表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/25

エピソード 1ー6 心のどこかでは予想していた結末

 連続更新が続いています。

 しおりの最新話から飛んできた方はご注意ください。

 

 俺は少女を探して周囲を見回す。だけど、その姿は見当たらなかった。

「一希、本当に大丈夫?」

「あぁ……うん。ただ、ぶつかった子が例の調査隊だったみたいなんだ」

「え、連中がこの街に来てるの!?」

 カティアが慌てて周囲の警戒を始める。


「……危険な連中なのか? 俺がぶつかったのは、悪人に見えなかったんだけど」

「悪人ではないと思うよ。ただ、私達とは考え方が違うんだよね」

「考え方……ねぇ。どの辺が違うんだ?」

「異世界と繋ぐ魔法陣を起動するにはリスクが伴うから、うちの領主は遺跡の起動を禁じて、遺跡を使用しないように要請しているの。なのに一希がここにいる。つまり……」

「彼らはその要請を無視して、遺跡を起動した?」

 俺が問いかけると、カティアは正解とばかりに頷いた。


「たぶん、目的は異世界の技術だよ。だから、一希を攫おうとしてるんだと思う」

「そう、なのか。ならさっきの子も、それが目的で接触してきたのかもな」

 遺跡で出会った少女と同一人物なら、俺を助けてくれた女の子ってことになる。

 だけど、異世界の知識が目当てなら、殺そうとする方がおかしい。女の子も俺を庇ってはくれたけど……知識が目当てだったのかもな。


「なにか気になるの?」

 顔を覗き込まれて、反射的になんでもないと口にしようとする。けど、さっきの子が俺の名前を呼んでいたことを思い出して、その理由を聞いてみることにした。

「さっきの子、俺の名前を知ってたみたいなんだけど、なんでだと思う?」

「一希の名前を? ……うぅん。もしかして、咲夜の名を口にしたりした?」

「したけど……ひょっとしなくても、調査隊は咲夜を知ってるのか?」

「うん。一希が出くわしたのが当時のメンバーかどうかまでは分からないけど、咲夜を攫ったのは調査隊だからね」

「そうか……」


 当初の予想どおりって感じ、なのかな。なんてことを考えながら周囲を見回すけど、その姿はもうどこにも見えない。少し気になるけど……咲夜の行方を教えてくれる予定のカティアが側にいる以上、焦って探す必要はないだろう。


「咲夜の行方についてはあとで話してあげるから、取りあえずは鍛冶屋に入ろう?」

「そうだな……って、そっちの話はもう終わったのか?」

「うん。もともと挨拶だけだからね」

 そうなのかと視線を向けると、ミリアさんはもういなくなっていた。という訳で、俺とカティアは鍛冶屋へと足を踏み入れる。そこには、様々な武器や防具が陳列されていた。


「へぇ……武器防具の専門店なんだ?」

「そうだけど……どうして?」

「いやだって、人口が数千人くらいだろ? 仮に5000人として、5%が兵士としても250人だけ。武器の販売だけで生計を立てるのは難しそうだって思ったんだけど」

「あぁ……そうだね~。武器の販売だけで生計を立てられないのはその通りだけど、鍛冶屋は作った武器を売るだけじゃないし、この街には冒険者ギルドに所属する人間も多いからね」

「あぁ、なるほど」

 武器の修繕なんかが収入源になるのか。そういや、カティアも剣の修理に来たんだったな。


「そう言えば……その剣、大切なモノなのか?」

「ああ、これ? リスティスのご両親から託された剣なの」

「そう、だったのか……」


 カティアとリスティスが二人で暮らしているからなんとなく予想していたけど……そっか、リスティスの両親は死んでいるのか。

 俺は興味本位で聞いたことを後悔する。

 そんな俺の内心に気づいてか、それとも最初から気にしていないのか、カティアは気にした風もなく、陳列されている武器を眺め始めた。


「一希もこの世界で過ごすのなら、一振りくらい持っていた方が良いよ?」

「む……」

 この世界に来てから一ヶ月。実は帰る手段があるかも聞いていない。だけど、俺が咲夜を連れて帰ろうと考えていることは、カティアだって知っているはずだ。

 それなのに、剣を薦める。それが意味するところは、咲夜はすぐに連れ帰ることが出来るような状態にないと言うこと。もし旅をする必要があるのならガルムに襲われる可能性もあるし、剣をもっておいた方が良いとは思うけど……


「その、俺はお金持ってないからさ」

「大丈夫だよ、私が買ってあげるから」

「いや、さすがにそれは……」

 持ち合わせがないと言う意味ではなく、そもそもこの世界の通貨を持っていない。完全な無一文で、この一ヶ月はカティアのヒモ状態。

 そのうえ、剣まで買ってもらうとか、さすがに申し訳なさすぎる。


「気にしなくて良いよ。それに、またガルムに襲われたりしたら困るでしょ? 私が側にいたら護ってあげられるけど、必ずしもそうとは限らないし」

「むぅ……」

 たしかに、自衛手段がないのはよろしくないかなぁ。金銭的に負担をかけたくないという理由で断って、カティアに護ってもらうのも本末転倒だし……しょうがない。お金はそのうちなんとかして返すとして、いまは好意に甘えるとしよう。


「それじゃ、手頃そうな剣を買ってもらっても良いか?」

「うんうん。どれが良い?」

「ええっと……分からないから、選んでもらっても良いかな?」

「ん~そうだねぇ。それじゃ……オススメはあるかな?」


 カティアが誰もいない陳列棚に向かって話しかける。一体なにをと思った直後、陳列しているいくつかの武器の側、虚空に光りのウィンドウが出現。そこになにやら文字が表示された。

 まだ文字はあまり読めないんだけど……


「もしかしてこれって、武器の性能とか値段が書いてあるのか?」

 なんとなくだけど、ゲームに出てくるような武器のステータス画面に見える。そう思って聞いたら、カティアはステータスに目を通しながら「そうだよぉ」と答えた。

「魔術かなにか、なのか?」

「うんうん。精霊が表示してるんだよ」

「……ええっと?」


 俺の知っている精霊と言えばカティアのことだけど……そう言えば、カティアは人型の精霊だって言ってたな。それはつまり、人型じゃない精霊がいると言うこと。

 そう思ってステータス画面が浮かんでいる辺りを見ると――いた。妖精のような羽を生やした手のひらサイズの女の子が、武器の陰に隠れるように立っている。


「この子が、武器の性能を表示してくれてるのか?」

 カティアに問いかけたのだけど、妖精は自分が聞かれたと思ったのだろう。コクコクと頷いた。なんか、可愛いぞ。

 そう言えば、リスティスが俺の傷を触診してたときも、似たようなステータスが表示されていたな。もしかしたら、リスティスも同じような精霊をつれているのかな?


「この子は、武器屋の主人と契約しているんだよ」

「それはつまり、この子は店主の魔力を目当てに働いてるのか?」

 カティアが契約はちょいちょいとするモノだと言っていたし、バイト感覚だろうと思っての発言だったんだけど――それを聞いた精霊っ娘はなにやらお冠だ。

「あれ? 俺、なにか怒らすようなことを言ったか?」

「あはは……」

 何故かカティアは苦笑い。精霊っ娘に顔を寄せると、なにかを囁いた。それを聞いた精霊は目を見開いて俺とカティアを見比べる。

「そういう訳だから、怒らないであげてね」

 カティアの言葉を聞き、コクコクと頷く精霊っ娘。


「……一体なにを言ったんだ?」

「ふふっ、秘密だよ。ただ……そうだね。精霊によっては、契約で全てを捧げる場合もあるの。だから、この精霊にとっては、バイトなんて感覚じゃないってこと」

「なるほど……って言うか、全てを捧げるって……」

 変な意味ではないと思うんだけど、カティアが言うとちょっと意味深だ。なんて考えていたのがバレてしまったのだろう。カティアはクスリと微笑んだ。


「一希が望むなら、私はすべてを捧げても良いよ?」

「いやいや。そんなこと望まないし。それにカティアは命の恩人なんだし、魔力くらいいくらでも持って行ってくれてかまわないよ」

「……ありがと。それじゃ、少しだけもらうね」

 カティアは少し照れくさそうに微笑み、ぴとりと肩を寄せてきた。銀色の髪が俺の腕に触れてなんだかくすぐったい。なんて、ちょっと甘酸っぱい雰囲気の中、剣を物色していく。そうしてほどなく、カティアが一振りの長剣を見つけた。


「これは……ちょっと性能を見せてくれるかな?」

 カティアがお願いすると、精霊が小さな手を一振り。ステータスウィンドウが虚空に浮かび上がった。そこに書いてある文字は、相変わらず俺には分からない。

 だけど――

「うわぁ、なにこの自重してない長剣」

 なにやらカティアはドン引きしている。カティアにお金を出してもらう以上、高いものを買うつもりはないんだけど……こんな反応をされたら気になるよな?

 という訳で、「そんなに凄いのか?」と聞いてみた。


「凄いというか……おかしい感じかな。どうしてこんな剣が、このお店にあるの?」

 カティアが精霊に問いかけると、ステータスウィンドウに一文が追加された。

「なんて書いてあるんだ?」

「えっと……遥か東の大陸から流れてきたんだって」

「ほうほう。それで、その長剣はどんな性能なんだ?」

「えっとね……紋様魔術って有るじゃない?」

「あぁ、顔の認識を阻害するのがそうだったよな?」

「うんうん。その紋様魔術が、この武器には複数刻まれているみたい。まずは、耐久力増加に、切れ味増加。それに風の加護だね。アップ系は二割ほど上がるみたい」

 ……なんか、いきなりゲームに出てきそうな能力が出てきたな。


「耐久力と切れ味増加は分かるけど、風の加護って言うのは?」

「高速で飛んでくる物体の衝撃を和らげるみたいだね」

「もしかして、ガルムの飛び掛かりとかも?」

「質量の大きい物を弾くほどの効果はないと思う。だから矢とかを吹き散らしたりだね」

「あぁ……なるほど」

 ガルムの飛び掛かりを防げないのは残念だけど、飛び道具をある程度防げるって言うのは凄いな。それに、耐久力と切れ味が二割アップって言うのもなにげに凄いと思う。


「なんかとんでもない性能だな」

「そうなんだけど……ほかの能力が、ね」

「……まだあるのか?」

「うん。あるというか、どうしてあるんだろうというか……」

「え、なにそれ、どういうこと?」

「なんかね。気温の調節と、紫外線の軽減。それに……ダークネスだって」

「……なんだそれ?」

 何故武器に、気温調整と紫外線の軽減がついているんだ? いや、快適な気温で冒険が出来て、しかも日焼けもしない! とか、たしかに凄いかもしれないけどさ。


「ちなみに、ダークネスって言うのは、相手に目くらましとか?」

「うぅん。それがなんか……レーザー級を打ち消すとしか書いてないんだよね」

「……なにそれ?」

「分からないけど……たぶん、そういう紋様魔術があるんだと思う。だからダークネスは、レーザー級の対抗魔術だね」

「なるほど……」

 後半は意味が分からない感じだけど、前半の三つが刻まれているだけで、とんでもない武器なのはたしかだ。それに刀身も美しく、全体のデザインも精錬されている。

 決して安くはないだろう。


「という訳で、この剣にしたら?」

「いやいやいや、たしかに凄いと思うけど、そんな高級品は買えないって」

「それが、そうでもないんだよね。と言うか、凄く安いよ?」

「……いや、嘘だろ? たしかに俺は文字がまだ読めないけど、さすがに数字くらいは……なんか、桁が少ないな。なんでこんなに安いんだ?」

 最初に見せてもらった武器よりも一桁少ない。普通に考えてありえない値段だ。


「紋様魔術って、手で触れた対象の体内にある魔力を自動的に消費して起動するの。そして、一般的な人間の使用に耐えられる数が、多くて三つくらいまでなんだよね」

「あぁ、そういうことか」

 普通は三つまでの紋様魔術が、この武器には六つも刻まれている。だから、装備をすると魔力切れを起こして、身体能力が一気に下がってしまうと言うこと。


「……欠陥品じゃないか?」

「そうでもないよ。自分で魔力素子(マナ)を魔力に変換する訓練を受けた人なら使用が可能だよ」

「そんな人いるのか?」

 人間は魔力素子(マナ)を魔力に変換できるけど、その魔力を操ることは出来ない。紋様魔術を数多く扱うためだけに、訓練すると言うことなんだろうか?


「精霊と人間の特性を受け継いだ混血(ダブル)なら魔術を使えるから、魔力素子(マナ)を魔力に変換する訓練を受けていたりするよ。まあ……そう言う人は、あまり剣を使わないと思うけどね」

「……やっぱり欠陥品なのでは?」

「うぅん。使用者が少ないのは事実だね。でも、一希には使えるはずだよ?」

「……え?」

「だって一希は、魔力素子(マナ)から魔力を精製する能力が高い純粋な人種だもん。自然に変換される魔力だけでも、なんとかなるはずだよ」

「お、おぉ、そういうことか!」

 この大陸の人間の多くは精霊の血が混じっているので、一般人には使えないけど、異世界から来た俺には使用できる、と。これは、買わない手はないだろう。


 俺はそう思って、剣を手に持ってみる。鞘を掴んだときはなにも感じなかったけど、柄を掴んだ瞬間、力が抜け落ちるような感覚を抱いた。これが魔力を消費している感覚、なのかな。

「……どう? 大丈夫だとは思うんだけど」

「そうだなぁ……たしかにちょっと力が抜けるような感覚はあるけど、すぐにどうこうとかはなさそうだ。重さもちょうどいいし、これなら使えると思う」

 本来の筋力から考えると重いはずだけど、身体能力が上がってるせいで軽く感じる。使いこなせるかは別として、振り回されることはなさそうだ。


「それじゃ、これを買ってくるね」

「そんな簡単に……」

「良いから良いから。それに、ちょっと私の剣の修理も頼んでくる。おじさーん」

 カティアが店の奥、工房に向かって呼びかける。ほどなく、いかにも職人といった感じのおじさんが姿を現した。


「なんじゃ、カティアじゃないか。今日はどうしたんだ?」

「この剣を買いたいの」

「……おいおい。この剣の能力は分かってるのか?」

「うんうん。大丈夫だよ」

「ふむ。こっちとしても買い手がいなくて困っておったからな。カティアが買ってくれるのならかまわんが……要件はそれだけか?」

「うぅん。私の剣も修理して欲しいの」

「どれどれ、ちょっと見せてみろ」

 鍛冶屋のおじさんが、カティアの細身の剣を手に取り、その刀身を眺めていく。そしてほどなく、首をゆっくりと横に振った。


「……寿命じゃな。修理したとしても、そのうち折れそうだ」

「そっかぁ……」

 カティアが少し寂しそうな表情を浮かべる。けど無理もない。カティアの持つ剣は、リスティスのお父さんの形見だって話だからな。

 使えなくなるのは残念だけど、直せないのなら仕方ない。俺はカティアが修理を諦めて、その剣は保管。新しい剣を買うんだろうなと思った。

 だけど――


「うぅん……じゃあ、この剣の刀身を交換してもらっても良いかな?」

 カティアは俺の予想とは違う結論を口にした。そんなカティアに驚いたけど、ここで俺が口に挟むことではないだろう。そう思って見守る。

 ほどなく、カティアは刀身の交換依頼と、剣の会計を終えて戻ってきた。


「お待たせ。それと……はい、これが一希の剣だよ」

「ありがとう。大切にするよ」

「どういたしましてっ。ところで、なんか難しい顔をしてたけど、どうかしたの?」

「……いや。さっきの剣、形見だって言ってただろ? 刀身を交換してよかったのかなって」

 大切な形見なら、そのままの形で取っておくべきだと思った。だけどカティアは「大切だからこそ、だよ」と微笑む。


 ――このときは、意味が分からなかった。

 だけど後にして思えば、カティアは俺の反応を予想していたのだろう。それどころかきっと、俺を鍛冶屋に連れてきたのは、その疑問を俺に抱かせるため。

 俺がその事実に気づいたのは、カティアから咲夜について聞かされた後だった。



 鍛冶屋での用事を終えた後は、カティアに街を案内をしてもらうことになった。

 人口数千人の小さな街なので、廻るのにそれほど時間は掛からない。各種職人が集まる通りのほかには、市場や冒険者ギルド。後は農場なんかも案内してもらった。

 ちなみに、農場はなにげに凄い。ほかの技術を考えると中世のヨーロッパくらい。だけど、川辺には水車のようなモノがあり、用水路に水が流れ込んでいる。


 この突出した技術……もしかして、咲夜が教えたりしたのか?

 当時十二歳だった咲夜にどこまで可能だったかは分からないけど……概念だけでも分かれば、この世界の住人にも研究開発は可能だろう。

 そんな風に考えていると、隣を歩くカティアが「ところで――」と切り出した。


「さっきの剣の話だけど、気になってるよね?」

「それはまぁ、気にはなってるけど……?」

 気にはなってるけど、聞いちゃいけない気がしてと言うニュアンスで答える。するとカティアは、かまわないよと微笑んだ。


「私にとっても必要な話だしね。歩きながらでよかったら話してあげる」

 少し寂しげに微笑んだカティアが視線を向けたのは、街外れに見える丘。おそらくそこで、咲夜について教えてくれるのだろう。

 だから、聞きたいことがあるなら、それまでに――ってことかな。


「それじゃ……刀身を交換した理由を聞いても良いか? 形見の品、だったんだよな?」

「うん。一希が気になってるのは、刀身を交換したら、別の剣になっちゃうんじゃないかってことだよね?」

「そう思ったんだけど……違うのか?」

「違うとも言えるし、違わないとも言える。その答えは人それぞれ。どこに主眼を置くかによって変わるパラドックス、なんだよ」

 人それぞれという意味は分かる。どんな議題だって、人数が増えれば意見は割れる。だから、自分と違う答えを否定したりはしない。だけど……


「どこに主眼を置くかで変わるって言うのは?」

「一希はさっきの剣を、形見の品物としてみてるでしょ?」

「そうだけど……カティアにとってはそうじゃないって言うのか?」

「私はリスティスのお父さんに、あの剣で娘を護って欲しいって託されたの。だから私にとってあの剣は、リスティスを護るために託された武器、なんだよ」

「……なるほど。それでパラドックスか」


 俺はテセウスの船というパラドックスを思い出した。

 それは、船の部品をすべて交換した場合、もとの船と同じものであると言えるかという問題。そしてその答えは、どこに主眼を置くかで変わるというものだった。


 今回の話もそれと同じだろう。

 リスティスを護るために託された形見の剣。それを形見の品としてみた場合、刀身等を交換してしまえば別物になってしまう。

 だけどその剣は、リスティスを護るために託された剣でもある。そこに視点を置いた場合、刀身が歪んで武器として使えない状態では、その存在意義がなくなってしまう。

 刀身を交換してこそ、存在意義を保つことが出来る。


「私達はそれを、精霊のパラドックスと呼んでいるの」

「……精霊のパラドックス? どうして精霊なんだ?」

「それは……」

 俺の問いに言葉を濁して答えず、カティアはおもむろに足を止めた。俺達はいつの間にか、丘の上へとたどり着いていた。

 少し日が傾き初め、金色に染まった丘の上の草原。カティアはある一点を見つめている。そこには……小さなお墓がぽつんと建てられていた。

 それを見て、俺は言いようのない不安を覚える。


「待って、待ってくれ。ここで、咲夜の話を教えてくれるって言ったよな?」

「うん。そう言ったね。そしてその答えが、あのお墓」

「なにを、なにを言ってるんだ。咲夜は生きているって言っただろ……?」

「うん。私はいまでもそう思ってる。だけど……」

 カティアは寂しげな表情を浮かべ――きっぱりと言い放った。


「これは咲夜のお墓だよ」――と。

 

 

 まさか3日で7話(6と7を統合したので実質は8話)投稿することになるとは……色々と予想外でした。

 次話でいよいよ……と言うほどリアル日数が過ぎてないんですが、タイトルが精霊のパラドックスである理由(あらすじで伏せた部分)が明らかになります。

 今回でピンと来た人は……いますかね。もしいたら、感想で教えてくれると嬉しいです。

 そんな次話は今夜か明日に投稿予定です。出来れば明日にしたいところなんですが……ちょっと現時点では未定とさせてください。*投稿しました。

 

 なお、自重してない剣に付与されているダークネスは、本編では関係ありません。同時連載中の俺の異世界姉妹が自重しない! のエイプリルフールネタで出てきた剣です。

 気になる方は、活動報告のアリスの自重しないエイプリルフールのお話をご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍『俺の異世界姉妹が自重しない!』の公式ページ
一巻好評発売中。二巻はまもなく。
画像をクリックorタップで飛びます。
l7knhvs32ege41jw3gv0l9nudqel_9gi_lo_9g_3

以下、投稿作品など。タイトルをクリックorタップで飛びます。

俺の異世界姉妹が自重しない! 連載中

青い鳥症候群 完結

異世界姉妹のファンアート 活動報告

小説家になろう 勝手にランキング
こちらも、気が向いたらで良いのでクリックorタップをお願いします。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ