十四話 遠矢 拠点を捨てて地元に向かう
相変わらず遅れました<(_ _)>
歩いて大型スーパーに向かう。
先頭は俺、俺の右手後方の二番手にメイ、俺の左後方の三番手に海島さん。ラストの最後尾は川田さんの並びで進む。
車で向かう事も考えたが音で呼び寄せるのを嫌い、物資の確認と調査目的で隠密行動。
皆の弓の腕も見ておきたいし。
いつものように慎重に歩いて進む。
マンションから出て最初の関門、最近、よく世話になっている月極駐車場に来る。
端っこから駐車場を覗き込むと数体ゾンビが歩いているのを確認出来た。
俺が居た位置を譲り順番に確認させる。
「皆、何体いるか確認出来た?」
こっくり頷く三人娘。
出来るだけ声を出さない様に言い聞かせているから声を出さないで軽く頷いて返事を返してくる。
「じゃあ何体確認できたか一斉に指で数を出して。」
俺はそう言い指でカウントダウンを行う。
さん・に・いち・ハイ
俺が六、メイと海島さんが五、川田さんが七。
俺は目を見開き素早く駐車場内を見渡す。
一二三四五六……いた七体目。
「助かった川田さん。俺はあいつを見逃していた。メイと海島さんはもう少し気を付けて。俺も見逃したから余り偉そうな事言えないけど…。」
そう言って二人が見逃していた奴の場所を教えて何処に注意するべきかも伝える。
「さて、全部排除してから進むぞ。海島さんは、一体始末して。他の人は二体づつ。使用矢は四本以内で。」
思ったより全員があっさり片付ける。
ただ海島さんは三射でやっとだった。
「海島さん、落ち着いてね。今の感じで良いから。焦らずに慣れて行こう。」
俺やメイ、川田さんの一射一殺を見て落ち込む海島さんにフォローを入れる。
しょんぼりしながら頷いてなんとか笑い顔を作る海島さんに頷き返す。
そして手を振り皆に先に進むと伝え先行する。
@@@@@@
駐車場以降ゾンビを見ることなく大型スーパー前まで来た。
このスーパーは正面入り口前に駐輪場があるタイプで車の駐車場は店舗裏にある。
店内に入る出入口は裏口にはない。搬入口や従業員用の出入口はあるが…。
側面にも出入口は無いので、中に居る奴にさえ気を付け従業員扉に近付かなければ安全対策を取りやすい。
正面のガラス壁から中を覗き込みゾンビの数を見る。
奥の方は薄暗く最奥まで見通せないが店内の半分ほどは良く見える。
見える範囲にはゾンビは見えない。
「皆、出口から入ろうと思う。理由は入り口付近は生鮮食品があるから。見ての通り大分腐って、臭うとおもうから。」
俺の言葉にコクコク頷く三人娘。
「それで、出口付近から持ち出せる食料を全部出す。出来れば車を横付けして積み込みたいから歩道まで運んで。」
さらに続ける。
「俺と川田さんが護衛の見張りでメイと海島さんは物資の収集と搬出を頼む。疲れない様にゆっくりと音を出さない様に。」
俺はそれだけ言うと出口のガラス製自動扉の前に行き、ガラス戸が開く中央下の金具にL字型の釘抜きを差し込み、慎重に動かす。
微かな音が出るが予想よりスムーズに指が入る隙間が出来た。
店内が少し荒れていたので鍵は掛かっていないとの予想が当たってホッとしたのは内緒だ。
指を入れ両開きのガラス戸を全開する。
続けて内側の自動扉も同じように開ける。こちらは一人がギリギリ通れるぐらいで開ける。
俺は先に店内に入り近くの安全を確認して二人を手招きする。
メイと海島さんが店内に入り、入り口近くから商品を外に持ち出していく。
川田さんには外で警戒してもらう。
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外の光が届く列の半分ギリギリまでじゃなく見えているもう半分、四分の一程の陳列棚を根こそぎ運び出し
五列目の棚の物資を取りだした時、奥から音がした。ドアを蹴り開ける様な派手な音が。
「撤収!」
小さいが鋭く俺は声を出し、二人を外に出す。
俺も二人の背を守りつつ引き内扉を閉めた時、それは現れた。
目を真っ赤に光らせた【何か】。
まさか!?
見た瞬間、全身に走る怖気。
それは今まで見たゾンビとは比べ物にならない勢いでドアに突っ込んできた。
ガーン!ガンガン!
ガラス扉を認識できないのか何度も突っ込んでくる人の形をした【何か】。
今迄に見たゾンビとは比べ物にならないぐらい滑らかに動いている。
俺はこのまま逃げ出したい気持ちを抑え、三人を呼ぶ。
「こいつはすぐ始末する!手伝ってくれ!」
「落ち着け皇。ほんの少しだけ開けてくれ。刀で始末する。メイ、うちの後ろで矢で狙って。加代っちは背後の警戒。」
川田さんが冷静に指図してくれたおかげで俺も落ち着きを取り戻す。
「すまない、ちとテンパった。では開ける。」
また、L字釘抜きを出しほんの少し開けて俺は離れる。
川田さんが素早く刀を突き入れ【何か】の眉間を突き刺した。
あっさり崩れ倒れる【何か】。
俺はまた完全に扉を閉め、直ぐに撤収する様に合図をする。
俺、メイ、海島さんは両手で買い物カゴを持つ。
川田さんは片手に一つだけ持ってもらう。
全員に、もしもがあれば物資は破棄するよう言い聞かせマンションに向かう。
マンションまで帰り着き、持ち帰った物資は全部キャンピングカーに積み込み部屋に帰る。
部屋に入り鍵を閉めるとドッと疲れが出た。
リビングで全員座り込みボーとしている。
少し経ってから川田さんが問いかけて来た。
「皇、あれはなんだ?何か知っている様な反応に見えたが?」
俺は黙って目線を床に向けていたが、仕方なしに答えた。
「俺も何かなんて判らない。…だが、想像だが言えることはある。……多分特殊個体だ。」
「なに?特殊個体って?」
メイが問うてくる。
「あの動きの速さを見ただろ?ゾンビが進化した個体かもって話…。」
俺のため息交じりの言葉を聞き川田さん以外の二人は恐怖に顔を歪ませる。
やっぱり理解できるか…
川田さんは溜息をついている。想像はしていたんだろうな。
そのまま俺に聞いて来る。
「それでこの先どうするんだ?」
「…考えを纏めたいから少し早いけど昼にしないか?」
「そうだな。昼ごはんにするか。二人も軽くでも食べなよ。キツイだろうけど。」
「うん…」
「ホントに軽く出お願いします…」
メイは沈んだ声で頷き、海島さんは口元を抑えながら微かに返事をする。
「じゃあ素麺でも茹でるか。川田さん。物足りないなら缶詰でも開けてね。」
「うん。うちは三束お願い。」
こんな状況になって、それだけ良く食えるなぁと感心した。
@@@@@
食事が終わりネットでヤツの情報が無いか探してみる。
動画関係では見当たらないが、掲示板の書き込みに少し気になる話があった。
曰く、人のように動くゾンビが居た。
曰く、走って人を襲っているのを見た。
曰く、目が赤く充血しているゾンビが居た等々。
その書き込みの日にちが気になった。
ここ数日にいきなり増えている。
背筋が凍る。
ヤバい!唯の勘だがこのままでは詰む!
俺は直ぐに行動に移す覚悟を決めた。
「皆、すぐに逃げるぞ!
川田さん、キャンピングカーの運転を任す。海島さんと乗ってくれ。メイは俺とエクストレイルだ。その前にこの部屋の物資を全て持ち出し、先程、歩道に出した物資も回収する。
回収は俺とメイでする。川田さん、海島さんは車から出るな。川田さんは運転席から離れるな。海島さんは車の中から屋根に顔を出して周囲の確認。ゾンビや人を見かけたら声を出して注意して。川田さん、もし逸れたらこの地図のここに行ってくれ。基本は国道171号線を走り茨木ICから名神高速に乗って、そのまま西宮から阪神高速3号神戸線に入り、生田川の合流車線で待機。もしゾンビに襲われたら月見山まで逃げて良い。しかしここ月見山のトンネルには追い込まれない限り単独で入らない様に。あと、インターゲートを気にせず突破する事。」
一息空け続ける。
「多分、いまからじゃあ、伯父の家には日が暮れてからになる。だからここ、明石大橋の上で車中泊の覚悟をしてて。川田さん、最悪、俺達と連絡が取れなくなったら大橋まで行くこと。いいね?このノートは預けておくから、車中泊の注意も良く読んで。」
俺が言い終わると同時に、俺達は一斉に立ち上がり荷物の持ち出しに掛かる。
三人娘は服の持ち出しに手を取られるだろうからこの部屋の物は俺が出さないとな。
確か伯父がここを引き払うときは、保存食を最低一週間分は置いておけと言ってたな。
もしもの避難場所として無駄になったとしても。と。
その分を差し引いても何回往復するか…
溜息を吐きたくなるがそんな暇は無いと気を取り直し荷物を鞄に詰め始める。
@@@@@
後日、この決定は俺達が安全に退避をするギリギリな状況だったと知る。
三人娘達は褒めてくれたが俺はまた薄氷の上を通ってたのかと胃にストレスを溜めた。
次の話は未定で。
裏は来月中と云う事でお願いします|д゜)
チートも同じで<(_ _)>