私と話す気がありません
幼稚園児の首すじを撫でるのは気持ちがいい。
みんな、肌がなんだか、光ってる。
生きている色。
「きゃっ!うわあ、今!」
「なに、なに?」
「今さわった!ユーレイ!ユーレイィィ!」
「え、ウソぉー!」
子供たちが走っていく。
部屋にいたのが高次さんでよかった、と思った。
なんだかんだで追い出される展開にならなくてよかった。
でも、おかしいな。
さっきの高次さん、様子が変でした。
私の今回のお仕事が終わったくらいの時間。
私は笑顔の妹ちゃんたちには悪いけれど、外に出ます。
廊下を飛翔し。
駆ける脚はありませんが、駆け抜け。
壁をいくつか、すり抜けます。
様子が変、というのは確かですが、幽霊に言われたくはないだろうな。
なんて思うが早いか、彼を見つけました。
音楽室。
誰もいない音楽室でした。
開け放された窓辺によりかかって、外を見ています。
………どうかしたんですか?
そう訊ねたいのですが。
「やってらんねえよな―――」
何か、呟いています。
「抱えてるものの重さでも、負けている、負けていたのか―――あいつには結局勝てなかったな」
ぶつぶつ、呟いています。
なんのことでしょう。
よくわかりませんが、悩んでいるようです。
「………ああ、初江さんか」
もう二時四十分ですよ。
「………そうか。みんな喜んでたか?」
はい。それはもう。
文化祭の出し物にリピーターがついていましたよ。
「でもさあ―――文化祭を楽しめない、奴もいるんだよ」
………それは、どういう。
何か悩んでいる様子だということはわかりましたが、私がお化け屋敷のスペシャルゲストとして頑張っている間に何があったのでしょう。
高次さんは私をぼんやり見つめています。
………私?
私が、何かしたのでしょうか。
思い当たる節は――――まあ、文化祭で幽霊が出しゃばったとか、色々ありますけれど。
どうやら噂が想像以上に広がったらしいですが。
やっばぁ………、私のせい?
私の何かが、高次さんのストレスに?
「なんでしょう………。私が何かやったんですか、誰か、怒っていましたか?不都合があったら」
「いや、そうじゃないけど。今日はありがとう。うちの多々良も無駄にはしゃいでるし、万々歳だろ」
「どうしたんですか」
「………テツと、会った」
「テツって、テツさんと?前に話した。え、だって引っ越したのでは」
「親戚の付き添いだって。運が良かったんだ………会えたのは」
「………」
「そうだ、運が良かったんだ、俺は。悩みと言えば、俺の悩みは友達に裏切られた、とか文化祭が上手くいかなかったとか、あとは―――なんだろう、受験がきつかった、とか。でも―――ああ、くそ、しかも裏切られた気がしていただけで、カン違いで―――俺は」
高次さん、頭を掻きむしります。
テツさんに、ひどいことを言われたのでしょうか。
なんにせよ、これはないです。
失礼です。
だってさっきから、私と話す気がありません、この人。
「………帰ります」
そういって、私は踵を返します。
背を向けて、飛びました。
風を感じることができないのが、若干寂しいですが、あのお化け屋敷は、いい雰囲気です。
帰ると言っても。
実際には文化祭のトップステージ、満員御礼メインイベント会場となった二年四組に戻るのですが。
高次さんは何か事情がある………と、思いたいです。
人が変わったならそれには、何か訳があります。
そう思いたいです。
「………あれ」
私はふと、思い付き、周りをきょろきょろと見回します。
「………きびす………きびす」
呟きます。
私はまず、この校舎の辞書を探します。
国語辞書が置いてある場所を探すのです。
別に小説を書きたくなったわけではありません。
「国語準備室、なんてないから………歴史準備室?いや―――と、図書館だ!」
私は図書室を探してひとっとび。
ようやく本棚だらけの部屋にたどり着きます。
文化祭ということもあって、生徒は一人もいませんでした。
でも構わず私は国語辞書を探して、取り出し。
ポルターガイストパワーでページをバサバサめくります。
人に見られたらいけない光景ですが、周りをきょろきょろ見回しても誰もいません。
いける、いける。
「あった!このページだ!『踵』は―――『かかと』の………雅語………みやびご?的表現………くびす………。と、いうことは」
そうか、踵って、かかとのことだったんだ!
勉強になった。
そして天界からネタが降ってきた!
降ってきましたよ!
「幽霊って、踵を返せませんからアアア!脚がないですからァ!」
誰もいない図書館で、私はツッコミを振ります。
素振りです。
「これだ………!メモしないと………いや、まずは燈ちゃんに報告!そして新ネタの打ち合わせ!ええと、語呂が悪いかもしれないから………」
ちょっと変えます。
「『踵』、返せませんからァ―――ッ、残念!」
完璧です。
なんか、これだけのために随分文字数を使っちゃいましたけれど、これは完璧です!




