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気がするだけ

「よくやった、初江さん、頻度を減らしてもいいぞ」


「もう日が暮れてきましたよ、今更遅いのではないですか」


「文化祭は二日間だ」


「えっ………そうなんですか、今日だけでも結構な来場者だったと思いますが」


「いい具合に噂が尾ひれついている。さっき首を絞められたって騒いでいた奴がいるぞ」


「あ、それって帽子被った人ですか」


「ああ、そういやそうだった。………なんで?」


「動きが速かったので両手で触っちゃったんです、うっかり」


「なにやってんだ………触りづらかったら、他でもいいぞ」


「ゆっくり進んでいる人、ということですか」


「そうだ。………いや、他でもいいな、机や黒板、窓を軽く叩いたり」


「ああ、そういう………なるほどやってみます」


「霊力の具合はどうだ」


「問題ないと思いますよ。体調は悪くありません………身体、ありませんけれど。『人と霊の界』さんのおかげですね」


「いつもやってんのかな、こういうこと」


「設営に関しての手際はプロでしたね」



そんな会話をして、お化け屋敷を抜ける。

後にする。

妹はといえば。

クラスの文化祭に本物の幽霊が助っ人に来てくれているとは露知らずの、妹はといえば。


「すごいお客さん。うちらのクラス評判いいね」


「ほほう、それであの列かあ―――いいことじゃあないか」


「すごいすごい、午後は満員御礼だね!私って才能があるかも!」


「そうだなあ」


「でもお前、幽霊のことはどうなったんだ」


内心で微笑みつつ、問うてみる。


「えー………まあ、そうだけど、調べても今更止められないし。止めて教室内を調べたけれど並んでいるお客さんたちのブーイングがあったし。だから幽霊のデマでむしろお客さんが喜んでいるっていう話聞いて、見送っているっていうか………」


「いや、そりゃそうだが、そういう問題ではなく、だ。思わないの?本物の幽霊が―――って」


「はあ?兄ちゃん、本当に妹を馬鹿にするのが好きだね。よくよく聞いたら人の腕で触られた気がするっていうだけだったし―――『気がする』んだよね。だから、天井から下げたスカーフの所為なんだよ、それしかないし」


「………なるほど」


とても正しい意見であるので俺は頷く。

近くの女子が多々良を呼ぶ。


「多々良ちゃーん、ご飯行こー?」


「あ、はーい、今行くー。じゃ、兄ちゃん、私ぃ」


「おう、行って来い」


なかなか普通にエンジョイしているようだ、よかったよかった。







というわけで、作戦はフェイズ2に移行する。

ゆうめは、人前に現れる回数を減らした。

具体的には、どの程度だろうか。

十人に一人も、会えないだろう。

幽霊には、簡単には会えない。

ていうか普通に生活していたら一生に一度も会えないんだけどな、本来。

これで不機嫌そうな、残念そうな顔をして出口を抜けてくる客は増えたものの、たまには良い反応をするお客もいた。


「マジだ!マジで出たぞ!手のひらで窓をべたって叩いた」


こういった客が何人か、興奮した様子でいれば、鼓舞される。

初江さん、霊的環境は整えてもらったので、『見える』人には見えるらしい。

さらに他の、安易に騒いだりしない生徒も、出てきたときに神妙な表情になっていたりすれば………気になる。

怪しげなものを目撃した人間が増えていく。

もう一回入ってみようと思うのが人情である。


「ドロップする確率が2%しかないアイテムをゲットするために、何十回も同じクエストに出発するゲーマーの心理を突く」


という俺の作戦である。

ゲームは上手い方ではないが、ゲームから得たものは多い。

幽霊を見られなかった、と不満を抱くゲストもいるだろうが、それはどこか、ただの不満ではなく、面白みがない不満ではなく、嬉しい不満だろう。

噂が噂を呼ぶ。


そんなこんなで出店を回りつつ校舎内をうろうろし、二年六組のコーヒーカップを、その行列だけ見て引き返したりして、一日目の夕方が来る。

午後五時。

旧校舎側、人気の少ない場所で待ち合わせ、壁をすり抜けて彼女がやってきた。


「初江さんよ、やったな。一日目。撤収、撤収だ」


「夜、私ここにいていいですか?楽しくて」


「うん?ううん………まあいいけれど、バレるなよ」


「バレてもいいです」


「おい」


「夜の学校に幽霊は、つきものじゃあないですか」


そんなことを言う初江さん。

なるほど確かに―――と思ってしまう俺。

どうも、笑顔に対しては弱く、強く出れない俺であった。




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