し、日々教会においてすべての人々の救済と安寧の為に祈り、その祈る姿に感化され人々もまた祈る。
王国の祈りの象徴たる存在。
一人は、最も強き魔女、名をシャルロッテ。
王国に生い茂る草木の翠緑の色の髪の上に黒い三角帽、黒いマントを羽織り、杖にまたがり空から王国を見守る麗しき女性にして防人。
侵略者にいち早く気づき、自身の持つ魔法で敵を討つ。
王国の守りの存在
彼女ら三人は幼馴染で幼少期を共に過ごし、気心の知れた、そして本音で語り合える友でもある。
ここまではだれもが知っている既知にして有名な話だ。
しかし、彼女らが幼き日に共に過ごしたのは3人だけではない。
本来はもう一人、彼女らと幼き日々を過ごし、豊かな平野を、草木が繁茂する森を共に走り回り、夜には一つの部屋に集まり、蝋燭の弱弱しい火を囲み、自らの夢を語り合い、そして彼女ら3人が愛した彼がいたことを知らないし、彼女らも彼のことを忘れたかの如く彼の存在を明言せず語らない。
これはそんな忘却された彼と三人の彼女らのたった数カ月の幻のような話である。
余談であるが、彼女らは九の月のある日に決まって必ず集まり、ある場所へと行き、その場所でその日一日を過ごす。
その場所とは小高い丘になっており丘の上には大きな木が生えており、丘の上からは緑生い茂る草木、山から流れる川が一望できる絶景のスポット。
そしてその丘に大きく生える木の根元には墓石と思われる石とその周りに薄紫色の花が咲きほこり、石の前には献花のように花が手向けられている。
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別段何かあるといった日でないごく普通のある日、ホーランド王国が誇る大森林の中に一人の少年がいた。
その少年は記憶をなくし、どうしてここにいるのか、何をしようとしていたのか、どこへ帰れば良いのかわからなかった。
そんな困惑している少年の元へ、近くにいた兵士たちが近付き、保護し近くの街、王都へ連れて行った。
王都の役所でその少年は自身をカールと名乗り、気づいたらあの大森林にいたことを説明する。
捜索願が出てないかやカールの記憶についていろいろ調べてたら気づいたらひと月が経過した。
取り敢えず緊急の処置として王都にある国営の学園に編入することが話し合いの結果決定。
同年代だと思われる人たちと交流すれば記憶が戻ってくるだろうということだが、その実は厄介払いのほかない。
そんなこんなでカールは学園に編入することになる。五の月の出来事であった。
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王都の学園。
身分の違いなく平等に教育を受けさせ、共に交流することで見聞を広めるを理念に設立された学園であり、ここでは王侯貴族、平民は関係なく互いに平等であるとなっている。
しかし、現実はそう甘くなく、王侯貴族と平民は互いに近寄らず、王侯貴族は王侯貴族で、平民は平民でそれぞれグループを作り互いに干渉しないようにしている。
そんな冷戦直下のクラスの中に一石、カールという例外が投じられる。
「カールです。よろしくお願いします」
カールは自己紹介をし、クラスを見渡す。
右翼、左翼の語源となったイギリスの議会を想像してもらいたい。
ちょうどそんな感じにクラスの右側に平民が固まり、左側に王侯貴族が固まっていて互いに一言も交わさない。
カールに対しての反応も王侯貴族と平民でまったく違っていた。
平民側の人達はカールが貴族の出でないことを知ると好意的な反応をし、逆に王侯貴族はカールが平民であることを知るとあからさまに態度を変え興味を無くしたようにほかの事をしカールを見ることもしなくなった。
ただ二人を除いて。
王侯貴族側に座る二人、美しい水色と銀髪の髪を持つ少女二人はまるで生き別れた兄弟、死別した親しい人に再開したかのように目に大粒の涙を浮かべ、口元に手を当てて小さく震えていた。
平民側にも一人、翠緑の色の髪を持つ少女が同様の反応をしていた。
そんな三人の反応を疑問に思うがいつまでも教壇にいるわけにもいかないので平民側の空いている席に座り、始まる授業を聞く。
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カールにとって初めて聞く授業の内容のハズなのに、どこか懐かしい話のような気がしていた。
「じゃあここ、早速で悪いけどカール君わかるか?」
「え、あ、はい。えーと、現象を発動するためには自然現象に反することを行うわけなので、神々に魔力を介して自然現象を歪めて自身の願う現象を発動してもらう。それを仲介するのが魔法陣で、一般的に魔法陣を使うのが魔術で、魔法陣を使わず現象を発動するのが魔法となっている。でいいですか?」
「素晴らしい。満点です。どこかで習ってましたか?」
「いえ、ならってないはずです。」
完璧な解答に平民だけでなく、王侯貴族もつい驚きカールの方を見てしまう。
それもそのはず初めて習うはずの事をすでに既知であったのだから驚かないはずがない。
クラスの全員から視線を集めたカールは思わずのけぞってしまう。
「はいはい。みんな驚くのもわかるけどそんなみんなに見られるとカール君も委縮しちゃうからね。」
先生からの助け舟によりカールに向けられた視線は先生の方へ集められる。
助かった。と吐息を漏らすカールだがまだわずかに視線が向けられていることに気づいてその方を向くと、先ほど王侯貴族側にいて周りとは違う反応を示し、平民側でも同じ同様の反応をしていた、三人の少女らであった。
その眼にはやはり涙を浮かべ、同時に嬉しさと困惑となぜか申し訳なさが感じされた。
しかし、その視線もカールが彼女らを見たら前を向いてしまった。
そのことを不思議に思いながらも、授業は進む。
・・・・・・・・・
授業が終わると先ほどの三人の少女たちがカールの元へ足早に集まる。
「カ、カール君、ほ、本物のカール君?夢じゃないんだよね?」
先に口を開いたのは水色の髪を持った少女。
その声は震え、口から発せられる言葉と共にその瞳からは涙がこぼれ落ちる。
「は、はい。カールですが。すみませんが学識のないこの私のお名前を教えていただけませんか?」
先ほど王侯貴族側にいたことを考え相手が自分より身分が高いと考えたカールは丁寧な言葉で名を訪ねた。
おそらく機嫌を損ねることはないだろう、と思った結果の行為。
それが逆効果とも知らずに。
「---ッツ!そうだよね。私達の事許せないもんね。」
そう言われた水色の少女は一瞬絶望した顔をしたが、その後すぐに俯きポツポツとか細く言葉を漏らす。
その様子を不自然に思い、声をかけようとすると今度は翠緑の髪の少女の方から声がかかる。
「ごめん。ごめんなさい。私が憎いのはわかる。ほんとにごめんなさい。」
「わ、私たちが許せないのはわかります。だって私たちはあなたを―――。」
「ち、ちょっと待ってください。」
翠緑の少女に続き、銀髪の少女にも謎の懺悔をされ、ついに耐え切れず彼女らの言葉をふさぐ。
「実は私は記憶がないんです。一カ月程前、近くの大森林にいるところを兵士の方に助けていただいているので。きっと人違いなのだと思います。」
あまりの異常な反応に自分の事を彼女らに話す。
「そ、そうだよね。わかってたけど。わかってはいましたけど・・・・。」
「やっぱり重なって見えちゃう。」
「そうですね。」
人違い。彼女らもわかってはいたみたいである。
もしかすると人違いかもしれない、けれど彼女らの想像する人物に酷似していたから思わず本人であるかのように反応してしまった。
「あ、あの大丈夫ですか?」
「ええ。もう大丈夫です。こちらの勘違いで勝手に話を進めてしまい申し訳ございません。私はルリタニアと申します。気軽にルリとお呼びください。」
水色の髪の少女は俯いていたのから一転今まで見たことない笑顔でカールの方を見る。
「私はマリーナと申します。先ほどはお見苦しい姿をお見せしました。」
「私はシャルロッテ。さっきは急にごめん。」
ルリタニアに続き銀色の髪の少女と翠色の髪の少女も先ほどの悲しそうでつらそうな表情とはうって変わり、マリーナは慈悲深ささえ感じられる笑顔。
シャルロッテはばつの悪そうな顔をしながら。
・・・・・・・・
あれからふた月が経ち、七の月となった。
ルリタニア、マリーナ、シャルロッテら三人との仲もよくなり、カールは大抵は彼女らと昼休みを過ごしている。
ただそれを良しとしない人もいるわけで。
「おい貴様。あまり調子に乗るなよ平民ごときが。」
「そうだそうだ分をわきまえろ。」
「なんのことでしょうか。」
カールは突然クラスの貴族側の人に呼び出され、行ってみれば人目の付きにくいところで呼び出した張本人とその取り巻き達で皆貴族である。
「馬鹿にしているのか。ルリタニア様とマリーナ様だ。王女殿下と聖女様に対して慣れ慣れすぎる。そもしもあのお方々は庶民ごとき貴様が近づいていい存在ではない。」
「そうだ。我等青き血以外声をかけるのも恐れ多いことなんだぞ。」
「そうおっしゃられましても。」
ルリタニアが王女でマリーナが聖女であることは前に打ち明けられ、同時に身分を気にせず対等に話してほしいと言われている。
「シャルロッテ殿に至ってもそうだ。彼女は魔法が使える数少ない魔女の末柄なんだぞ。それがなんで誰もかれもがみんなお前の元に集まるんだ!」
「そうおっしゃられましても。私にはどうすることもー。」
「うるさい!」
以前の魔術の話の時にでた魔法。
もうすでにそれが使える人はほとんどおらず、その存在自体が貴重になっている魔女の末柄。
シャルロッテがその末柄であることを知ったのはルリタニアとマリーナの正体を知ってからしばらく経ってからで偶然彼女が魔法陣を使用せずに現象を発動していたのを目撃しその後シャルロッテ自身から打ち明けられた。
「こうなったらお前が二度とルリタニア様の前に現れないようにしてやる。」
そういうと彼は取り巻き達と共に杖で空に魔法陣を形成し始めた。
「ック。」
はじめから話し合うつもりなんかなかった。
そう気づいたカールだがすでに遅い。
杖を出し魔法陣を形成し始めるが彼らに比べるとかなり遅れている。
このままだと彼らの魔術が完成し、現象が発動してしまう。
ここまでかと思ったその時。
「何をしているのです!」
突然カールの後ろからよく知る声が聞こえ、その場に発動していた魔法陣ははじけた。
その声には怒りと焦りが含まれているように感じ、はじけた魔法陣との間には黒い三角帽とマントに身を包んだ少女がいた。
「で、殿下に聖女様、魔女殿まで。ど、どうしてこのようなところに。」
「校内での無断での魔法陣の使用は禁止されているはずですが。」
カールの後ろから小走りで近付いてきたのはことの発端となったルリタニアとマリーナ。そして黒いマントを翻しながらルリタニア達に合流するシャルロッテ。
「こ、この者に平民に自分の分を教育しようとしていたのです。」
突然現れた自身より格が上の存在に驚きつつも自身が正当性を訴える主犯とその取り巻き。
「この学園で、身分の差は関係ないはずですが。」
「し、しかし、それは建前上のはなしであって。」
「まさか国王陛下の決定に文句があると、そういうのですか。」
「そ、そのようなことはございません。わ、私はこれから用事がございますのでお先に失礼します。おいお前ら行くぞ。」
「へ、へい」
この国のトップ国王の決定に異を唱えれるはずもなく、彼らは足早に退散する。
しかし、カールには怒気を含んだ視線を浴びせながら、隣を通り過ぎていく。
「はぁー。カール君けがはない?大丈夫?」
「大丈夫ですか?今直しますから。」
「あいつら、絶対に次ぎ合ったときは細切れにする。」
彼等の姿は見えなくなると、ルリタニアは深く息を漏らし、先ほどの思わず膝をついてしまいそうな威厳に満ちた姿、言葉とはうって変わり、かなり心配した様子でカールの近寄りカールの体をペタペタと触り、マリーナは、癒しの魔法陣を展開し、シャルロッテはかなり物騒なことを言っていた。
カールはこのふた月彼女らとかかわってわかったことがいくつかある。
その一つに彼女らはカールに危害が加わる事、傷つくことを極度に恐れている。
以前彼女らとともに魔物狩りに出かけた際、魔物の攻撃から彼女らを身を挺して守ったことがあった。
彼女らに怪我はなかったがカールは魔物の攻撃を直接受けてしまい、しかも運の悪いことにかなり深く傷ができ、かなりやばい状態だった。
その後の彼女らは、例えるなら鬼であった。
本来温厚なはずのルリタニアは髪を逆なでレイピアで魔物をめった刺しにして、力加減を間違えるはずのないシャルロッテは魔法で辺り一面を焦土に変え、普段起こる事も焦ることもなくいつもにこやかに笑っているマリーナに至っては泣きじゃくりながら「ごめんなさい。ごめんなさい。」とずっとつぶやき傷がいえても回復魔術を使い続けていた。
あの日以来、カールが怪我をすることはまだおこっていないが、こういった貴族からの呼び出しは度々起き、そのたびにルリタニア達が現れ、こう怪我がないか確認している。
「だ、大丈夫。怪我してないですから。シャルロッテさんもそんな物騒なこと考えないで、クラスメイトでしょ。」
そしていつもカールが彼女らを止める。
カール自身彼女らの行動がおかしい事をしっており、一度訪ねたことがあるが詳しくは話してくれなかった。
「ほ、ほんとに大丈夫なのですね。」
「大丈夫です。怪我してません。」
「一応、回復魔術使いましょうか。」
「怪我も何もしてないので回復魔術なんか使うことないですって。」
「やっぱり、絞めてくる。」
「だから、やめてください。退学になりますって。」
ごく普通の代わり映えしない、どこにでもありそうな風景がそこには広がっている。
しかし、運命の時がすぐそこまで来ているとは彼女達はおろかカールさえもまだ気づいていなかった。
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あれからまたひと月が過ぎ八の月。
あの件以降も度々貴族からの呼び出しがあり、そのたびに暴走するシャルロッテ達を止める生活をしていた。
そして最近、ルリタニア達から貴族と平民との間亀裂を無くしたいと相談を受け、四人でその対策を話し合い、実行している。
充実した日々が、音の速さで過ぎ去っていく。
カールもクラスの人達と仲良くなり交友を深め、学園の生活に馴染みつつある。
そんな中、カールは最近不思議な夢を見るようになる。
その夢は、記憶にないはずの幼いカールの日常の風景であった。
それは夢のようではなく、まるで現実のようで、それでいてどこか懐かしいそんな夢である。
夢の中でも同じように時が過ぎ、断片的ではなく継続的にその夢は紡がれる。
カールの夢にはカール以外にも様々の人達が出てくる。
野菜を売るおばちゃん、大きなお屋敷のメイドさんたち、剣を振るう厳つい顔の男性、威厳があふれる初老の男性とその隣を寄り添いながら歩く同じく初老の女性、そしてどこかルリタニア達に似ている三人の幼い少女ら。
カールはその夢では大きなお屋敷に住み、身の回りの世話をメイドたちがやってくれ、時たまお屋敷を抜け出し、街へと向かい、三人の少女たちと共に野山を駆け回り、丘の上で笑い合いながら食事をし、夜には夜更かしをし互いの夢を語り合う。
カールはその夢をとても楽しみ、夢である事を忘れ疲れを知らぬように遊び、そして泥のように眠り夢から目覚める。
本来夢というのは夢を見ていたことは覚えているが、内容までは詳しく覚えていないもの。
しかし、カールの見ている夢は夢から目覚めても鮮明に脳裏の焼き付いている。
ただ一つ、夢の中に出てくる人物の名前を除いて。
まるで靄でもかかっているかのようにカールの夢に出てくる人物の名前だけ思い出せない。
カールはその事を不思議に思いながらも、その夢を楽しみ、楽しみに日々を過ごしている。
ただ、九の月が近づくにつれて、楽しみにしていると同時に、その先を見たくないという恐怖に近い感情があふれてきている。
そして楽しき日は過ぎ、九の月。
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「それでね。ルナがね、っていいてるカール?」
「ああ、ごめん。なんだっけ。」
「大丈夫ですか。最近上の空ですけど。」
「カール君最近何か考え事をすることが多くなっていますけれど。なにかあったのですか?もし何か困っているのでしたら私たちに相談してくださいね。」
ルリタニア、マリーナ、シャルロッテはそれぞれが上の空のカールを心配する。
最近カールはそれまでの元気の感じはなくいつも何か考え、ぼーっと空を見上げていることが増えた。
ルリタニア達もその事を不思議に思いながらも聞き出そうとはしなかった。
「最近、夢を見るんだ。その夢がねどこか懐かしいんだよ。」
今まで「大丈夫何でもないよ。」と言っていたカールだが、その日はいつもと違ってポツリポツリと語っていく。
「そんなこと覚えてないのにどこか懐かしいんだよね。四人で野山を駆け、川を泳ぎ、丘で談笑をする。そんな風景が、そのやり取りがすごく懐かしく感じたんだ。」
「そ、それって。」
ルリタニア達は固唾をのんでカールの話に聞き入る。
「その夢が懐かしいんだけど。記憶にないからね。悩んでただけだよ。心配かけて御免ね。おっともうこんな時間か。じゃあ先に帰るね。ばいばい」
すると、カールは突然話を切り上げ一人足早に帰宅する。
残されたルリタニア達はというと。
「今の話って。」
「もしかすると、カール君は本当に。」
「かもしれないわね。」
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その日の夢はいつもの楽し気な雰囲気とは違っていた。
カールと三人の少女たちはその日もいつもと変わらず森へと入り共に遊んでいた。
ただ一つ違ったことはいつも危ないからと言われて入らなかった森の奥地へと歩みを進めていた。
始めに森の奥へ進んだのは誰だったか。
だだ一つ言えることは三人の少女の後ろをカールが少女達に戻ろうと言いながら進んでいくことから少女達の誰かがそれとも三人がみんなで森の奥へ進む。
少年と少女らは一歩また一歩森の奥地へと歩む。
「新しい遊び場を見つけましたね。」
「そうですね。日当たりもよさそうですし。」
「なんだ。何もないじゃん。大人たちは大げさなのよ。」
「でも、大人たちが危ないって言ってたんだからそろそろ戻ろうよ。」
「カールは怖がり屋さんですね。」
「なんともないんですから。そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。カール君。」
「そうよ。そんなんだと強い男になれないわよ。カール。」
「で、でもさ。」
そんな他愛もない会話を繰り広げていた。
危機がすぐそこにあるとは知らずに。
「「「「「ガルルゥ。」」」」」
するとカール達の前に魔物の群れ、10匹を優に超える数の魔物が牙をむいていた。
「ま、魔物があんなに。」
「に、逃げないと。」
「か、カールどうしよう。」
「ゆ、ゆっくりと背を向けずに後ずさろう。」
怯える少女達にカールは的確な指示を出す。
しかし、魔物達は目の前に出てきた獲物をそうに簡単に逃がすわけもなく。
「ガウ。」
「ヒィッ!お、お父様たすけてぇ。」
「か、かみさまぁぁ。」
「ウッグッ。もうだめぇ。」
「ック!」
にじり寄ってくる魔物たちについに少女達は泣き出してしまう。
「俺が気を引くから三人は走って大人たちを呼んできて。」
「う、うん。わかった。」
カールはこのままだとダメだと思い、少女たちを逃がす事を優先した。
自分が囮になることで。
カールは自分が死ぬかもしれないことを悟っていた。
元々この中の誰かが死ぬかもしれないなら一番多くの人が助かる道を選んだ。
「さあ、行って!。」
「「「う、うん。」」」
カールは魔法を悪魔たちに放ち、一瞬空きを作って少女らを逃がす。
「ガルルルルゥ。」
獲物を逃がしたことに怒った魔物達はカールだけでも仕留めるとカールを追い詰めていく。
・・・・・・・・・・・・
「カール!カール!」
「カール!いるなら返事してください!カール!」
「カール!返事しなさいってば!カール!・・・お願いだから返事してよぉ。」
少女らを逃がしてからしばらく経った。
カールと魔物との闘いは終わりっていた。
結果はカール勝ちであった。
しかし、完勝というわけではなく、カールもボロボロで片腕、片足は食いちぎられなく、腹部には食いちぎられた跡がありそこから血がとめどなく流れている。
それ以外にも裂傷があり、見るからに致命傷、その命は消えかかっていた。
カールは気にもたれかかり、深くゆっくりとした息をしており、その息は次第に浅く、そしてその周期も長くなっている。
意識も消えかかっていたが少女たちの声でその遠ざかっていた意識は戻ってきた。
だが、すでにカールに返事をする元気はなく、自身を探す少女ら以外の声を聴きながらまた意識が遠ざかっていく。
自分を探し、声の限り大声を張り上げ、時折しゃくりあげる音を聞きながら、カールは彼女らが無事に助かったことに安堵しする。
唯一の懸念であった少女らの安否が確認できたことでつなぎとめていた意識は次第に、そして先ほどより早く遠ざかり、その重い瞼も閉じてゆく。
音が遠のき、視界が暗転して行き、ぼーっとする頭で最後に少女らの名を呼ぶ。
「ルリタニア・・・・・マリーナ・・・・・シャルロッテ・・・・・」
ここで、カールの意識は途切れた。
そのあとどうなったかわからない。
ただカールが思い出したことは、かつてルリタニア、マリーナ、シャルロッテと交流があり、自分が死んでいるということを。
「・・・・そうか。そうだったのか。すべて、すべて思い出したよ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「おはようカール君。どうしたの?」
「元気がないですわね。どうかなさいましたか?」
「体調悪い?大丈夫?」
「いや大丈夫だよ。ルリタニア、マリーナ、シャルロッテ。」
次の日、俯き気味のカールに声をかけるルリタニア達。
いつもより冷静で、すべてを悟ったかのような単調なトーンの声に思わず心配になってしまう。
「いや、ルリ、マリー、シャル。今まで忘れててごめん。全部思い出したから。」
「「「―――ッツ!」」」
かつて、幼き日の愛称で呼ばれたルリタニア達は驚きに息が詰まる。
それまで抑えていた感情が溢れ出して来て嗚咽を漏らす。
「ご、ごめんね、カール。あの時、私達が、ッグ、森の奥に行こうなんて、言わなければ、こんなことにならなかったのに。」
「あ、謝って、許される、事じゃないことは、わ、わかっています。だって私たちのせいで貴方は――。」
ルリタニアは時々言葉につまづきながら、あの日、カールが編入してきたときの様に懺悔する。
マリーナはルリタニアほどではないが時々つまりながら言葉を発するが、最後自身らの犯した許されざる罪によってカールの命を奪ってしまったという事実を語る前に泣き崩れてしまった。
シャルロッテはというと。
「ヒッグッ。ごめんなさい。カール。ほんとにごめんなさい。私たちのせいで。ごめんなさい。・・・」
俯き、涙をこぼしながら。ただただ謝罪を繰り返す。
そんな彼女らにカールは。
「いいんだ。みんなが無事で、あの時君たちに先に逃げるように言ったのは俺なのだから。気にすることはないよ。」
「で、でも!」
「私たちがいいつけを守ってさえ入れば、あの時魔物に襲われることも、魔物に追われることも、そしてあなたを失うこともなかった!」
普段、一番温厚で怒らず笑顔でいるマリーナは珍しく、いや初めてといってもいい程、声を張り上げていた。
「カール。ここにいるカールは本物なの?生きてるの?ここにいるってことはいきてるんだよね?ねえそうそうなんでしょ?・・・そうっていってよぉ。」
シャルロッテのその言葉に首を横にふるカール。
「ルリ、マリー、シャル。行きたいところがあるんだあの丘、みんなで木を植えたあの丘に行きたいんだ。」
ルリタニア、マリーナ、シャルロッテは、カールのその表情に、もうあそこにいったら敢無くなるのではないかと思い、首を横にふる。
「お願いだよ。最期にあそこからの風景を見たいんだ。あそこであの時のように景色を見ながら共に語り合いたいんだ。」
「だってあそこにいったら。」
「ルリ。頼むよ。」
それでもなお否定するルリタニアに対しカールは真剣な眼差しを向ける。
「―――ッツ!わ、わかりました。行きましょう。」
「ルリ!」
「わかってます、マリー。でも仕方ないじゃないですか。ほかならぬカールの頼みですよ。」
「で、でも。ルリ。あそこにいったら。本当にお別れするかもしれないんだよ。もう会えなくなっちゃうかもしれないんだよ。私せっかく会えたのに、折角思い出してくれたのにまた、次はもう二度と会えなくなるなんて、そんなの私耐えられないよぉ。」
普段はきつい感じに取られてしまう性格をしているシャルロッテであるが、今回に至っては、否定的でどこか子供の用に感じられる。
「シャル。貴方があの時を気にして自分を偽ってきつい物言いをしてるのは知っていますし、カールと共に練習していた魔法を。攻撃重視に変えたモノ、あの時自分もカールと共に戦えばカールを助けられたかもしれないと思ったからというのも知ってます。
でも、本来はまた会うこともできなかったんですよ。そんなカールが私たちの前に現れたのですから。最期くらいお願いを聞いてあげましょう。」
子供のようにだだをこねるシャルロッテに対しルリタニアはそっとシャルロッテを抱き寄せ。安心させるように、子供をあやすようにシャルロッテに語る。
二人を説得し終えた、ルリタニアはカールに向き合う。
「すまないな。二人を説得してもらって。」
「大丈夫ですよ。カール。時間がないのでしょう。早く行きましょう。」
ルリタニアはその瞳に涙を浮かべながらもカールに対し笑いかけた。
・・・・・・・・・・・・・・・
カールの夢では三人と共に一つの木を植えた丘の上。
あの時はまだ背丈の小さいカール達よりも小さかった木も、あれから数年経つと大きく成長し、すでに成長したカール達の背丈すらも追い越し空を目指す様に伸び、天から注がれる太陽の日差しを瞑一杯取り入れようと枝を広げる。
そんな木の根元にはシートを広げたカールと、ルリタニア、マリーナ、シャルロッテの四人の姿と一つの石板があった。
「もうこんなに成長したのか。時間の流れは早いものだな。」
「ふふ。そうですね。カールと一緒に植えた時はこんなに小さかったのに。
ルリタニアは手でその時の小ささを示し、笑う。
「・・・・」
「・・・・ッグ。」
一方マリーナとシャルロッテはというと、俯き、シャルロッテに至っては時折嗚咽を漏らしていた。
「マリーとシャルも今までの事について話してくれないか?」
「・・・・」
「・・・ッグ。」
カールが語りかけても俯いたままであった。
「・・・ルリ、マリー、シャル。覚えてるかい。」
脈絡もなく言われたその言葉にマリーとシャルは顔をあげカールの方を向く。
ルリもまた不思議そうにカールを見る。
「あの幼い日。まだ世界を知らずに、ただただみんなでいられることが楽しく。毎日のようにここに集まっては近くの野山を駆け回り、川をおいで、疲れたらこの丘へと上り、その時まで駆け回っていた野山や川を見ながら将来について語り合った日を。」
「お、覚えてますとも。」
「今まで、一度だって、一度たりとも!あの日を忘れたことはないですわ。」
「私だって忘れたことなんてない。」
三人共、忘れたことはないとそう語ってくれたことにカールは嬉しく思わず微笑む。
「そうか、覚えていてくれたか。うれしいな。」
「さっきも言ったけどさあの日語り合った、将来について俺に話してくれないかな。君たちが今までどんな風に過ごしてきたか、知りたいし。あとほら、君たちがこれから描く将来について教えてくれない?」
三人の目をしっかりと見ながら真剣に話すカールに、マリーナとシャルロッテもポツリポルリと今までの事を話出す。
ルリタニアもまた二人に混ざって語りだす。
それをカールは微笑みながらうんうんと頷きながら日が傾き、夕焼け空が広がるまで聞いていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
深い悲しみに陥った三人は家族に支えられながら心に深い傷を残しながらも懸命に未来へと歩んでいた。
ルリタニアはあれ以来、カールと約束した「王族として相応しい人」になるために王族としての気品、知性を磨くようになり。
マリーナは、カールの傷がいやせればと激しく後悔した結果、回復魔術を死に物狂いで学び、会得し次第に聖女とよばれるようになり。
シャルロッテは、共に戦えばよかったと思い、カールと一緒に練習していた魔法を懸命に練習し、最強の魔女になった。
今までの自分のいなかった話を聞きながらカールは自分の時間だけが止まっているのを悲しく思っていた。
今までの話が終わると今度はこれからの話になった。
すでにマリーとシャルの顔は暗くなく、今まで通りの姿に戻っていた。
「ルリもマリーもシャルも、もうそろそろ結婚とかするのかな。見てみたかったな三人の子供の姿を。」
その言葉にマリーとシャル、そしてルリまでもが俯く。
「結婚なんてしないですよ。」
「なんで?」
「それは-。」
その言葉に思わず言葉を詰まらせるルリ。
「この際だから話しますねカール。私マリーは、いえ私達三人は貴方を愛しています。それは今も昔も、そしてこれからも変わりません。」
「え?」
思わぬカミングアウトに理解が追いついていないカール。
俺に?すでに死んだ俺に?なぜ?
そんな考えが頭の中をぐるぐるとめぐり、絞り出せた言葉が。
「な、なんで俺なんかを?」
「それはもちろん、かっこよくて。」
「いつも私たちをひっぱってくださり。」
「たまに見せるあどけない笑顔がたまらなくかわいかったから。」
三人はまるで打ち合わせをしていたかのように言葉をつなげていく。
「で、でも。今までにほかに。好きな人とか。」
『いないです。』
即答に対し、カールは嬉しい気持ちととてつもなく悲しい気持ちがこみ上げ三人同様俯いてしまう。
「そ、そんなの。だって俺は死んだ人間だよ。故人なんだよ。過去の人間にいつまでもとらわれていないで―。」
「いい加減にしてください!」
自分を貶めるような発言についにルリが切れる。
「自分自身で自分を貶めるようなことは言わないでください。私はあなたが好きです。大好きです。同じようにマリーもシャルも貴方の事がだいすきです。カールと語ったときには言いませんでしたけど、三人で集まって将来の話をするときはみんなカールのお嫁さんになって幸せな家庭を築こう。沢山の子供たちに囲まれ、隣に愛する人と私達幼馴染が共に寄り添い、嬉しいときは共に喜びを分かち合い。悲しいときはその悲しみを共に分かち合おう。まだ幼いけどいつか時が来たらみんなで一緒に告白しよう。私たちはあなたの事が好きです。大好きです。って言おう。そう私達三人は一緒に語っていたんです。
立ち上がり、涙をこぼしながらカールに強く、語るルリタニア。
「カールが私達の為に身を挺して逃がしてくれたあの時も、私たちは、大人たちに助けを求めたらカールの元へ向かおう。そしてカールと一緒に戦おう。そうすればみんなで帰れる。そのあとみんなでお説教を食らおう。そう思っていました。だけど大人たちが行かせてくれませんでした。私はあの時の事を今でも後悔しているのです。あの時大人たちの手を無理矢理にでも振り切ってカールの元へ向かっていたなら。ひょっとしたらカールは助かったのではないのだろうかと。」
ルリタニアに続きマリーナも涙をこぼしながら、深い後悔を感じさせる声で語る。
「私だってあの時逃げずに一緒に戦えばよかったって。あの時の弱い私をひたすら憎んだ。でもそれじゃいけないって、カールに顔向けできないって思って必死に魔法を練習した。カールの隣で人生を共に歩むことはもうできなくなってしまったけど、私にはカールと同じ魔法がある。一緒に汗水流して練習した魔法がある。それを鍛えて、強くなったよって。あの時弱い私でごめんね。ってそう自分が死んで天国に行ってカールにあったとき。そう言おうってそして、大好きですって。伝えようって思っていたのに、
それが、それが自分は故人?死んだ過去の人間だから忘れろですって?ふざけるな!
私達が、どんな思いで、どんな気持ちでカールのことを思い。悲しみ。でもそれじゃダメだってって気づいて前を向いてあるこう。カールに救ってもらった命を精一杯生きよう。それで死んだあとカールに救ってもらった命で精一杯生きたよ。あの時助けられなくてごめん。助けてくれてありがとう。って言おうと共に悲しさ、悔しさを共有してそう誓った私達の気持ちは!
思いは!いくらカールでもそれを踏みにじることを言うのだけはゆるせない!」
そう怒りで声を張り上げながらシャルはカールの胸倉をつかみ上げる。
「カールはどうなんの。あの時カールをおいて逃げた私達を恨んだりしないの!
さっきから私達の話ばっかり聞いて。カールは何も思わないの!」
「・・・・かったよ。」
シャルロッテのその言葉にカールは風でその声が掻き消えながらも放った。
「なに!」
「一緒に生きたかったよ!」
カールはシャルロッテの手を振りほどき叫んだ。
ルリ、マリー、シャルと一緒にまだまだ生きたかったよ!まだ野をかけ山を登り、川を泳ぎたかったよ!
この丘であの日植えた木をみながらまだまだ語り合いたかったよ!
俺だって三人が好きだった。大好きだったよ!
いつか大人になって、告白して、結婚して、同じ夕餉を囲みながらその日一日をみんなで語りたかった!
シャルと同じように子供に囲まれ、隣には愛する人達がいて、つらいときも悲しいときもうれしいときも一緒に乗り越えよう。そんな家庭を作りたい。そうずっと思ってたよ!
なんで俺の時間は止まってるの!
俺の中の三人の最後は小さく無邪気だったのに。なんで!
三人は成長して、幼くなくなりもう立派な女性へとなった。なんでその成長を俺は隣で見ることができなかったの!
今この時は一緒に入れるけどそのあとは?
きっと次会える時は天国だと思う。これから先の成長を、紡ぐ物語をなんで俺は見れないの!
とてつもなく悲しくて、悔しくてもうどうしらいいのかわからなかった!
だから俺の事は忘れてもらおう!そうすれば俺は安心できる。そう思ってた!
だからあんなこといったのに。どうしてどうしてこんなに悲しいの?胸が苦しいの?どうするのが正解だったの?」
カールはそれまでためてたものをすべて吐き出す様に声を張り上げ、いままで流すことのなかった涙を流し、子供に様に感情をあらわにする。
そんないままで見せてこなっかったカールの姿に三人はカールに近寄り、そっとその腕に抱く。
「ごめんね。カール。あの時怖くて、カールの事を見捨てちゃって。ほんとにごめんね。好きだよ。大好きだよ。カール。私もカールと一緒に成長したかった。」
ルリタニアはその腕でカールを正面から抱き。
「私もごめんなさい。カール。許されないことはわかってるけど言わせてほしいの。本当にごめんなさい。そして好きです。大好きです。私もカールと一緒に歩みたかった。」
マリーナはその腕でカールを横から抱き。
「一緒に戦えなくて、逃げちゃってごめんなさい。カール。大好きです。今も昔もこれからも。大好きです。私もカールと同じ時を進みたかった。
シャルロッテはその腕でカールを後ろから抱き
『うわぁーん』
四人は共に抱き合い、声の限り泣き続ける。
いままで堪えてきた感情、思い、すべてをぶつけあった、あの幼き日のように。
・・・・・・・・・・・・・・
抱き合ったしばらく泣いたのち誰からでもなく自然に離れていった。
「私たちはカールが好きです。さっきも言ったっ通りそれは変わりません。」
「そもそもカールよりいい人はいないと思います。」
「だね。そもそもカール以外を好きになることなんで絶対にない。」
三人がそうそうと首を縦に振る。
「そうか、ありがとう嬉しいよ。俺もみんなが大好き。・・・最後にこの気持ちが伝えられてよかった。」
「「「え?・・・」」」
「か、カール最後って。」
「う、嘘ですよね。」
「そ、そんな。折角気持ちを伝えられたのに。」
カールの最後にという言葉に敏感に反応した三人はすがるようにカールを見る。
「う、うそ。そんな。」
「消えてきてるなんて、なんで。」
「ま、まだ話したいこと沢山あるのに。」
カールの体が徐々に消えていっていた。
「まあ元々死んでたんだし。最後に数カ月だけど一緒に学校生活できて楽しかったし、みんなの気持ちが知れてよかったよ。
俺はもうしんでるから向こうにさきに行ってるけど、すぐ来るなよ?ゆっくりこれでもかってほどゆっくりしてけよ。
んで向こうに来たら今まであったことを今日見たいに話してくれ。向こうではずっと一緒だからな。」
「うん、わかった。カールに救ってもらった命瞑一杯生きて生きて、長生きして楽しかったって、笑顔で言えるようにする。」
「それまであったことをずっと語りますからね。当分話しませんよ。」
「そして一緒に、ずっと、過ごすんだからね。いやって言ってもは離さないからね。覚悟しててね。」
「ああ、楽しみにしてるよ。」
『じゃあね。カール。また今度。』
「じゃあなルリタニア、マリーナ、シャルロッテ。また今度。」
共に遊んでいた時の別れの言葉、ただ最後が「また明日」ではなく「また今度」へと変わり、ルリタニア達三人とカールのしばらくの別れを示していた。
その別れの挨拶と共にカールは消え、ついにはルリタニア達の前からその姿を消した。
「行っちゃいましたね。」
「また、カールにあえてうれしかった。」
「これから瞑一杯生きて、カールへの見上げ話を一杯作るんだから。」
そういい自分たちを見下ろす木々の葉を見るルリタニア達の目にはもう涙はなく、決意に満ちた目をしていた。
・・・・・・・・・・・・
あれから数年が経過し、ルリタニア達は学園を卒業し、それぞれの道へと進んでいった。
カールが消えてからカールは自主退学したことになり、一時期話題になったがそれ以来カールの名を聞くことはなくなった。
ルリタニアは王族として政治に携わり、マリーナは聖女として弱き者を救い、シャルロッテはホーランド王国の防人として魔物、盗賊の討伐をしている。
学園を卒業以来忙しくあう機会はほとんどなくなってしまったが、彼女らは毎年決まって九の月ある日にあの丘へと集まる。
丘の上にある木もまた成長し、遠くからでも見えるまでに成長していた。
そこの木の根元には三人の女性たち、ルリタニア、マリーナ、シャルロッテの姿とやはりあの石がおいてあった。
その石は変わらずそこにあり、風化することなくそこに鎮座していた。
その近くでルリタニア達は公務を忘れた、王女でも、聖女でも魔女でもないただ一人の女性へと戻り共に語り合ている。
ルリタニア達は、夕焼けが空に広がるまで時間を忘れ、語り合い、夕焼けが空を満たすと広げていたシートをかたずけ変える支度をし、木の根元にある石に手を合わせ、一言二言語り、花を添える。
ルリタニア達の添えた花は綺麗な色をしたスターチス、アイビー、ヒヤシンスの花々であった。
綺麗な花が添えられた石にはこう彫ってあった。
『我らが愛しきカール、ここに安らかに眠る。』
「じゃあまた来るね。」
「次来るときは来年かしらね。」
「それまでまってなさいよ。」
一人一人声をかけその場を後にする。
彼女らも重要な役職にいる人であり、そうめったやたらに抜け出すことはできない。
後ろ髪引かれる思いで丘を降りようとすると突然突風が吹く。
「きゃ。」
「かなり強い風でしたね。」
「見てあれ。」
シャルロッテが指さした先には、墓石の周りに咲いていた綺麗な薄紫色の花、ルリタニア達がこの墓石と一緒に植えた綺麗なシオンの花が待っていた。
しかし、その中に彼女らはかすかにカールの姿を見た気がした。
驚くこともせず、笑顔を作り、
『じゃあねカール。また今度。』
そうあの日、最後の別れをした数年前の今日と同じセリフを言い丘を降りる。
彼女らはもう俯くこともなく、しっかりと前を見て、未来へと歩んでいる。
彼、カールとの約束を守るために。
たった数カ月であったが幻のような話、それでいて彼女らの実際にあった話。
「ああ、じゃあねみんな、また今度」