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エピソード 4ー1 オーパーツ

 サクヤと出会ってから、ちょうど一ヶ月後。それは、サクヤが俺の返事を聞くために、街外れで待っていると言っていた日だ。

 という訳で、一ヶ月後の早朝。俺はカティア達に別れを告げ、街外れへと向かった。

 時間帯を決めていなかったけど、旅をすることになるのなら朝だろう。そんな風に考えながら、街外れでサクヤが現れるのを待つ。それからほどなく……サクヤが姿を現した。


「久しぶりね、一希。旅支度をしているように見えるけど……ウィラント伯爵領に来てくれると思っても良いのかしら?」

「そのつもりだよ。ただ……少しだけ条件がある」

「なにかしら? 貴方が来てくれるのなら、可能な限り条件は呑むつもりよ。あの精霊の同行も、もちろん歓迎するわ」

「いや……カティアはこの街に残るよ」

 俺がそう言った瞬間、サクヤは目をぱちくりとさせた。


「一緒に連れて行かないの? あの精霊って、貴方と契約しているんでしょ?」

「……よく知っているな」

「そりゃ、調べたもの。貴方をウィラント伯爵領に招聘するためにね」

「なるほど。でも、連れては行かないんだ。カティアにはカティアの生活があるから」

「……ふぅん? 貴方達が納得しているのなら、どうこう言うつもりはないけどね。でもそれじゃあ、条件ってなにかしら?」

「俺がウィラント伯爵領で技術提供をするに当たって、報酬が欲しいんだ。そして、俺が生活に必要な最低限以外は全部、カティアに届けて欲しい」

「……あぁ、そういうこと」

 納得顔のサクヤに、俺はこくりと頷き返す。俺と契約しているカティアは、俺から離れることで以前のように戦えなくなってしまう。そんなカティアと子供のリスティス。ミリアさんの怪我も治りきっていないし、以前のように生活するのは苦しいはずだ。

 カティアは蓄えがあるから大丈夫なんて言ってたけど、彼女の大丈夫は信用できない。

 だから――


「カティア達の生活の保障。それが、ウィラント伯爵領に行く条件だ」

「……報酬についてだけど、貴方がウィラント伯爵領に来てくれるのなら、もちろん支払うことになっているわ。だから、そのお金を貴方がどうしようと問題ないわ」

「じゃあ……?」

「ええ。カティアさん? あの精霊に届けるのも引き受けてあげる」

「……そうか。それを聞いて安心した。あともう一つ、出来れば、時々で良いから、ミレルの街へ戻りたいんだけど……?」

「それは……」

 途端にサクヤが難しい表情を浮かべる。


「……ラングの街に行ったら、二度と出してもらえなかったりするのか?」

「え? うぅん、さすがにそんなことはないわ。ただ、貴方の重要性を考えたら、そう簡単に外出許可は下りないんじゃないかなと思って」

「それは……頻度さえ少なければ、ミレルの街へ行っても良いと言うことか?」

「こちらからお願いしてきてもらうのだもの。ダメと言うことはないわよ。もちろん、護衛とかはつけさせてもらうけどね」

「そう、なのか……」

 少し意外だった。カティアから聞いた感じだと、ウィラントに行ったが最後、二度と帰ってこられないくらいの感じだと思っていたから。

 捕まったんじゃなくて、自分から行くと言い出したおかげなんだろうか?


「あ、あのね。最初のうちは無理だと思うけど、ちゃんと許可が出るようにお願いするから。だから、お願い。私達の領地を救って――」

 必死に訴えかけてくるサクヤのセリフを、手のひらを突き出して遮った。

「心配するな。カティアに給料さえ届けてくれるのなら、俺はラングの街へ行くから」

「……良いの?」

「約束を守ってさえくれるならな。俺は、咲夜への恩返しをするって決めてるから」

「……ありがとう、一希。貴方の好意に報いられるよう、全力を尽くすと約束するわ」

「ああ、信じるよ」

「決まり、ね。それじゃあっちに馬車が用意してあるから、ウィラント伯爵領にあるラングの街まで移動しましょう」

 こうして、俺はカティアのいる街に別れを告げた。



 ――馬車に揺られること半日。俺達はウィラント伯爵領にあるラングの街へと到着した。

 大通りを馬車で進みながら、俺は街の様子を観察する。貧困にあえいでいるとサクヤが言うだけあって、あまり活気がない。それは、ミレルの街と比べると一目瞭然だ。

「たしかに生活が苦しそうな雰囲気だな」

「なんとか出来そうかしら?」

「この世界の技術力を考えると、役に立つ知識は結構あるけど……後は色々話し合ってみないと分からないな。ちなみに、食糧難とか聞いてるけど、原因は分かってるのか?」

「この地域はもともと雨が少なめなんだけど、今年はいつもより更に少なかったのが原因ね」

「……雨? それは、川が干上がるくらいってことか?」

「まさか、さすがにそこまでの干ばつじゃないわ」

 サクヤの答えに俺は首をかしげる。


「ええっと……それじゃあ、川の水を畑に引けば良いだろ?」

「それはそうだけど……畑は広大だし、毎日大量の水がいるのよ? それだけの水を離れた川から桶で毎日運ぶなんて不可能よ」

「……普通に用水路で引けば良いんじゃないか?」

「それが出来たら楽なんだけどね。川の方が低いから、用水路は作れないわ」

「……あれ?」

 話が噛み合ってないことに気づいて首をかしげる。

 この世界の文明レベルを考えれば、水車がなかったとしてもおかしくはない。おかしくはないけど、ミレルの街には水車があった。

 そして俺はこの世界の言語で、水車という単語をカティアから習っている。


「ラングの街には水車がないのか?」

「水車……って、なにかしら?」

 なにかの勘違いかと思ったけど……本当に水車がないらしい。と言うか、この反応。サクヤは水車の存在自体を知らないのか?


「水車は水の力で回転して、水を高いところに運んだり出来るんだ。だから、川より高いところにある用水路にも水を引ける。ミレルの街にはあったはずだけど……みたことないか?」

「あ~、そう言えば、なんか川の側で回ってるのがあったわね。……へぇ、あれが水車って言うの…………それって凄くない!?」

「……たぶん、かなり凄いと思うぞ?」

 日照りが原因で食糧難なら、川から水を引くだけである程度は解決するはずだ。


「それ、一希にも作れる!? 作れるわよね!? 作れると言って!」

 隣の席に座っていたサクヤが、俺の両手を掴んで迫り来る。その迫力に気圧されながらも、俺は水車について思い浮かべる。

「ええっと……俺が作るのは無理だ」

「無理、なの……?」

 なんか、絶望的な顔をされた。なので俺は慌てて、作るのは無理だけどと言い直す。


「大雑把な原理くらいなら説明できると思う」

「さすがねっ、一希を連れてきた甲斐があったわ!」

「ええぇ……」

 日本での知識を活かした内政チートという展開は考えていたけど……まさか、隣街にある技術で歓喜されるとか予想外すぎる。


 い、いや、前向きに考えよう。

 肥料や連作障害などなど。俺の知る知識がこの世界でも有効だと言う保証はなかった。だけど、確実に一つは役に立つと分かったんだから、少なくとも悪い話ではないはずだ。

 なんてことを考えていると、不意に馬車が止まった。見れば、目の前に大きなお屋敷がたたずんでいる。恐らくはこれが、ウィラント伯爵のお屋敷だろう。


「お帰りなさいませ、サクヤさん。そちらの方が、一希様ですか?」

 馬車を降りると、執事らしき初老の男が俺達を出迎えた。

「ええ。ロンド様にお目にかかりたいのだけど、今は可能かしら?」

「もちろんです。早馬で知らせを受けてすぐ、出迎えの準備をいたしておりました。ご当主は既に応接間でお待ちです」

「ありがとう。それじゃ一希、こっちよ。聞いての通り、まずは伯爵様に会ってもらうわ」

「……分かった」

 ウィラント伯爵は、咲夜を攫った連中の黒幕だけど、サクヤが仕える当主であり、俺が協力をすると決めた相手でもある。感情にまかせて突っかかる訳にはいかないと深呼吸を一つ。

 俺は気持ちを落ち着け、執事とサクヤの後に続いた。

 

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