NPCとPCはこうして仲を深める
設定
チャリティー : 人工知能によってオンラインゲームの中で意思を持ってしまったNPCの女性店員
アイス : NPCに惚れてしまったPC。現実では会社員なオタク。肉食な見た目を気にしてる
リディア : 獣人の元気が取り柄な女の子。アイスの実の妹。このオンラインゲームに誘ったのもリディアだったりする
エスト : ほとんど名前だけの登場。サードワールド出身の商人
ここは一つ目の島-ファーストワールド-の端の端……ではなく、王都の中心地の端の通りに位置する雑貨屋の前である。
物語もそこから始まる。
この世界は多くの勇者が存在し、そのほとんどが外界というこの世界の生まれでない者からなり、勇者の殆どはギルドに所属し、この世界の中心は外界の異世界人によって成り立っていた。
わたしのこの世界での職業は『やる気のない雑貨屋店員』である。
商業を中心としたサードワールドから仕入れた物を売っている。やる気のないというのは立っているだけで声も掛けない寝てはいないが意識が半分もないわたしにつけられたものらしく、ステータスにそうついているのだ。
それはおいといて、普段そこまで困ることのないそんなわたしにも今はお店の前であちこちに視線を走られてうろうろしていた。昼間のこんな時間にもお店は閉店の看板のまま、オープンに至っていない。
どこからどう見ても困っていた。
「……どうかしたのか」
わたしと彼の頭上にこんな文字が点滅してのが見えることだろう。
『盗まれた仕入れ物を取り返してほしい : 300ギル : 100EXP』
初心者向けのクエストである。これを見た瞬間みんな背を向ける。
「お話し伺わせてください!」
彼の影に隠れて見えなかったが、小さな女の子が声を掛けてきた。
「……見ての通りわたしはこの雑貨屋の店員をしております。一週間に一度サードワールドの商人、エストという者からいつも仕入れを行っておりました。ですが、今日そのエストが盗賊に仕入れを盗まれたそうなのです。出来ればで構いません。盗まれた物を取り返してほしいのです。このままではお店がオープン出来ません」
「なるほどですね! 私達で良ければぜひお手伝いさせてください! ね! アイス! 」
「ああ」
一瞬頭の中で冷たくて甘い好物が浮かぶが目の前の彼からは甘さは感じない。黒に近い紺色の髪に鋭い目。冷たさは十分だ。相棒らしい女の子は獣人らしくショートの髪の色に合わせたオレンジ色の耳がピクピクと動き、尻尾がふらふらと動いていた。
「ありがとうございます。エストは多分酒場にいるかと思います。お願いします」
深く頭を下げ、彼らを見送った。これでわたしは今日の仕事を終える。お店の中に戻り、カウンター奥の椅子へと座って彼らを待つ。
クエストは一度受注されると完了、破棄されるまで家に帰ることもできないのだ。
何日掛かるだろうか。
欠伸一つ溢すと天井へと視線が固定された。
予想に反して数時間で彼らは戻ってきた。エストも一緒のようでその顔を見れば、収穫はあったとみていいだろう。
「どうでしたか。勇者様」
「ああ、これであってるだろうか」
腰のポーチから取り出される品々は確かに仕入れリストと同じものだ。エストの嬉しそうな顔からも間違いない。
「勇者様はそれはそれは強くて、もうとてもとてもっ!」
「はい。全て揃ってますね。ありがとうございます。こちらが報酬になります」
「話を遮らなくとも……」
何故かレジから引かれるお金は手渡さなくなくとも勝手に引かれるという親切設計だ。
「本当にありがとうございます。申し遅れました。わたしこの雑貨屋の店員をしておりますチャリティーと申します。よろしければ何か買っていかれますか? お安く致しますよ」
何かのマニュアルを読むようにわたしの口は淀見なく紡いでいく。
「いや、次の機会にしておこう。他に何か困ったことはないか」
珍しい言葉に必要以上に瞬きを繰り返してしまう。
そして、頭上で点滅する文字に辟易しそうだ。
『流行りの雑貨を知りたい : 500ギル : 200EXP』
彼が頷いてクエストが受注された。
彼ら、アイスとリディアとは何度かクエストを通して知り合いになった。
人懐っこいリディアに無口なアイス。
上位クラスの勇者だろうにこんな得にもならないクエストをやりにくる二人は相当な変わり者だ。
クエストが何度もクリアされると内容も個人的なものにもなって、今ではアイス一人がクエストに来ていた。リディアはお邪魔虫がどうのこうのとたまにアイスではない彼氏らしき男の子で買い物に来ていた。
「あ、いらっしゃいませ。アイスさん。今日は何かお買い求めで? 」
「いや、何か困ったことはないかと」
これが彼のあいさつみたいなもので会って必ず聞かれる。
だが、今回は文字の点滅マークは表示されない。クエストのネタ切れだ。というか、毎日のように来られるとクエストもネタ切れになるというものだ。
いや、周回プレイでも始まるのか。
「特にはないかと。大丈夫ですから」
「そうか。……そうか」
どこか寂しそうに見える。
カウンターで何を買うでもなく黙ってしまう彼に困ってしまう。お客さんも滅多に来ないけれど、さすがに店長にどやされそうだ。
「あのー、」
「……また来る」
来られても、クエストは同じのしかない気がするのだが、彼は何しに来てるのだろう。
これは意思を持ったNPCと異世界人であるPCの世界を越えた恋愛になる、かもしれない物語。