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End Of Edo ~幕末~  作者: 吉藻
第三章 黒船来航
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  12代将軍・徳川家慶が没す

 嘉永6年6月12日にペリー艦隊が浦賀を去った。

 しかし、幕府の警戒はすぐには解けない。

 幕府が湾岸警備をしていた諸藩に撤兵を申し付けるのは6月15日になってからであった。


 幕府に米国大統領の親書が届いたのが6月14日だった。

 6月15日に幕府は親書を訳すことを大学頭・林復斎に命じた。


 ところで「大統領」という言葉はいつ出来たのだろうか。

 実はこの時である。



 林復斎はやしふくさいは寛政12年に林述斎の六男として生まれた。

 嘉永6年に本家の大学頭を継いでいた甥が亡くなり復斎が大学頭家を継ぐことになる。

 その途端の大仕事である。


 この時にプレジデントを「国王」と訳すには問題があるとして新しい言葉である「大統領」が作られた。西洋の文化が入ってくるこの時期に新しく作られた言葉は多い。

 血筋でなく民の中から選挙で選ばれるプレジデントに対してよい言葉がなかったのである。

 ちなみに大統領は大工の棟梁から来ているという説がある。


 林復斎は親書の翻訳事業から始まり後の対米交渉の最高責任者へとなっていく。


 6月26日。

 阿部正弘は翻訳された米国大統領親書の内容を公開した。

 溜詰諸侯などの一部の大名にではあるが、従来の幕府の方針からすると異例の早さの情報公開である。

 阿部正弘の情報を公開して広く意見を募るという政治方針がここでも発揮されているといえるだろう。



 そしてこの時期に起きた最大の事件を書いておく。

 嘉永6年6月22日。第12代将軍・徳川家慶、死去。





 徳川家慶が死去したことは幕府上層部だけの秘匿とされていた。

 その死が公表されたのは一月ほど後になる。


 幕府上層部に属する松平慶永は家慶の死の翌日に次期所軍の後見人として徳川斉昭を推薦する建白書を出している。慶永は未だ攘夷熱の強い青年であり海防について先進的な考えを持つ斉昭を尊敬していた。

 一方で幕府老中は斉昭のことが好きではない。御三家という身分を振りかざして横槍を入れてくることが少なくはない。会社でいえば役職の無い会長の親戚が重役会議に怒鳴り込んで来るようなものだ。

 更に斉昭は大奥からの受けもよくなかった。

 大奥は莫大な予算を使う。斉昭は大奥の縮小を提言していたので煙たがられていたのだ。

 更に言えば大奥を縮小しろと言いながら大奥の女中にセクハラしていたというエロ爺ぶりが嫌われていた。それはもう生理的に嫌われていた。大奥には政治力がある。女の好き嫌いで政治が動くということもないわけではない。


 幸いにも阿部正弘は大奥からの人気が絶大である。大奥を宥め老中を宥めて斉昭の幕政参加を成し遂げた。



 実は6月14日の時点で水戸藩邸に川路聖謨が訪問していた。

 徳川斉昭を幕政に引っ張り出すためだ。この過激な攘夷論者は海防の専門家であり先進的な人物でもある。

 阿部正弘は既に開国やむなしとの意見に傾いていたが、海防を進めるには斉昭という御輿がないと厳しいと感じていた。

 斉昭も馬鹿ではない。ここでアメリカの使節を砲撃して追い返して戦になった場合に日本が勝てるとも考えていなかった。

 そこで川路聖謨と今後の展望を話し合う。


「アメリカと交渉するということは避けられません。今の国防力ではまともに異国と対峙することは不可能です。交渉をノラリクラリとぶらかして引き伸ばし、その間に海防を強化するというのが最善の策となります。斉昭公にはその海防強化の責任者となってもらいたいのです」


 川路聖謨の言葉に斉昭は頷いた。

 彼としてもこの辺りを妥協点とするしかなかったのだろう。

 こうして徳川斉昭が幕政に参加するとの内諾を得たのである。


 阿部正弘は斉昭の幕政参加を老中・大目付等の幕閣へと通達した。

 斉昭を快く思わない者も少なくはなかったが非常時ということで了承されることになる。


 斉昭が海防参与となったのは7月3日のことであった。


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