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End Of Edo ~幕末~  作者: 吉藻
第三章 黒船来航
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  海防参与・徳川斉昭

 徳川家慶が死去したことは幕府上層部だけの秘匿とされていた。

 その死が公表されたのは一月ほど後になる。


 幕府上層部に属する松平慶永は家慶の死の翌日に次期所軍の後見人として徳川斉昭を推薦する建白書を出している。慶永は未だ攘夷熱の強い青年であり海防について先進的な考えを持つ斉昭を尊敬していた。

 そして阿部正弘は徳川斉昭を海防参与として幕政に参加させることにする。


 海防参与として幕政に参加を許された斉昭はさっそく『海防愚存』という建白書を提出した。

 これには攘夷か開国かをはっきりさせろということが書いてある。未だあやふやな幕府を叱責するような内容だった。

 こうして主導権を握った斉昭は自らの考えを幕府上層部に伝えていく。

 川路聖謨のブラカシ論だ。異国に対しては交渉を長引かせてその間に海防を整えるというものである。

 更には開国することは国際関係や国力上仕方がないが、それを幕府の方針だとは洩らしてはならない。海防強化のためには攘夷をするという強い意志が必要であるから開国融和政策が洩れたら現場の気が緩むということを発言した。

 至極最もな意見であるがこれは斉昭を支持する攘夷派を宥めるためであり攘夷派を率いる巨魁としての発言力を維持するためでもあった。

 幕府はこうして攘夷を公言しながら開国政策に舵を取ることになる。

 この矛盾が毒となり次第に幕府を侵していくことになるのだ。





 調整型政治家であり多くの人物から意見を求めていた阿部正弘は更に意外な手を打った。

 7月1日に大名や高位の旗本だけでなく幕臣全てに意見を求めたのだ。

 更には立て札を立てて庶民からも意見を公募している。

 広く意見を聞いて取り入れるというのが阿部正弘の政治スタイルだ。

 このことは幕府の権威の低下ともとられ幕府崩壊の一因としても知られている。

 一方で勝海舟などの能力のある幕臣を登用することが出来たという面もある。

 幕府崩壊の切欠を作ったのは間違いなく阿部正弘だが、彼がいなければ日本が近代化に向かう切欠がつかめずに諸外国にいいように切り取られていたかもしれない。



 庶民からの意見の公募は失笑するようなものが多い。

 材木問屋が異国船を撃退する罠を作るために材木を買ってくれというものまであった。

 それまで政治に関わって来ていないのだから仕方がないのかもしれない。

 しかし、これが庶民に政治を考えさせる切欠となり近代化への道を開いたともいえるだろう。

 欧州でも市民が政治に感心を持ち始めたことが近代化へと繋がった。ただしそのせいで革命が起きて欧州は酷い混乱に陥ったのであるが。



 学問をしていて政治にも一家言ある武士は下級武士とはいえ聞くべきものがある。

 佐久間象山も意見書を提出していた。

 しかしこの意見書はとんでもないものだった。

 血気盛んな攘夷の意思が書いてある。将軍とは征夷大将軍のことであり夷敵から国を守る将軍のことだ。その原則論からすれば軍を率いて戦うべきであるというものだ。

 そこには一見すると勝算がありそうな軍事的な意見が書いてある。

 西洋砲術の第一人者として学者としての名声のある佐久間象山の意見書であるので説得力も高い。


 しかし政治家として冷静な阿部正弘からすれば愚にも付かない意見だった。

 あっさりと却下されて人目に触れないように破棄された。


 佐久間象山も日本とアメリカの国力差からすれば勝てないことは分かっていた。

 それでも一度戦って負けることで理念のみの攘夷派に現実を分からせることが出来ると考えていた。

 このまま開国しても清のように国力を削られて戦争に追い込まれる可能性がある。

 それならばまずは一戦して負けることで国としての団結を強めることが必要だと考えたのだ。今のように嫌々ながら開国をしつつ口では攘夷を煽るようなことをしていれば国がバラバラになることを見越していたのである。

 後に薩英戦争や長州の4ヶ国艦隊との戦争で薩摩・長州が外国の力を思い知り藩が1つに纏まった。

 そのことを10年早く幕府の手でやろうとしていたのだ。


 早すぎた男、佐久間象山の意見は黙殺されることになる。


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