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End Of Edo ~幕末~  作者: 吉藻
第三章 黒船来航
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  久里浜上陸

 嘉永6年6月4日、香山栄左衛門が交渉結果を江戸城に報告した。


 6月5日。

 老中や奉行たちが江戸城に揃って登城して親書の受け渡しについて議論していた。

 幕府の方針としては鎖国であり交渉窓口は長崎のみであるから追い返すしかない。それを破るということは自分らが決めた法を破るということだ。しかし、現実的に追い返すのは難しい。西洋の武器の威力を知っている幕府高官には戦って勝てるという考えはなかった。

 議論は出るがまとまらない。終日こんな感じであった。


 阿部正弘の心情が変化したとすればこの日だったのかもしれない。

 それまでは攘夷・海防であったのが、やむなくとはいえ開国に傾いたのではないだろうか。島津斉彬らから西洋事情を聞いて知っている正弘は攘夷が無理であることを悟っていたはずだ。

 とはいえ正弘の独断で親書を受け取るとは決められない。将軍の裁量を頼もうと考えたが将軍・徳川家慶は病に倒れてしまった。老中・幕閣だけで結論を出さなければならなくなってしまったのである。



 6月6日。

 前日は何の結論も出なかった。江戸城内では焦る気持ちばかりが高まる。

 阿部正弘は老中・幕閣たちだけでなく諸大名を江戸城の広間に集めて広く意見を聞き始めた。それまで意見を求められたことのない大名もいたので余計に場は混乱しただろう。

 他人の意見を多く集める調整型の阿部正弘とはいえこれは英断だったのかどうか。混乱を加速しただけかもしれない。もしかすると会議を混乱させた上で自らの考えを押し通すつもりだったのかもしれないが。


 そんな江戸城に報告が入った。

 米国艦隊が江戸湾の内海まで進入して来たというのである。

 すぐに香山栄左衛門が黒船に乗り込む。ブキャナンを通してペリーに抗議したことで黒船は江戸湾から去って行った。


 ペリーのパフォーマンスは効いた。

 江戸城内にいた強硬派が沈黙せざるを得なくなったのだ。

 これで親書受け取り容認派が多勢をしめることになった。


 一方で阿部正弘は徳川斉昭にも内々に意見を聞いていた。強硬な攘夷派である斉昭でさえ親書を受け取るのは仕方無しという返事をしてきたのである。斉昭は西洋の科学力を知っているだけに現実的な見方をしていた。

 この時に阿部正弘は内々に斉昭へ幕政参加を要請している。


 斉昭から反対がなかったことにより阿部正弘の気持ちは固まった。



 6月7日。

 江戸城に集まった皆に向かって阿部正弘は大統領親書の受け取りを決定した。

 その決定は浦賀奉行所に伝えられる。

 ホッとした香山は急いで黒船に向かい話を伝えた。


 親書の受け渡しは6月9日。浦賀近くの海岸の久里浜と決まった。




 嘉永6年6月9日。


 久里浜に400人ものアメリカ人水兵が上陸した。彼らは銃剣を持ち実弾を詰めて臨戦態勢である。

 一方の幕府は諸藩の兵を動員して5000人もの人数を揃えていた。しかし、久里浜を囲むように見守っているだけで火縄銃の弾も抜いていたという。


 少数精鋭で米国のプレッシャーが勝つ中でペリーが登場する。

 日本人の前にペリーが登場するのは初めてだった。姿を見せないことで大物感を出すという作戦は成功したといえよう。


 そのペリーを出迎えるのは浦賀奉行の戸田氏栄とだうじよし井戸弘道いどひろみちである。戸田は55歳で井戸はそれより10歳~15歳ほど年上だったという。

 2人の浦賀奉行を前にして与力にしかすぎない香山栄左衛門は平伏して出迎えた。

 香山を浦賀奉行だと思っていたアメリカ側はそれよりも高位の身分であると勘違いをする。

 大名か将軍に近い立場の人物だと思ったのだ。

 それだけ身分の高い人物が親書を受け取りに来たのであれば圧力をかけたのは正解だったとペリーは思った。香山の嘘に騙された形ではあるが満足して自分の外交方針に自信を深めた。



 久里浜に上陸したペリーは大統領親書を戸田と井戸に渡した。

 今回の儀式はこれのみだった。この間、ペリーと日本側には一言の会話も交わしていない。

 これは話をすると会談をすることになるので日本側が無言を要求したらしい。

 つまらない建前だがこんなつまらないことで争うのも馬鹿らしいのでペリーは承諾していた。


 親書を日本側に渡したペリーは堂々と船に戻って行く。

 単なる手紙の受け渡しではあるが、日本にとっては歴史が変わった大きな日となった。


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