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エピソード 4ー4 四年前の真相

 明日はいよいよ、俺の異世界姉妹が自重しない! 2巻の発売日です! そして、早売りしているところでは、既に売っているそうですね。

 購入ツイートとか凄く嬉しかったです、感謝ですよ!

 口絵が個人的に物凄くツボなので、お店で見かけることがあれば、それだけでも見ていただけると嬉しいです。(お店にご迷惑をかけない範囲でお願いします)

 

 ウィラント伯爵領で内政の手伝いをする日々を送り、あっという間に三ヶ月が過ぎた。

 ラングの街に集められた技術者達は優秀だったようで、俺のあやふやな知識を元に様々な技術を再現。街は大きく変わろうとしている。


 そして今日は、川に作られた迂回路に試作の水車を設置。農場へと続く用水路に水を流す予定だ。という訳で、俺とサクヤは馬を使って、街外れにある現場へと足を運んでいた。

 ちなみに、サクヤと俺は別々の馬である。

 ここに来た頃の俺は馬に乗れるはずもなく、サクヤの後ろに乗せてもらうという羞恥プレイを強要されたので、必死に練習して一人で乗れるようになったのだ。

 そんな過去の恥ずかしい過去はともかく、目の前で水車の設置作業が開始された。


「ようやく、用水路に水が引けるんだな」

 ぽつりと呟く。そんな俺に対し、隣で同じように眺めていたサクヤが、何故か呆れるような表情を浮かべた。

「ようやく……って、まだたったの三ヶ月よ? それで、ミレルの街にある水車の再現をしてしまった。それに水車を利用した製粉器や新しい農具、それに様々な技術の研究も始まっている。これって、十分に凄いことじゃないかしら?」

「それは……うん、分かってるよ。みんな本当に良くやってくれてると思う」

 俺が伝えたのは、本当に技術の概要だけ。それらを再現する目処が立ったのは、技術者達の実力によるものだ。普通なら、こんなに早く試作とは言え水車が出来たりはしないだろう。

 だけど……俺はまだ誰にも言ってないけど、咲夜への恩返し――つまり、この領地を貧困から救った暁には、ミレルの街へ帰らせて欲しいとロンド伯爵にお願いするつもりだ。

 だから、その日を待ち望んでいる俺は、ようやくだと思ってしまったのだ。


「……ねぇ一希。一希はこの街を豊かにした後はどうするつもりなの?」

 俺の内心に気づいているのか、それともただの偶然か、サクヤはおもむろに尋ねてきた。

 そんなことを聞かれるのは予想外で、俺は思わず言葉に詰まってしまう。だけど、答えを望んでの問いかけではなかったんだろう。サクヤはかまわずに口を開く。


「あたしは、一希にずっとこの街に残って欲しいって思ってるの」

「それは……この街を豊かにするためだろ? 大丈夫だ。この街が豊かになるまでは出て行ったりしないし、その後だって困ったときは協力をするよ」

「……ばか」

 サクヤはぽつりと呟き、視線を俺へと移した。その左右で光彩の異なる瞳が、まっすぐに俺を捕らえて放さない。


「言ったでしょ、あたしには幼なじみを好きだって言う想いが残っているって。あたしは貴方に、あたしの側にいて欲しいって言ってるのよ」

「それって、どういう……」

「分からない? 貴方に告白しているつもりよ」

「――なっ!?」

 予想していなかった言葉をストレートに投げかけられて動揺する。と言うか、咲夜の姿をした女の子に告白されるとか、衝撃が強すぎである。


「待って、待ってくれ。それはあくまで、咲夜の――生まれ変わる前の咲夜の気持ちだろ?」

「そうだけど、あたしの気持ちでもあるわ。だからこそ、遺跡で貴方を見かけたとき、あたしはすぐに、貴方が一希だって確信したんだから」

「……それが、俺と契約しようとした理由?」

「ええ、その通りよ」

 精霊にとって契約は、自分の全てを捧げるに等しい行為らしい。にもかかわらず、サクヤは初対面であるはずの俺と契約しようとした。


「……サクヤは、自分が咲夜自身だと思ってるのか?」

 俺は、サクヤを咲夜から生まれた娘のような存在だと思い始めている。だけど、サクヤはどうなんだろうと思って尋ねる。

「どう、かしらね。正直に言えば分からないわ」

「だったら……」

 咲夜の想いは、サクヤにとっては他人の思い同然のはず。と、口までで掛かった言葉は飲み込んだ。俺にとってそうでも、サクヤにとっては違うのかもしれないと思ったから。


「誤解しているようだから言っておくわよ。あたしはたしかに、咲夜の想いを引き継いでいるから、最初から貴方に惹かれてた。でもね。貴方に告白したのはそれが理由じゃない。こうして三ヶ月のあいだ一緒に過ごして、あらためて貴方と一緒にいたいと思ったからよ」

「そ、そうなんだ……」

 どこまでもまっすぐな告白にうろたえる。そんな俺に、サクヤは詰め寄ってきた。

「一希、お願いよ。これからもずっと、あたしの側にいて」

「それ、は……」

 俺は咲夜に恩がある。だから、咲夜の生まれ変わりであるサクヤが困っているのなら、なにがなんでも助けようと思ってこの街に来た。その気持ちに嘘はない。

 だけど、だけど、その願いは……


「――サクヤ副隊長、どこにいらっしゃいますか、サクヤ副隊長!」

 不意に遠くからそんな声が響いた。

「……タイミングが悪かったわね。一希、返事は今でなくても良いから、考えておいて」

 サクヤはため息を一つ、俺から素早く距離を取った。


 ほどなく、サクヤの姿を見つけた騎士風の男が駆け寄ってきた。よほど急いでいるのだろう、その息が上がっている。

「なにがあったの?」

「緊急事態につき、すぐに屋敷に来てほしいと、ロンド伯爵のご命令です」

「……緊急事態? 分かったわ。――一希、そういうことだから、申し訳ないけど」

「あぁ、分かってる」

 サクヤは俺のサポートであり、護衛でもあるので、俺が一人で出歩くことは許されていない。なので俺は一緒に戻ることにした。



 お屋敷に戻ると、なにやら周辺が騒がしかった。ウィラント伯爵家に仕える騎士がバタバタと走り回っている。そんな彼らに指示を出しているロンド伯爵を見つけて駆け寄る。

「おぉ、サクヤ。待っていたぞ」

「遅くなって申し訳ありません。緊急事態とお聞きしましたが?」

「うむ。実はアークが暴走してな。騎士隊を率いて、連れ戻して欲しい」

「暴走、ですか?」

「まずは出立の準備を。詳細はほかの騎士に聞くが良い」

「かしこまりました」

 サクヤは恭しく頭を下げ、すぐに騎士達のもとへ駈けていった。それを見届け、俺はロンド伯爵へと視線を向ける。


「……一体なにがあったんですか?」

「うむ……一希には話さねばなるまい。実は――」

 重苦しい口調で語られたのは、アークが遺跡を起動する目的で、調査隊を率いて出発してしまったという事実だった。


「遺跡を起動……って、周囲の魔力素子(マナ)が回復するまで四年ほどかかるから、連続での使用はしないと言ってたじゃないですか!?」

「うむ、だからこそ、サクヤに止めるように命じたのだ」

「……間に合うのですか?」

「起動前に……と言うと難しいだろうな。だが、起動した瞬間、いきなり周囲の魔力素子(マナ)が喪失する訳ではないからな。すぐに止めれば、それほどの被害は出ないだろう」

「……調査隊が出発したのは?」

「一刻ほど前だ。起動にかかる準備を考えれば、起動した直後くらいには止められるはずだ」

「起動した直後……調査隊が異世界に行った後だったらどうするつもりですか?」

「起動してからこちらの門が開くまでにはそれなりの時間を要するのだ。だから、その心配はない。ただ、どうも異世界側の門が先に開くようでな。むしろそちらの方が心配だ」

「あぁ……そうだったんですね」

 俺がこの世界に来たときがまさにそうだったんだろう。調査隊にしてみれば、異世界への魔法陣が起動するのを待っていたら、何故か魔法陣から俺が現れた、と。


「なので、被害者が絶対にいないとは言えないのだが……お主はどう思う?」

「そう、ですね……大丈夫でしょう」

 俺が行方不明になったことはニュースになっているはずだし、同じ場所で二回も怪奇現象が起きたのだ。周囲に人が近づかないよう対策くらいは施しているだろう。

 そもそも、俺のような事情があるのならともかく、入った瞬間死ぬかもしれないような得体の知れない魔法陣に飛び込むなんて馬鹿はいないはずだ。


「それにしても……彼はどうして、そんな無茶を?」

「恐らくは焦っているのであろうな」

「焦る、ですか?」

 なにに焦るのか、心当たりがなくて首をかしげる。

「ラクシュという少女に記憶はないか?」

「ラクシュ……あぁ、たしか内政を担当している、あの子ですか?」

 鍛冶屋のおじさん達と、こっちが先だと言い合いをしていた気の強そうな美少女である。


「あやつはわしの娘でな」

「――えっ」

 言われてみれば、他の人と比べて高貴そうな身なりだったな。と言うか俺、思いっきりため口でしゃべっちゃったんだけど、大丈夫なのだろうか?

「なにを考えているかは想像できるが、心配はするな。ラクシュは気さくな娘だからな」

「……そうですか。それで、彼女がどうかしたんですか?」

「うむ。おぬしから様々な知識を吸い上げ、多大な功績を挙げているだろう?」

「あぁ……なるほど」

 彼女は理解力もあり、水車はもちろん、応用技術まで実現しようとしている。それは俺の持つ異世界の知識だけではなく、彼女の才能に寄るところが大きいだろう。

 そんな風に功績を挙げたのがロンド伯爵の娘で、息子であるアークが焦っている。つまりは、そういうことなのだろう。


「後継者争い、ですね?」

「身も蓋もなく言ってしまえばその通りだ」

 なるほど、ね。アークは皆がいる屋敷で、俺のことを認めないと叫んでいた。だけどラクシュは、俺を重宝して、多大な貢献をしている。

 その結果、アークの立場が悪くなった。だからアークは焦り、自分も新たな異世界人を招くために、遺跡を起動しようとしている――と言うことか。


「事情は分かりましたけど、遺跡を起動したら森がやばいことになって、ヴァン伯爵とも険悪になりかねないんですよね? 彼の立場が悪化するだけじゃないですか?」

「それは、俺が悪いのだ……」

 俺の問いに対して、ロンド伯爵は実に苦々しい表情を浮かべた。


「事情をお聞きしても?」

「……そうだな。一希には打ち明けねばならんだろう。実は……咲夜を攫ったのはアークの独断だったのだ」

「……どういうことですか?」

 驚きと内容に対する嫌悪感で、ぎゅっと拳を握りしめる。


「四年前、俺が調査隊に命じたのは、遺跡の調査。たとえなにかが起きても、慎重に事を運ぶようにと命じていたのだ。だが、あやつは……」

「異世界に繋がっていることを知り、そこで見つけた少女を攫ったと言うことですか?」

「そうだ。そして、そのことを本来は咎めるべきだったのだが……咲夜の持つ知識は、決して無視できるようなものではなかった。だから、俺はあやつの行動を認めてしまったのだ」

「……そういうことですか」

 命令無視に加え、魔力素子(マナ)のない異世界で精霊を暴走させてしまった。それでも、異世界の知識を持つ少女を連れ帰ったという功績で、全てを帳消しにして評価された。

 その時からアークは、結果を出せばなにをしても許されるという認識を持った、と。


「……色々と言いたいことはありますが、今は飲み込みます」

 もちろん、本音を言うと文句の一つや二つは言いたいと思っている。けど、ロンド伯爵に責任を追及すると言うことは、その部下であるサクヤを悲しませることになりかねない。

 咲夜を傷つけられた恨みを口にして、サクヤに謝罪されるのは二度とごめんだ。


「……ただ、一つ聞かせてください。生前の咲夜を知る者が、咲夜はウィラント伯爵家に捕らわれていたようなことを言っていたのですが?」

「生前の咲夜を知る者だと?」

「ええ。心当たりはございませんか?」

「咲夜の世話係だった者は今もこの屋敷で働いている。屋敷や街で知り合った人間だとすると、さすがにわしにも分からんな」

「そうですか。では、捕らわれていた的な話についてはいかがでしょう?」

「そちらも、心当たりがない……とは言えんな。アークは咲夜に執心だったからな。彼女を囲い込もうとしていても不思議ではない」

「そう、ですか……」

 なんとなく。なんとなくだけど、話が見えてきた気がする。もちろん、まだまだ分からないこともたくさんあるけど……それでも、重要なことだけは分かっている。

 だから――


「ロンド伯爵にお願いがあります」

「……行くのか?」

 俺が切り出すことをとっくに予測していたのだろう。ロンド伯爵は静かにそう言った。それに対して俺は迷わず頷く。

「遺跡は起動しても、すぐに止められると聞きました。でも、一度は起動すると言うことは、周囲の魔力素子(マナ)を多少は消費する。そうでしょう?」

「そのとおりだ。なので、規模は分からんが、森に住む魔獣がミレルの街へ押し寄せる可能性はある。だが、お主が行ってどうするというのだ?」

「あの街には、俺が契約している精霊がいます。俺の命を救ってくれた、優しい少女です」

 俺と契約を結んだカティアは、俺が側にいないと実力を発揮できない。

 だけど、優しいカティアはきっと、みんなを護るために剣を取る。もし大切な誰かが危険にさらされたら、身を挺して庇おうとするだろう。

 だから、俺はそんな彼女を放ってはおけない。


「お主にとって大事な娘と言うことか。……分かった。ならば行くが良い」

「ありがとうございます。それと申し訳ありませんが、馬を一頭貸して頂けませんか?」

「それなら既に用意させている。餞別代わりにお主に贈ろう」

「……ロンド伯爵」

 ロンド伯爵は最初から俺の行動を予想して、準備を始めていた。それを知って、俺は少しだけ驚いた。咲夜を攫った憎い相手だと思ったけど……俺は少し誤解していたのかもしれない。

 そう思ったから、俺は心から頭を下げた。


「仕事を途中で投げ出すことになって申し訳ありません。危険が去るまでミレルの街を離れるつもりはありませんが、技術の提供は続けたいと考えています」

「それは仕方がない。こちらの落ち度だからな。手を切ると言われなかっただけマシだ。事態が収拾できたら、あらためてサクヤを使者として送ろう」

「分かりました」

「それと、屋敷にいる騎士達は遺跡へと派遣するので貸し出すことは出来ないが、各地から呼び戻した騎士が集まり次第、ミレルの街の救援に向かわせる」

「なにからなにまで、ありがとうございます。それでは――失礼します」

 俺はもう一度頭を下げ、ミレルの街へ向かう準備を始めた。

 

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